外を目指して


 なんか良く分からないけど目まぐるしく事態が動いて警報が鳴って気が付いたらショゴスロードである白髪の少女……じゃなくて女性。

 軽く180㎝はありそうなキリッとした顔付きの女性の脇に抱えられて運ばれているのが私。


 えっと、本当にどうなってるの???

 というか可愛かったショゴスロードちゃん?さん?がなんで大きくなってるの?

 それ以前にさっきの巨大な腕なんなの?

 黄緑色っぽい感じの色だったし……


「サルタナは気づいているか?」


「魔力の事?確かに今のように魔力が充満してると助かるけど、今まで無かった場所を態々満たすなんて嫌な予感しかしないね!」


「同感ですね」


「よし、魔法いける!

 ミリアーナのかんぎゃっ!?」


「えっ?」


 今……サルタナちゃん自分から壁に体当たりしなかった?


 あ、これ触れない方が良いかも、何事もなかったかのように装ってるけどものすっごく不機嫌だ。


「おい、今のなんだよ?」


「なんでもない!」


「そうだぞ、レディーに対してこれ以上の恥を掻かせるような真似はするものではない。

 むしろ一時的に自身を含め他人すらも霊体とし壁をすり抜けようとするなど魔力操作に絶対の自信がなければできん芸当だぞ。

 この我輩とてそんな真似できん」


「お前……良い奴だな、お礼に魔石をあげよう」


「素敵なレディからの贈り物だ、有り難く受け取っておきましょう」


 なんか……服装も相まって物凄く紳士的に見える。

 マルクさん達が言ってたようなワームをけしかけたりするような人に見えない。

 いやまあ、初対面の時とは対応が全然違うんだけど、もしかしてサルタナちゃんの事を認めたって事かな?


「ん!こっちは危ないから向から行くよ」


「はぁ!?ちょっと待てどういう意味だ!」


「ただの神域直感だから!」


「ほお!神域直感まで所持しているのか、これは心強い」


「神域直感?」


「未来余地に限りなく近い第六感である。

 直感という名の通り自身の意思では見えんが、極限の集中状態での戦闘では連続して発動するらしくてな。

 我輩も神域直感の使い手には貴様ら三匹相手にするよりもずっと骨が折れる思いをした。

 それが味方にいるとはなんとも心強い」


 み……未来余地。

 じゃあ…………ん?


「………なんか聞こえた?」


「ッ!?これは……できれば二度と聞きたくなかったなぁ」


 あ、私の勘違いじゃなかったみたい。

 幻狼さんも聞こえたみたいだけど……


 テケ…………リ………


「あ、また聞こえた」


「テケリ・リって感じ?」


「あ、それそれ」


 完璧すぎてビックリしたくらい上手かった。


「これ、私達ショゴスの鳴き声みたいなものだよ」


「シェリー!どっちから聞こえた!?」


「え?……あっちだよ」


「分かった!

 ハアアアアッ!カタストロフィスラッシュ!!!」


 ザンッ……ズガガガガガガガッ!!!


 私が指差すとサルタナちゃんは立ち止まり一閃。

 剣を振ると空中が紫色に切り裂け、その隙間から聞いたことの無い音と見たことの無い程の物量の衝撃派が放たれ続ける。


「この通路塞いだからこっち行こう。

 あ、一応確認だけどショゴスロードはこれを潜り抜ける事できる?」


「………無理かな。

 死んだりはしないけど細切れになるしくっつくのに時間かかる」


「やっぱり斬撃じゃ愛称悪くて殺せないかぁ~。

 まあ仕方ない、時間稼ぎができれば良い」


 こうやって話している間も紫の亀裂から紫の衝撃派が出続けてる。

 攻撃は最大の防御だってサルタナちゃんが自慢?してたけどこういうことか。

 うん、こんなの突破するなんて無理だよ。


「ッ!?しゃがんで!」


 サルタナちゃんが叫ぶと同時に壁から現れた玉虫色の大きな口が襲いかかる。


「鳳凰天舞ッ!!!」


 のをサルタナちゃんの言葉に一早く反応した幻狼さんが懐に入り込み蹴り上げ私の目では追えない速さの連撃でふっ飛ばした。

 か……カッコイイ!!!


「ヴァーミリオンサンダーボルト」


 眩しッ!?


「……まさか本当に共闘する事になるとはね」


「フフフ、その考えこそ下らない。

 お互い利害が一致してるのだからね。

 それより先程の鳳凰天舞?ショゴスに一切ダメージを与えられていませんでしたよね?」


「うるさいな、そんなの私が一番理解してるって。

 ほら、今のうちに行くよ」


「……大丈夫シェリー?」


「ちょっと目がチカチカする……

 それに鼻も……なんか凄く臭い………」


「それ……たぶんショゴスの匂い」


 え?ショゴスってこんなに臭いの?


「む……すまないレディー、ショゴスの細胞を焼く為とはいえ配慮が足りなかったな」


「いえ、戦力外も良いところなんで気にしないで」


 戦力外どころか完全にお荷物だもん。

 こんな速く走れないし置いてかれたら絶対死んじゃうもん。


「私もレディーなんだが?」


「敵でしたからね。

 でなくともそういう呼び方をするとプライドを傷付けてしまうと思って控えていましたがそう呼んだほうが宜しいでしょうか?

 気高きレディー?」


「なんか調子狂うからやめろ」


 テケリ……リ………


「………なんか、進行方向の至るところから沢山聞こえてくる気がするんだけど気のせいだよね?」


「気のせいだと良かったね~」


 あ……気のせいじゃな………


「ちょっ!?ちょっとあれ!?通路完全にスライムで埋まってるじゃん!!!」


「スライムじゃない、ショゴスだよ」


「どっちでも良い!」


「む、どっちでも良くない」


 え、なんでこんな強く否定……あ、そういえばショゴスロードだっけ、私を抱えてる白髪の人。


「ご、ごめんなさい」


「ん、分かったなら良い」


 ……あれ?でもショゴスロードからはショゴスみたいな臭い匂いしない。

 むしろ若干甘い香りがして私は好きなんだけど?


