閏11話 夏至の陽は長く

 暦の話をもう少し。


 最初に断っておくと、今回の話、オチがない。


 六月は最も昼間の時間が長くなる「」のある月である。グレゴリオ暦では大体6月22日頃。この日に向かって日の出は毎日のように早くなり、太陽はどんどんと高さを増し、日照時間は延び、日没は遅くなる。これが最高に達する点を夏至というわけだが、別にそのこと自体は謎でも何でもない、極普通の天文現象である。


 が、しかし。


 これは飽くまで北半球から見た話であって、同時期、南半球は最も陽の短い点へ向かう冬の季節である。

 果たしてこれを「至」と呼んで良いものだろうか?

 いやまて。そもそも二至二分を「春分」「夏至」「秋分」「冬至」と呼び習わすわけだが、これは北半球と南半球で指し示すものは同じなのだろうか。

 学術的に正確を期そうとすると、太陽黄経の角度で表すのが恐らく間違いがないと思うのだが、黄経0°と日常的に言ったりすることはまずなかろう。

 概ね日本語話者は日本ならびにその近辺に集中しているので多くの場合問題になることはないと思うのだが、私の親戚のようにブラジル移民の日系一世などは果たして現地で「夏至」という言葉を何処に当てはめているのか、大変気になって仕方ない。


 しかし、であれば、世界言語である英語などでは一体どう表現しているのだろうかと思って調べてみたところ、通常「夏至」は「Summer solstice」もしくは「midsummer」というらしいのだが、これは北半球と南半球で指す日にちが違うのだという。厳密に「北半球の夏至」を示したいときには「June solstice」(六月の至点、とでも訳すか?)と呼ぶらしいのだが、あまり一般的ではなさそう。ともあれ、定義の異なる用語が用意されているということは分かった。


 日本語において「June solstice」に当たる語が見当たらないところを鑑みるに、言語が使用されている環境の暗默の前提というのは強固なんだなぁと思わずにはいられない。国立天文台のページですら当然のように日本を基準にしているし*2、南極観測隊も「南極の夏至」といって現地の冬の最中を示している*3。

 どうやら日本語では現地の季節とは関係なく「日本における季節」で二至二分を示すのが暗默の了解事項と思われる。つまり日本語では「南極では冬に夏至が来て夏に冬至を迎える」わけである。


 さても誰も困らないくせに、難儀な話なのである。

 私だって親戚にブラジル移民がいなかったら、こんなこと考えもしなかっただろうが。



*1

機会があれば聞いてみたいが、天文に興味のある人じゃないからなぁ


*2

https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B5A8C0E12FA4C8A4B3A4EDCAD1A4EFA4ECA4D0.html


*3

http://science-museum-blog.nipr.ac.jp/blog/2018/06/post-2e5e.html

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