余話
閏1話 慶長五年九月十五日
暦の話をもう少し。
この原稿を書くきっかけは、twitter上で「#関ヶ原2018」なるイベントが進行していて、それについて「西暦では1600年10月21日」という突っ込みが入っていたことだった。(*1)
厳密に言えばここで言う「西暦」とはグレゴリオ暦のことで、ユリウス暦では1600年10月11日なので突っ込む方もいまいち不正確だな、などという感想を抱いたりする。
さて、東京都港区は泉岳寺で赤穂浪士を供養するために執り行われる「義士祭」は、毎年12月14日である。第1話(*2)で書いたように、グレゴリオ暦に換算した日付は翌年に入っているため、果たして12月14日に挙行するのは正しいのか?という疑問が、先の「#関ヶ原2018」同様に発生するのは当然だと思われる。
が、正しいのである。
「法的に正しい」のである。
日本が〝太陽暦〟(グレゴリオ暦)を採用した際の法令は、「明治五年太政官布告第三百三十七号」で
この法令には「一 諸祭典等旧暦月日ヲ新暦月日ニ相当シ施行可致事」という一文があり、この条文を根拠として、「諸事祭典は旧暦の月日を新暦の月日に当てはめて施行する」ことが合法化されている。
つまり、旧暦12月14日に行われていたイベントを新暦12月14日に行うことには
従って「#関ヶ原2018」なるイベントを新暦9月15日に行うのも法的に正しいし、七夕は毎年梅雨の最中に行うのが正しいのである。
当たり前だが、暦の変換などコンピュータ・ネットワークが発達した現代だから比較的簡単に結果を得られるようになった話であって、かつては長暦、「三正綜覧」や「日本暦日原典」を参照して確認しなければならなかったわけで、誰でも簡単にできるわけではなかった。だから、これはこれで便法としてアリだろうし、特に不都合のある話でもない(七夕を梅雨の最中に祝うのは不都合ではあるが)。天文学的な正確さを求め始めると、閏年の問題や歳差の問題など、キリがないというのもある。
なので、法的に許される前から「西暦の年号と和暦の月日を組み合わせる」この種のちゃんぽんは散見することができる。
17世紀の日本にはキリスト教カトリックの宣教師や西葡英蘭等の商人が滞在し、様々な文献を書き残しているわけだが、その文献の中には年号を西暦で書き、月日を和暦で書いたものが実在する。リーフデ号事件で日本に漂着したメルヒヨル・ファン・サントフォールトなどがそのような日付の文献を残しており、遭難という事態が挟まったからか、正確な西暦の日付(当時のオランダはグレゴリオ暦を使用していた)が分からなくなったのかも知れない。
日本側の事例では文久二年正月元日に京都で発行された〝日本最古の新聞〟の日付が「1862年1月1日」になっていたことが2014年2月に報道されたこともある。文久二年正月元日はグレゴリオ暦なら1862年1月30日なのに、である。新聞を出すくらいなら日付くらいは正確にして欲しかったが、今さら言っても詮なきことである。(プラウダだって東スポだって日付は正しいのに!)
事程斯様に暦上の一点を正確に指し示すのは大変難しく、またそれを「○年後の同じ日」などと言い出し始めると、まず「同じ日」の定義から始めないといけない。我々は毎年誕生日を祝うが、それはあくまで暦法上で同じ日なだけで、天文学上で地球と太陽が同じ位置関係にあるわけではない。2月29日生まれの人は四年に一度しか歳を取らないわけでもあるまいし。
つまり、概ね「適当」なのである。
学術上正確さが求められる場面は勿論存在し、そのような場合には正確さを求められる範囲で担保すべきであるし、基礎的知識として把握しておくべきであると思うが、そうでない場面ではそれらを踏まえた上で相応に適当に済ませるのが良い知恵であると思う次第。
*1 https://twitter.com/arapanman/status/1040773743662948352
*2 https://kakuyomu.jp/works/1177354054886223897/episodes/1177354054886223913
*3 http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=105DF0000000337
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