閏13話 1868(慶応4)年 閏4月3日

 暦の話をもう少し。


 2019年7月28日放送のNHK「歴史秘話ヒストリア 最後の大名 時代を駆ける」(*1)を見ていたら、『1868(慶応4)年 閏4月3日』なんてテロップが出ていた。


 なんだそれは……。


 閏4月、ということはこの日付は和暦の月日であると思われるのだが、これに西暦年を当てるのは、控えめに言って宜しくない。既に何度も書いている通り、グレゴリオ暦と和暦では一年の始まりの位置も一年の長さも異なるためで、厳密に年月日が一致しないからである。なので年月日で一貫した暦を使い、別暦日を添記するのが歴史学の世界では通例なのだが……諸般の事情でこういう書き方は目につくのである。なにしろ高校までの歴史の教科書でまさにこのような書き方を許しているからだ。

 しかしだからといってこのような書き方が好ましいわけではないため、一応NHKにご意見を送っておいた。

 もしこの「閏4月」というテロップがなかったら、番組中の年月日の表記が「西暦年(和暦年) 和暦月 和暦日」という並びであると、気づくことができないではないか。


 で、なぜか返事が来るまで一ヶ月かかったのだが、次のような回答だった。


【引用】

ご指摘の通り、私どもでは年代の表記につきまして、西暦(グレゴリオ暦)と和暦を用いた場合、「西暦年(和暦年)年 和暦月 和暦日」と表記しています。

西暦年を前に持ってきているのは、それのほうが視聴者の方にとって、「現在から何年前のことなのか」、また「時間経過がどのくらいなのか」、わかりやすいと考えているためです。

つまり、「明治2年」より「1869年」の表記の方が、「現在から何年前のことなのか」わかりやすく、また、「安政6年」→「明治2年」という表記より、「1859年」→「1869年」という表記の方が、「時間経過がどのくらいなのか」わかりやすいのではないか、ということです。

また、和暦の月日にさせていただいているのは、歴史上の月日を和暦で覚えている視聴者の方が多いと考えているためです。

例)関ヶ原の戦い:9月15日(和暦)、10月21日(西暦)

【引用ここまで】


 番組として一貫してそういう表記を採っていて、その理由も説明してくれているのだが、視聴者がそれを察知し得るか?あるいは前提として承知しているか?については検討されていない模様。

 いやまあ、通常の視聴者は和暦と西暦の間の日付の食い違いなどそもそも知らないと言われてしまえばそこまでだが、それを放置してしまうのはどうかと思うのだが……。


 ともあれ、「歴史秘話ヒストリア」では学術的正確さよりも視聴者の分かりやすさを優先し、その結果視聴者が誤った知識を身につけてしまっても仕方ない、というスタンスらしい。気づく視聴者だけが承知していれば良い、ということなんだろう。


 史学出身者としては大変残念なことだが、そういう番組であると肚をくくって見るしかないらしい。


*1

https://www.nhk.or.jp/historia/backnumber/390.html

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