零章 プロローグ
転落
「はぁっ…はぁっ…」
な…なんで…
「はぁっ…はぁっ…」
なんで…あの子が……
大雨が地面を打ち付ける中、呼吸を乱しながら私は逃げていた。
彼からの「たすけて」というメッセージを受け取った私はすっ飛ぶように家を出た。
そして公園で彼の姿を見つけた。
――だけど彼は既に屍になっていた。
犯人と思わしき人物の顔を見たとき私は身動きがとれなくなってしまった。
その顔は見覚えがある人物の顔だった。
が、そこにいるわけにもいかず、生まれたての小鹿のように震える足を無理やり動かして私は自分の住むマンションに逃げた。
出来るだけ曲がり角の多い道を使って。出来るだけ足音をかき消して。
マンションに着き、階段を一段抜かしで上り、急いで自室に入る。
「はぁっ…はぁっ…」
乱れた呼吸をドアに寄りかかりながら整える。
肌や髪に降り注いだ雨を軽く手で拭い、ポケットからスマホを取り出し警察を呼ぶ。
「えっと……1…1…………」
雨に濡れたのと寒さのせいで指が思うように動かなかった。
そしてその時だった。
タッタッタッタッ…
ドアの外から足音がした。きっと犯人のものだろう。
私はドアから離れた。
そしてゆっくりとリビングへ近づく。
包丁でも持って威嚇しようとキッチンの引き出しを開けた。
そして無事包丁を取り出し引き出しをつまみを掴みながら元に戻した。
ドンドンドン!!!ドンドンドンドン!!!!!
ドアを思いっきり叩く音がした。
そして不運にもその音にびっくりした拍子に包丁を離してしまった。
私は体がすくんで動けなくなってしまった。
ガチャッ
「あ、開いてる…」
えっ…嘘でしょ…
せっかくここまで逃げたのにここで殺されちゃうの…?
包丁を拾おうとしたが犯人がこちらへ向かってきたので反射的に逃げてしまった。
今度は涙で顔が濡れた。
「へへへ…怜美ちゃん……怜美ちゃん……」
そう言いながら一歩一歩近づいてきた。
こうなったら隣の部屋に逃げるしかない。そう思いベランダの鍵に手を掛けようと背を向けたその時――
「ぐっ…」
犯人に後ろから首を掴まれてしまった。
そして徐々に強く絞めていった。
「私悲しいよ。だって私怜美ちゃんのことが好きなんだもん。あんな男の何倍も何十倍も愛してるのよ?なんで?なんでこんなに愛してるのに私から逃げるの?」
確かに私もこの子が好きだ。ただ、友達としてという意味で、決してそっち系の意味ではない。
正直気持ちが悪かった。
私はただの友達――よくて親友なんだと思っていた。
それなのに――
「ねえ、私のこと好きって言って?おねが――」
「うるさい!ほっといてよ!!」
絞まっていた手が緩んだのを見計らって私は向きを変え、犯人を突き飛ばした。
そして今度こそベランダの鍵を開け、飛び出した。
ベランダから隣室に行くのは初めてだった。
私は柵によじ登り、反対岸の柵を掴んだ。
しかし足がうまく動かなかった。
そして公園で犯人から逃げた時のように足を無理やり動かそうとした。
――だけどそれが命取りだった。
私はバランスを崩し、倒れた。
しかも外の方に。
私は降り続ける雨と平行に落ちた。
「うっ…」
地面に頭を打ち付けた。
一瞬刺すような痛みが襲ったが、すぐにその痛みは消え去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます