明け方に

@mirime

明け方に

「暑い」


こんなに暑いんだったら絶対そろそろ地球終わるな。

はー、いつになるかな終わるのかな。終わるんだったら俺が生きてる時に起こんないかな一応見てみたいし。なんで終わんのかなー、戦争..宇宙人の侵略かな。


みのるー、お昼だけどそうめん食べるー?みんな向こうで食べてるよー」


馬鹿なことを考えてると母さんに現実に連れ戻された。というかいつのまにそんな時間に。

昼ごはんか、でも今はあんまりそんな気分じゃないかな


「うん、今はいいよお腹すいてない。」


「そう?お腹すいてないならいいけど、まだ結構残ってるからもう少ししたら来なさいよー。」


「うん」


自分は今夏休みで親と一緒に祖父母の家に来ている。自分の家からはかなり遠い田舎だ、なんでこんなことに一回しかない高2の夏を過ごさないといけないんだろう。実際来てみればやる事と言えば今みたいに縁側でゴロゴロしながら馬鹿なことを考える事ぐらいだ。一応ここから30分ぐらい歩いた所に海があるのだが、まず行きたくない。あと他に何かあるかと言えば今目の前にひまわり畑があるくらいだ。


「はぁ、早く帰りたい。」


耳に片方だけ付けてあったイヤホンを外す、さっきから聞こえてた蝉の声がより一層耳に響いてくる。

蝉は元気だな、少ししか生きられないのに自分よりもずっと元気だ。


自分はそんなことを考えながらイヤホンを両耳に付け直す。

これであのうるさい蝉の声は聞こえない、少しの命を騒いで過ごしてるような生き物の鳴き声なんて聞いていられない。

何か曲でも聞くか。




音楽プレイヤーで曲を再生する。イヤホンから音楽が鳴り始める、落ち着いた優しいギターソロが聞こえてくる。


「懐かしいな、Grasslandだったよな、確か」


Grassland(グラスランド)、外国のスリーピースバンドであまり有名ではなかったけど自分が昔よく聞いてたバンドだ。ギターボーカルが女性でこの人の演奏も歌もとても綺麗で少し前までは毎日のように聞いていた。それに今流れてるこの曲は自分が一番好きだった曲でもあって久しぶりに聞いたのにさっきまで聞いてたんじゃないかと思うように次へ次へと歌詞とメロディーが頭に浮かんでくる。



この曲は自分の父も好きな曲だった。

自分の父は二年前に交通事故で死んでしまった。なんの取り柄もない普通の人でくだらない事でいつも笑っている優しい人だった。父は仕事の帰りに信号無視で突っ込んで来た車からぶつかりそうだった男の子をかばって亡くなった。テレビでニュースを見て交通事故の話題を見て怖い怖いと言っていたあの。虫も殺さないような父が子供をかばった。自分はそんな父の話を聞いて父を、父に対して始めてかっこいいと思った。

その父が好きだった曲、この曲、Grasslandは、自分が父のようになりたいと思って、かっこよくなりたいと思って聴き始めたのだったような気がする。

自分は今までなんの取り柄もなく学校などではずっと一人でいて音楽ばかり聴いていて、とりあえず高校に入ったはいいもののまた一人で過ごすことになってしまった。今では本当に自分が何をしたいのかわからない。ずっと鳴いてばかりの蝉のの方がまだましなんじゃないかと思うほどに。


そんな昔の事を考えていうちにいつのまにか自分は眠ってしまった。



目がさめる、月の光が体に染みる。


「いつのまにか寝てたのか。」


時計を見る、ほぼ11時ちょうどぐらい。


「どんだけ寝てたんだよ自分。」


昼から寝てたせいで今からは寝れる気がしないしどうしようか。

自分は辺りを見渡す、天気がとてもいい雲一つとない。月がとても綺麗だ。夏だが海が近いこともあって結構涼しい。


「少し散歩でもしようかな、流石にそろそろ体動かさないとだしな。」


体を起こす。所々体の部位がギシギシ言う。下に布団も何もひいていなかったせいで体中が痛い。うぅ、寝すぎなのもよくないな。


ちょうど縁側だからすぐそこにサンダルがある。

これでいいか。

サンダルを履いて外に向かい歩いていく。


「あ、音楽プレイヤー。」


この音楽プレイヤーは小さい頃からずっと持っていて今でもちゃんと使っている。亡くなった父から買って貰ったものだ。


さてと、散歩するとは言ったもののどこに行こうか。この近くには確か...そうだ、子供の頃迷ってたまたま着いた海の上の高台があったはずだあそこなら涼しそうだな。


そして自分は海の上の高台にに向かって歩き出した。


「なんか聴くか。」


音楽プレイヤーを見る、その画面には「Grassland」と写っている。

そういえばさっき聴いてたんだっけ。途中で寝たけど。

自分は音楽を再生しイヤホンを耳に付けて歩く。


音楽に耳を澄ましながら歩いていると右側に海が見えて来た。


「あれ、もうこんなとこまで来てたのか。じゃあもうすぐだな。」



そこから五分ぐらい歩くと目的の高台に着いた。

辺りは一面芝生のようになっていて草原みたいだった。ふさふさだ。

気持ち良さそうだな。

自分は適当に歩いて見晴らしのいいところで腰を下ろす。


「お、本当に結構気持ちいいな、しかも涼しい。」


自分はそのままその場で横になる。上には月がちょうど真上ぐらいに来ている。

イヤホンからは音楽が流れている。曲に耳を傾ける。ちょうどまたあの曲になっている、思い出の曲に。


そういえば子供の頃ここに来て迷った時見つけに来てくれたのは確か父だった。


「そうだ、確かその時だ自分が父に聞いたんだ。」


「お父さんは何か怖いものってあるの?」



「そうだね、お父さんが怖いものか。うーん怖いものって言ってもいっぱいあるしなー。でもやっぱり一番怖いのは死んでしまうことなんじゃないかい?」


「死んでしまうこと?」


「そうだよ。」


「なんで?」


「うーん、そうだなーまあ死んでしまったらまず実に会えないしね。それにお母さんにも会えない。」


「うん。」


「でもねぼくが一番嫌なのは死んでしまったら諦めた事になってしまうからなんだよ。」


「どう言う事?」


「ははは、確かにこの話はまだ実るには早いかもね。でもね聞いてほしい、そして覚えていてくれるなら嬉しい。」


「うん。」


「死ぬと言うことは諦めてしまうことなんだよ。でもいつか人は必ず死んでしまうんじゃないのとおもってるでしょ。まあ、そうだねでもねぼくが言いたいのはってことなんだよね。つまり死んでしまうという生きている以上絶対に避けられないこの現象は諦めなければならないことなんだよ生きている以上はね。でもねそれ以外の事、辛い事そうだね例えば父さんの働いてる会社が潰れたとしよう。あ!違うからね!あくまでの話だからね!ははって笑い事じゃないんだけど。まあ父さんの働いてる会社が潰れたとするじゃん!そしたらどうなるかなお金が無くなるから仕事を見つけないといけないね、でもね世の中にはそれで人生を諦めて死んでしまう人もいるんだよ。その人達は諦めてしまったんだよ。でも僕はね絶対に諦めないよ。仕事が無くなったなんてそんな死ぬのに比べたらしょうもない事で諦めたりはしない。まだそれは諦めるほどの事じゃない。そこで諦めたら死ぬそれはもう死んでるようなものだよ、ここで諦めた人たちはもう助からない。

だからね、僕はそれがとても怖いんだよ。」


「ははは、やっぱ難しいね。簡単に言うとね死んでしまうと言うのは諦めると言う事、諦めると言うのは死ぬと言う事ってことなんだ。だからね僕は死ぬのが怖い、諦めるのが怖いんだ。だから僕は諦めたくないんだ絶対に絶対に。」


「...」


「だからね実も諦めないでほしい、どんなことがあってもその時までは。そしてこの事をもっと他の人にも教えてあげてほしいんだ。今この時にも諦めてる人が、諦めかけてる人がいるかもしれないだからそんな人達を助けてあげてほしいんだ。」


「わかった」


「うん、ありがとう。」



目が覚めた、ここは。そっか、また寝てたのか。全く本当に寝るのが好きだな自分は。


「...」


なんで今更こんな夢を、そんな事より今何時だろう辺りを見渡すと少し空が赤みがかって来ている。もう明け方だろうか。


「何してるんですか。」


「うわっ!」


急に真上から顔を覗かれた、女の子だ見た所自分と同じくらいの年齢だろうか。なんでこんな時間にここに。


「な、何って..その..寝てた」


「.....」


えー


「そ、そんなことより君こそなんでこんな時間にここに?」


そうだ、確かに朝と言ってもまだ早朝だ一体何をしに


「死ぬために来ました。」


寝起きだったので頭が回らず最初何を言ってるのかわからなかった。


「どう言う事?自殺?」


聞いてしまった馬鹿なんじゃないか自分。


「はい」


ははっ、どうやら本当にここに自殺しに来たみたいだな。でも、


「でも、なんで死ぬの?何があったの?」


「.......いじめ、学校でも家でも。もう生きたくないだから来た。」


いじめか、自分もやられたことがあるからわかるすごく辛い死にたくなる。でも、でも


「君は諦めるの?」


「..どういうことですか」


「死ぬのは、諦めるのは。最後に、自分が出来ること全部やって、やることがなくなった時に全部した後にしよう。」


「...意味がわかりません、何故自分からまた辛い思いをしないといけないんですか。


そうか、やっと今になって父の言ったことがわかった気がする。


「君はさ、蝉の事どう思う?」


「蝉。ですか?ただ鳴いてばかりのうるさい生き物ですよね?」


「うん、僕もそう思ってたよ。でもね、蝉は子孫を残すために、雌を捕まえるためにあぁやって鳴くんだよ。少ししかない命を削って。」


「...」


「最後まで諦めないんだよ。」


だから父は、


「だからね自分が君に教えてあげないといけないんだよ。諦めないということを。」


「...なんでそんなこと」


そんなの決まってる


「諦めないでほしいからだよ。ほらこっち来て座って、まずは音楽でも聞いて落ち着こう。自分が一番好きな曲なんだ。」



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