第53話 コーヒーとともに③
正面から顔を見合わせた二玖と青年はお互い「あ、」と止まった。
「お邪魔しています」
会うのはこれで三度目だ。
「岬です。岬四郎」
さすがにもう知っている。
「フクさん、奇遇だ」
二人の様子を見ていた多古田さんが声を掛けた。
「すでに顔見知りみたいだけど、彼、岬くんが例の、父の元、寺で働いていた青年だ」
多古田さんはリュックのポケットから飛び出ている書類の束を横目で見ながら彼に尋ねた。
「今日は何かわかったかい?」
多古田さんの質問に目を輝かせた岬青年はリュックを降ろした。
「最近曾おじいさんが亡くなった、元隠れキリシタンのお宅で話を聞かせてもらったよ。そのおじいさんが大事にしていた物のなかに、お札があって」
紙とペンを出すと彼は文字を綴る。
『礼奉来会』
「…らいぶらいえ、と読む」
「場所の名前らしい。一体どこで何をする場所かはわからない。実際に行く様子もない。何かの暗号みたいにただそう呼ぶことにした、そんな感じだったらしい。その場所にもう行くことができない代わりにいつも心の中にあって、例の、額縁があるだろう。あれの内側にあると信じて壁を撫でて祈るのだという。そうしていればいつか、来奉来会にゆくことができるとも言っていたらしい。いずれにしてももう誰も詳しいことはわからない」
岬青年は二玖のほうにくるりと向き直り、好奇心いっぱいの顔でそう言った。
「信仰の内容は、僕が子どもの頃から目にしていた隠れキリシタンのものとはまた、違っている。以前に話したよね、自分がキリシタンだと、誰もが隠す結果、信仰は統一されない。どんどん細分化される一方だった、って」
いつのまにか席を立った多古田さんが、岬青年にコーヒーを運んできた。お揃いのカップだ。
「その近隣の隠れキリシタンにとって、信仰する対象はその『場所』なんだ」
青年は恐縮して多古田さんに礼を言い、カップを口に運ぶ。
「…それが一体どこにあるのか。誰も知らない。もしかしたらもうないのか、それともそんな場所は始めからないのか。その読み方だけど、ライブライエ、って、英語のライブラリー、に似てるだろう。だから通称、『図書館』とも言っていたらしい」
ここで初めて二玖は声を上げた。
「図書館──」
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