第一話 足立紘孝1
「あなたたちはついに受験生になりました。より一層勉強に力を入れて...」
始業式、学年集会、HRと同じような内容の長い話を三度も聞かされると頭に入ってこない。生徒たちのやる気のない顔に反して教師の顔は必死だ。まあ、生徒の進学率がそのまま教師の評価になるのだから、それも当たり前か。生徒のほうも、人生を左右する大学受験が迫っているのだからもう少し真剣になってもいいと思うが、まだ部活も引退していないこの時期だから仕方ないか。俺もあまり気が乗らない。
ふと外を見ると、桜が舞っているのが見える。今日は雲一つなく晴れているが少し風が強い。朝もスカートを押さえてキャーキャーわめいてる女子がいて不快な通学だった。女子というのはなぜああもうるさいのか。どうも好きになれない。
ああ、帰りの電車は静かに帰れたらいいのだが。
「足立!足立紘孝、聞いているのか!」
「ああ、すいません、ぼうっとしてました」
「ったく、もう受験生になったんだからしっかりしろ。ほら、HR終わるから、号令かけてくれ」
「俺がですか?」
「クラス会長が決まってないからしばらくは出席番号順で号令をかけてもらうとさっき言ったばかりなんだがな、まあいい、ほら、みんな帰りたがっている、早くしろ」
「はあ、起立、気を付け、礼」
まだやる気のない俺の声に竹島先生は顔を曇らせたが、とにかくHRが終わったなら帰るだけだ。
生徒玄関で菅野と広島に合流して駅に向かう。今日のHRは少し長かったので急がねば。田舎の電車は一時間に一本しかない。
「いやあ、俺らも受験生かあ、青春終わるの早かったな」
「やめてくださいよ菅野君、俺はまだ青春あきらめてないんですから」
「いや広島、二年間彼女できなかったのにこの一年で作って青春謳歌できると思うか?」
「できますって、俺は信じてますから」
「はいはい、足立はどうよ、次の女できたか?」
広島の扱いが相変わらず雑だが、俺の扱いもなかなかだ。
「次ってなんだよ、代わる代わる女作ってるみたいないい方はやめろ、この前にか月の彼女と別れたきりだよ」
「またまた~、もう次の目星ついてんだろ?」
「だからいねぇって。あ、そういや渡辺が...」
からかうように肘で小突いてくる菅野を適当に躱し、ついでに話題も変える。
菅野たちにはああいったが、実はすでに目星がついている。先日ダイレクトメールを交わした「のっち」だ。あの後、数回のアタックで何があったか聞きだし、ちょっとアドバイスをあげただけで妙になついてきた。なんでも、彼氏と付き合いだしたが、実は彼氏よりそのクラスメイトのほうが好きらしい。それがこの前の倉本だと聞いたときはびっくりしたが、あいつと同じ中学だった俺は、あいつになら勝てる、そう判断した。この後も「のっち」こと野坂と会う予定がある。
菅野、広島とは降りる駅が違うため駅で待ち合わせている。先ほど野坂から駅に着いたと連絡が入った。会うのは初めてだし、なにより年上らしいから少し緊張するが、会話の主導権を握っていけばまた一歩踏み込めるだろう。
会ってからのことをあれこれ考えているうちに早くも駅に着いた。菅野と広島に声をかけて少し早足で改札を抜ける。
ええと、野坂は...あれか。
「ええと、野坂さん...?」
「あ、足立君、えっと、初めまして、かな」
「そうですね、初めまして」
「...」
「...」
沈黙。本物の野坂はSNSのアイコンよりも数倍綺麗だった。電車で考えていたことを一気に忘れ、何も切り出せない。
「とりあえず、歩きましょうか」
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