誕生日

雪信英松

誕生日

 目が覚めた、暑くべとべとした感触に不快感を覚えながらも腕を力をいれて起き上がる、何か面白い夢を見ていた気がするが思い出せない、どうでもいいかと思いふらつきながらも隣の部屋に向かう、山積みになった着替えから自分の服を適当に選んでく、半袖半ズボンに下着を持って浴室上に向かう、団地の一階の右側の部屋だ、最初は狭くて汚い所だと思っていたが、実際そう思った、でも時間がたつにつれどうでもよくなった。

 トイレと風呂場は同じ部屋にあるのは納得できるが玄関の直ぐ横にあるのは納得できない、この前妹の美千恵が帰ってきたと同時に風呂場からでた事で鉢合わせになって少し騒ぎになったのは言わずとも分かるだろう。服を脱ぎ洗濯籠に入れてく、何かを引き摺る音をたてながらドアを開けてなかにはいる、床は少し湿っていて成果、虫も数匹飛んでいてとても不快だ。シャワーか蛇口の絵が書かれていて、シャワーの方に捻ると、蓮口から水が出るのを確認しホースを持上げ体に掛けてく、とても冷たく頭から下へと適当に掛けてく、


「冷たい」


 思わずどうでもいい一言が洩れた、水を止めて風呂場を出る、濡れた体を拭き持ってきた服に着替える、水を完璧に拭けてないのか足跡が付けながら自室に向かう、妹と同部屋なので右側に勉強机が隣どうしになっている、左側はとにかく何個にも重なった本棚がある、本を買って、買って買って埋めた、半分以上読んでいない本棚がそこにはある、手前の机が俺の机、奥の机が妹。昔喧嘩をして襖を机と机の間に挟み壁を作った事があったが、いつの間にか仲直りしなくなった。回転椅子に座り畳を蹴って動かす、くるくる回ったりして天井を見上げる、バランスを崩し椅子と共に後ろに倒れる、


 山の麓に建てられたアパートで俺意外に住人がいない、管理人は時々集金のときにしか来ない成果、やけに静かでこんな音でもよく響く。


 足が透き通るような変な感覚がして面白い、誰もいない部屋、まるで世界で俺だけしかいない世界のようで恐くなる、暇だ暇じゃないけど暇だ精神的に、


「はっはっはっはっは、ああーああーー」


 何故か笑いたくなった、声を出したくなった、そんだけだ、この家で妹とは二人暮らし、父さんは酒を飲みよく眠る、母さんは俺が殺したようなものか。3年前の誕生日に発売されるミステリー小説が欲しくて欲しくて堪らなかった、だから我が儘だと分かっていても駄々捏ねてお願いした、美千恵は呆れた目を向け、父は優しい目を向けてくれた、夜だから危ないと言われたが本屋も近いし大丈夫と思っていた、仕方ないね一言で行くことになった、嬉しくなった、喜んだ、喜び、浮き立つ心を押さえながら、貯金箱からお金を数え財布に入れ外に飛び出した。車で向かってる途中大粒の雨が降る、水滴が車体に跳ねられる音が心地よく思っていたが、土砂降りの雨が降りワイパーで水をなくしても一瞬で見えなくなる大雨が降り、衝突事故が起きた、俺だけ生き残って。


葬式の父さんはただただ泣いていた、妹も大声で泣いた、俺は現実感がなかったが妹の一言で現実に戻される『お前が殺したんだ!お前がお前が!お前が』泣きながら言葉にならない言葉で叫んで殴られた、その時気がついた、