「ちょっと無理矢理道こじ開けるから時間稼いで!」


 サルタナちゃんが立ち止まり大きく息を吸い始める。

 1秒、2秒………10秒過ぎたんだけどよくそんな吸えるね。


「パーフェクトプリズン」


 ブランディスがパチンと指を鳴らし四方を虹色の光の檻が完全に塞ぐ……って、


「ひっ!?4方向ショゴス!?囲まれてる!?」


「え?今更?」


 ショゴスロードちゃん?が呑気に返してくれたけど私の知らないうちに思ってたよりずっとピンチになってる!?

 というかショゴス、良く良くじっくり見ると怖い!!!

 ゲル状の体の至るところに目みたいのと口が沢山、本当に沢山!

 一個や二個じゃない!パッと見ても十個はある怖い!!!

 その口全部がテケリ・リ、テケリ・リテケリ・リテケリ・テケリテケリ・リリリリリリテケリリテケリテケテケリリリ……


「ぇ……おえぇぇぇぇ………」

「え?シェリー?」


 なにこれ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

 さっき怖くて泣いちゃったけど今回のこれ怖いはベクトル違うし格も違う怖すぎる!!!

 気持ち悪いし胸がキリキリする……


「はぁ……はぁ……あは、あはははは」


「ショゴスロード、ちょっとシェリーちゃん貸して」


「……ん、分かった、シェリーを助けて」


「当然。すうぅぅぅ…………集気法」


「あはは……あははははは…………あれ?」


 なんか、胸の辺りがポカポカして気持ちが良い?


「………あれ、幻狼さん?………助かったぁ」


 なんか幻狼さんに体を支えられて胸を優しく撫でられていた。

 その手が光を纏っていて、ポカポカととても心地よくて、つい微笑んでしまった。


「う~ん、残念ながら助かってはないんだよね」


「え……それって………」


 ズガアアアアンッ!!!


 通路全体が揺れるほど大きな振動が突如起こる。


「よし、道開けた走るよ!」


 サルタナちゃんの号令で走り出す。

 わ、今度は私幻狼さんに抱えられてる……うわ、なんかこんな時にって感じだけど凄く………あれ?なんで私の服こんな汚れて……え?それより臭!私今すっごく臭い!?

 ちょ、ちょっとこんな状態で幻狼さんに抱えられるなんて恥ずかしすぎて死にそうなんだけど………


「出口だ!」


 その声は男の人だったのでゴルドさんかマルクさん、もしくはブランディスさんなのですがそんな事はどうでも良い。

 目の前には確かに外の光景が見えている。


「チッ!」


 けれど、その穴が塞がっていくだけでなくショゴス達が………


「ソウルコンビクト」


 ヒュオンッ!


 風を切る音が響くと同時にショゴスだったものはただの液体となり床に撒き散らされる。

 その中心にいたのは、まるで死神の持つ大きな鎌を持ってる小さな人形のような少女。

 サルタナちゃんよりも小さく、白と黒のドレスにハットに栄えるような金髪に青い瞳の、本当に作り物のお人形のような1メートルあるか分からない少女。


「サ~ルっタナ~。手助け余計だったかな~?」


 空中に浮いた少女は鎌でハットを調整しながら親しそうにサルタナちゃんへ手を振る。


 ……なんかこの人半透明な気がする。


「ううん!すっごく助かったありがとうミリアーナ!」


 ミリアーナちゃん?に飛び付いたサルタナちゃんがその体をすり抜けている……もしかしてレイスみたいな霊体の魔族なのかな?


「サルタナが頼み事なんて珍しいし呼ばれたら来るよ。

 私とサルタナの仲だし、帰ったら囲碁やりたいな」


「おー!負けないよ!」


「というより、私の能力貸して1秒もしないで返却なんて普通にビックリするし焦るんだけど、次からは止めてよね?」


「あはは、それはゴメンね」


「おい!なに呑気に話してんだよ!

 出口塞がっちまってんじゃねーか!」


 ミリアーナちゃんが出てくる前だって間に合いそうになかったしもう一度開ければ良いだけなんだからそんな怒鳴る必要ないんじゃ?


「貴様は本当に低能だな、もう一度開ければ良いだけであろう」


「あ?」


「それより……ククク、サルタナは本当に面白いな。

 ドラゴンブレスを使ったと思ったらソウルイーターの知り合いだとは。

 魔物の中でもあまり賢くないショゴスからしたら天敵ではないか」


「どちらかと言えば私は精霊に近いんだけど……

 そうね、天敵なのは間違いじゃないね。

 直接魂を刈り取るのに知能低い相手は魔力抵抗強くないからね、それよりおかわりも貰って良いんだよね?」


「どうぞどうぞ」


「じゃあとりあえず頂き」


 ミリアーナちゃんが手を振ると鎌が独りでに飛び回り片っ端からショゴスから何かを切り裂き、何かを回収していた。


 ……つまり助かったのかな?

 幻狼さんも下ろしてくれたし。


「あっ」


「シェリー」


「だ、大丈夫、少し腰抜けちゃっただけ、あはは」


 はぁ~……どうなるかと思った、服着替えたい。

 あと口の中苦いような酸っぱいような……あれ?

 もしかして私嘔吐した?

 全く気づかなかったんだけどそんな事あり得るの???

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モンスターの妹 @Akamimi

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