第八話 助けてくれたその人は・・・・

「そりゃそうじゃろ。ここは第二級指定区域、グランドフォレストの最南端なんじゃからの。」


「・・・・そんなヤバいとこにいたの・・・・俺。」


この世界では第一級から第五級までの危険度がある。


階級の基準はそこに生息する魔物の強さに依存する。


第一級は災害レベル、周辺の国家が滅ぶ危険性を孕んでいる。


第二級は都市壊滅レベル、文字通り都市が壊滅する可能性がある。


そして三、四、五と続いていく。


「それと少年、ちとこっちに来てみろ。」


「あ、はい。」


アラタはふらつく足でその男性の近くまで行き、そばにあった岩に腰掛ける。


そして、その男性はアラタに向かって魔法を詠唱し始めた。


「癒しの光・・・・その暖かな輝きで、彼のものを癒せ。ヒール。」


詠唱を終えた途端、アラタの周りに光が集まってきた。


その光は、アラタを包み込むようにして集まり、やがてアラタの傷を治していく。


「これが・・・・治癒魔法。」


みるみるうちに、ぼやけていた視界も晴れ、蓄積していた疲労もすっかり軽くなっている。


アラタは、視界が晴れたためその男性をよく見ることができた。


壮年の割に、鍛え抜かれたその体はまさに筋骨隆々の一言に限る。


顔についている大きな傷跡からは覇気というものを感じられ、正直ビビった。


「よく知っておるのぅ。お前さん、魔学をやっとるんか?」


魔学とは、魔法の歴史や、種類。ひいては使い方などを学ぶ学問だ。


「そんなたいそうなものではありませんが、家にそういったことに関した本が多かったんですよ。」


「ほぅ、勉強熱心じゃのう。気分はどうじゃ?」


「とてもいいです。」


「ならよかったわい。ところで少年。繰り返すようで悪いが、どうしてこんな危ない

場所に居るんじゃ?」


それもそうだろう、今アラタのいる場所は危険度が上から二番目の超危険な場所なのだ。


「えと、俺はいつもここに修行にきているんです。」


「修行?」


「はい。俺、身体能力だけは高いんですけど、魔力量がめっぽう少なくて。

 それで、赤ん坊の頃からちまちま魔力使い切って底上げとかやってたら結構な量になりまして。

 毎日発散しないとなんかもやもやするんですよ。癖みたいなもんですね。まぁ、発散もかねての修行ですかね。」


「ちと待ってくれ、赤ん坊の頃から魔力を使い切っていたといったか?」


「えぇ、まぁ。」


「それは異常じゃないかの。」


「ど、どうしてですか?」


アラタにとっての当たり前を異常といった男性は「はぁ」とため息をついてから口を開く。


「魔力ってのはの、精神力の塊なんじゃ。確かに使い切れば底上げはできるじゃろう

が、

 そんなことができるのは精神が発達し始める・・・・例えば、少年。お前さんくらいの歳ぐらいからじゃないと普通はできんのじゃ。

 それに、魔力っていうもんは使い切ったら生死をさまようレベルの疲労を体に抱えるんじゃぞ?

 それが赤子にできると思うかえ?」



―――なるほど、俺が転生後すぐに魔力を使い切って底上げ徹することができたのはそういうわけか。



通常、生まれたばかりの赤子は、未発達の脳でスタートするわけだが、アラタの場合は違う。


なんせ、前世からの記憶を引き継いで転生している。


前世では、十六歳。発達するどころの話ではない。むしろ成熟しているといった方が早い。


だから、アラタは赤ん坊の状態で魔力の操作が出来ていた。


さらにいえば、疲労に耐えられたのはこの身体能力の高さが所以というわけだ。


「まぁ、実際できているわけですし・・・・・」


「それがおかしいんじゃ・・・・ってまぁよいわ。このままじゃいたちごっこになりかねんからの。

 じゃが、そのことはあまり口外せん方が得策じゃぞ・・・・・妙な連中に嗅ぎまわられるやもしれん。」


「妙な連中・・・ですか。」


「そうじゃ。今の時代、どの国も必死になって魔王への対抗策をとっている。

 そんな時、赤子の頃から魔力の底上げができる逸材がいたらどうじゃ?

 それはもちろん目の色を変えてお前さんに飛びつくじゃろうて。それでひっ捕らえ

たら何をするかもわからん。」


そもそも、アラタがそれを成せているのは転生したおかげなわけで、解剖やら研究や

らしても何も得られるはずがない。


しかし、以前ミカエルから告げられた転生後のルールが頭をよぎり、そのことを口に出すことができない。



―――にしてもこのルール。改めて考えてみると結構面倒だよな。



「とにかく、そのことは他人に言わんほうがええ。これからは気を付けるんじゃぞ。」


と言ってから、その男性は立ち上がりまた歩き始めようとする。


「ちょ、ちょっと待ってください。あの、せっかくですのでお名前を教えてはもらえませんか?」


だが、その男性は歩みを止めない。


「あ、あの―――」


「人に名を聞くときはまずは自分から。じゃぞ。」


これは盲点だった。


アラタがミカエルと出会ったときとは立場が逆だ。


「あぁ、すいません。えと、俺はアラタ。アラタ・パラケル」


「はっはっはっ。ようできたの。わしはハロルド・エルダリオンじゃ。気軽にハロ爺と呼んでくれ。」


そういって顔を綻ばせたハロ爺は、アラタの頭をわしゃわしゃとした。


「それじゃあの。アラタ。次会う時までにオークに殺されたりするのではないぞ。」

あっさり怖いこと言ってんな、この爺さん。


「そうそう。それと、王都に来た時はわしの名前を出すといいじゃろう。」


「どうしてですか?」


「わし、王都エルダリオンの国王兼王立ギルドのギルドマスターなんじゃ。」




・・・・・・どうやらアラタはとてつもなくヤバい人と会話をしていたらしい。


そのヤバさは、この第二級指定区域であるグランドフォレストが比にならないほどに。

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