第三話 

「そういや、彼氏いるのに、よかったんですか?」


「いい。この前言ったでしょ?」


 野坂さんは、そこらへんにいる有象無象の女と違って魅力的だった。汚かった。穢れていた。そこに惹かれた。


「そうすね」


「この前もさ、ちょっと連絡しなかっただけでうるさくてさ、ガキくさいったらありゃしない」


「あ~めんどいっすね」


 適当に相槌を打ちつつ野坂さんを眺める。肩より少し下まである長い黒髪、俺の顎ほどしかない小さな身長、その割には主張の激しい胸。どうしてこんなにもきれいな人がここまで性根を腐らせてしまったのだろうか。


「足立くん?聞いてる?」


「ああ、すみません。野坂さんに見惚れていました」


「もう、ばかなこと言ってないで。ほら、もう家着くからここらへんでいいよ、ありがとうね」


「あ、はい。こちらこそありがとうございました。会えてよかったです」


 別れの挨拶も淡々とすませ帰路につく。駅をはさんでちょうど正反対に俺の家がある。どんどんと野坂さんの家から遠のいていく。その日の帰宅は距離以上に長く感じられた。


 それから数日、毎日のように野坂さんと帰った。二日目からはお互い口数も増えてきて、とても楽しかった。

 そして、それは四日目の日だった。


 野坂さんの家に着くまでは何も変わらなかった。いつも通り別れの挨拶を交わし、帰路につこうとしたとき。


 野坂さんが後ろから抱き着いてきた。


「野坂さん?これえはさすがにまずくないですか?」


「ごめん、寂しい」


 心臓の音が速く、大きくなる。これまでできた彼女ともハグはしてきたが、こんなにドキドキするものだっただろうか。

 野坂さんの手をとって腕をほどき、正面を向いて抱きなおす。


「俺でよければ、寂しさを埋めますよ」


「うん」


 多分、野坂さんは俺がこうすると分かってて抱きついてきたのだろう。話し始めてそう経っていないが、二人ともうすうす気づいている。互いに何を求めているか、求められているか。

 ゆっくりと手を彼女の頭に乗せ、なでながら口を開く。


「お互いにさみしいとき、慰め合いましょう。こうやって肌を重ねましょう。」


「『都合のいい関係』を始めましょう」

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仮称:孤独 @adam1118

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