怪獣譚

相生隆也

第1号怪獣

昭和天皇が崩御なされ、昭和から平成に変遷していくにつれ、土地神話や都銀神話の崩壊とともに水の泡のようにバブルが崩壊した。

そして、人々が不況になって初めて痩せ細った日本の現状に気づいた。


それは、梅雨がもう少しで開ける頃だった。降り続く雨により、土地開発により溜まるに溜まったヘドロが、産業廃棄物を呑み込みながら増殖し、まるで生物のように蠢き形づくっている。そして、僅かばかりではあるのだが、この時に放射性元素であるプルトニウムも吸収されていった。その影響だろうか、産業廃棄物は溶け固まり、ヘドロと混じり水銀のような流体の鉄となりながら、人の形として体を整えて立ち上がり、歩き出した。人の多い方向へ。


それは、土地の嘆きだろうか、日本の悲しみだろうか。怒りを叫ぶかのようにどろどろとした腕を都会のビル群に叩き付けていく。その腕は、泥は、ビル群に貼り付くと共に、その酸性な耐えきれず中で働く人々諸共溶かしていく。地面も同様でアスファルトは溶け、触れてしまった人間は溶けていなくなってしまう。


政府は、このヘドロの生物に対して、『怪獣』と呼称し、この怪獣を殺すために自衛隊を派遣した。……しかし、どんなミサイルを怪獣に打ち込んでも怪獣は吸収し、溶かし、より巨大化していった。自衛隊の手に負える相手では無かったのだ。政府はこの結果を受け、安保条約を元に米軍に支援を求めようとしたが、ホワイトハウスも自衛隊の結果を聞き、少しの思案の後、安保条約を即刻破棄し在日米軍を引き上げる事を決定した。


日本政府はお手上げだった。怪獣の進行方向の住民を避難させることしかできない。永田町では、野党により内閣不信任決議が通り、内閣が総辞職し、野党が選挙に勝利し、内閣を形成したが、彼らでは怪獣に倒して何もすることができず、内閣に対して批判的な世論により、すぐに総辞職してしまった。

そしてまた、与党が返り咲き内閣を形成した日、梅雨明けと共に、40度を超える、史上稀に見る猛暑が日本を襲った。


怪獣の主成分は鉄であるのだが、鉄を繋いでいるのはヘドロである。内閣の移り変わりと共にやってきた猛暑により、怪獣のヘドロが乾き、怪獣は動きを止め、引火性のガスがその体中から発生した。


政府は、……もしや?と思い、自衛隊に命じてミサイルを撃ち込んだ。すると、ガスに引火し、怪獣は爆発四散した。


こうして、平成最初の怪獣事件が幕を閉じ、怪獣の時代とも言われる"平成"が始まったのだった。

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