   ――――俺が殺したんだって――――


 単純明確で誰でも気が付けることだ、なのにその答えに辿り着けるまで時間がかかった、それだけだ。父さんはこの頃から眠るようになった、


「妹とは疎遠に成るわけでもなかった、最初は遠かったが俺達二人しかいない、そんな状況では時間の問題かもしれない。何故か独り言は一人の時は虚しく感じないな」


 立ち上がり難かったが立てた、椅子を元の場所に直し、リビングに向かい冷蔵庫を開けたり閉めたりする、意味がないなと思い何かないか探す、切り分けられたスイカが皿に乗ってドンと構えていた、取り出し食卓の真ん中に置き、食器置いてある棚から二つの小皿を取る、手前の席に座り食べる、シャリシャリとした感触に冷たく口のなかに入れて食うと気持ちいい、小皿に種を入れてもう1つの小皿に皮を入れてく、4切れ程食ってラップで包むが長さ足りず今度は長くして包んで冷蔵庫に戻す、壁についてる時計は2時半そろそろ妹が遊びから帰ってくる時間に近づいてく、


 寝ていたソファーは少し臭うがまあいいや、テレビをつける、ギャーギャー騒いでいる人達が多い、バラエティ番組の人達は何故こんなにも楽しそうな演技ができるのだろうか、もしもこれができれば何かが変わるのかもしれないのに。何か軽く叩くような音が外から聞こえる、カーテンを開けてみてみる、大粒の雨が降っていた、この音は嫌いだ、なのに心が落ち着く不思議な音だ。テレビに意識を向け見る押し録画表を見てみる、上のボタンを押したり下を押したり動かしてみた、その殆どは家族や母がテーマになったドマラだ、俺は録画は殆どしないので妹だろう、妹は母さんっ子だったからかこんなものを見ているのか、録画されたドラマを消して行く、何故か心がキリキリする、心なんてもの存在するから苦しくなってくるんだ、だから消す。全ての物語を消して行く、ついでにテレビの電源を消す、雨の音が強くなってく


 雨の音がこの静寂だった空間に響く、響く響く!心は煩いと思うのに、思うのに❗心は反比例して落ち着いて行く、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気「ただいまー」美千恵が帰ってきた、ドアが閉まる音がよく聞こえる、


「びちょびちょだよーあ、兄ちゃん!ケーキ買って来たよ」


 後ろを振り向き見ると美千恵が片手に白い正方形の箱を持ってニコニコしていた、気になることを聞いとく、


「友達の所に行ってたんじゃないのか」


「友達にお兄ちゃんが誕生日って伝えるとねお祝いすることになったの、玄関で待っているよ」


「伝えていいのか」


「うん、いいの、お母さんがいないしお父さんはもう眠っちゃうしね」


「そうだな」


 俺と美千恵は笑う、美千恵は玄関に向かいボロボロの等身大人形を抱えて母さんが座ってたところに座らせる、俺はケーキを人数分けて行く、皿に4に分けると妹は頬を膨らせて軽く怒こりながら言う、


「もう、お父さんの分も分けなきゃ」


「父さんは眠ってるじゃないか」


「もう、つれて来るのよ」


「分かったよ」


 寝室に向かう、襖を開けると猛烈な腐臭がするが気にしない事にする、父さんは蝿に集られながらも目を見開き眠っていた、首には蛆虫がうじゃうじゃいた、脇を持ち引き摺りながらリビングに連れてく、妹はよしと言う、俺は父さんを隣の席に座らせる、妹はカーテンを閉めて部屋を暗くする、全員が席についたことを確認すると掛け声を上げてバースデーの歌を二人で歌う、歌い終わり美千恵はフォークを掲げ言う、「いっただきまーす」「美味しいね」美千恵は隣の人形を動かして食わせる、


 一人二役をしている美千恵自信気づいていない、ただ、ただ、楽しそうだ、それを俺は見てる、どんな目で見てるかよく分からないが、美千恵が楽しいならいいだろ、それが正しいんだから、だから、俺も手を合わせ言う、


「いただきます」

さあ、始まった楽しい楽しい誕生日皆で笑って、笑って笑って笑い会おう永遠に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誕生日 雪信英松 @nobuhide821

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