閏14話 ニイタカヤマノボレ一二〇八
暦の話をもう少し。
よく知られているように、12月8日は真珠湾攻撃によって太平洋戦争が始まった日、として日本では知られているが、米国では時差の関係で12月7日とされている。日本時間がグリニッジ標準時(GMT)+9、当時のハワイ標準時が同-10.5、両者の時差は19時間半。実際の攻撃を受けたハワイ真珠湾は1941年12月7日午前7時半過ぎだったので、日本時間では翌12月8日午前3時頃だったという計算。
このような差が生じる原因は、日本側の攻撃が日付変更線を越えて東側で行われたせいだが、一方で日本の司令部から送られた作戦決行の命令が「ニイタカヤマノボレ
当然ではあるが、このような広範囲にわたる軍事作戦においては時間を統一することが重要で、日本は調べた限りずっと日本(中央)標準時を作戦時間として使用していたようだ。元々日本国内に時差がなく、時間の表記にタイムゾーンを併記する習慣のない日本では、その方が誤解なく簡便であったものと思われる。しかし作戦領域が広がると現地時間との差が大きくなって不便もあったかと思うのだが、逆を言えば当時の日本軍はそれほど広大な作戦範囲を抱えることを組織的として準備していなかったと言うべきなのだろう。
一方の米国は、国内に東海岸時間からハワイ時間まで六つのタイムゾーンがあり、時刻を表記するにはタイムゾーンの添記を必要とする社会である。これなら作戦範囲が広がっても大丈夫、と言いたいところだが、流石に大西洋と太平洋を超えた、欧州から東アジアに至る広域での作戦ではそれまでのタイムゾーン表記では無理があったらしく、また連合軍として他国の軍隊との共同作戦を行う必要もあり、新たに軍用のタイムゾーン表記法を開発している。これが所謂「Military time zones」というやつで、GMTから一時間単位で順番にアルファベットのJを除いたA~Zを割り当てている。日本の+9はIゾーンであり、GMT(UTC)はZゾーンである。(*1)
このMilitary time zonesは現在も使われているが、特にGMTやUTCを示すときに時間の最後にZを付ける「Zulu Time」もしくは「Zebra Time」がよく知られている。米軍の合同台風警報センターで発表される予想進路等で時間がZを付けて表されているし、日本の気象庁が提供している数値予報などのデジタルデータもZを付けた時間で表されている。(*2,*3)
というか、それ以外は余り見かけない。タイムゾーン時刻と実際の現地時間にはズレがあり、また30分単位の時差を採用している国や地域もあるため、実用的ではないのかも知れない。
Military time zonesがあれば現地の時間帯を指定して時刻を表記できるはずが、実際にはUTCを表すのに使うのが専らというのは、なんというか、一週回って同じ所に落ち着いたんじゃないかという気がしないでもない。
「日付を表す」という一つ事だけでも、これだけ面倒なのが暦というやつなのである。
*1
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_military_time_zones
*2
https://www.metoc.navy.mil/jtwc/jtwc.html
*3
https://www.jma.go.jp/jp/metcht/suuchi.html
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