第17話

 翌日、歩兵四個大隊と猟兵大隊、山砲二門、工兵隊を連れたインディオ討伐隊が多くの荷車とともに出発した。これにトマス神父が志願して加わった。新たな管区長と空飛ぶ五千ポンドが彼を冒険へ駆り立てていた。まず獲物を追って森を静かに動ける猟兵たちが二人一組で前方を探りながら、その背後で工兵隊と雇ったインディオたちが必死に鉈で密林を切り開いた。

「このままだと目的地への到着は三日はかかりそうです」テーケ大佐が言った。

「かまわん。インディオが仕掛けてくるなら受けて立つし、逃げたら村を焼いて、妖精が見つかるまであたりを探索すればいい」

 夜になると、野営地がつくられた。連れていた牛が屠られて、兵士たちにふるまわれ、ラム酒がコップ半杯だけ配給された。デ・ノア大佐はというとミディアム・レアの子牛のステーキに舌鼓を打ち、その横では彼のコックがアメリカ産のリンゴを輪切りにして揚げていて、トマス神父はちゃっかりそれにご相伴にあずかっていた。

 フランソアの食事は従卒のジョアンが作っていた。キャッサバの炒め粉と牛の肉のかたまりを三つ一緒にフライパンで炒めた。本人は干し肉とキャッサバの炒め粉を食べようとしたので、フランソアは牛の肉のかたまりのうち二つをジョアンに与えた。

「ぼくは少食なんだ」フランソアは言った。「これが一個と炒め粉で十分お腹いっぱいだ。きみはその図体だとよっぽど腹が空くだろう? 食べたまえ」

 ジョアンは何度もありがとうごぜえますと言いながら、むしゃむしゃと牛肉にむさぼった。

 野営地では任務が同じであるためか、デ・レオン大尉と話すことが多くなった。二人は並んで野営地と密林の境で焚き火の火が寄せては引く波のように足元を照らす草地を歩いていた。

「旅団長閣下はシナ人を雇うことに決めたようです」デ・レオン大尉が言った。「以前、お話しした体を少しずつ切り取る刑ですよ。ガローテが期待外れだったことに相当ご立腹の様子でした」

「大佐は処刑の百科事典でもつくるつもりなのかい?」

「でも、処刑はインディオたちの心を支配するのに最も適した方法のようです。あの村に櫓が立っているでしょう?」

「ああ」

「あそこには村の守り神として勇敢な戦士や賢い老人の心臓を乾かして安置していたようです。ところが、今日聞いた話では彼らは櫓のてっぺんから干からびたビーフジャーキーのできそこないを捨てて、三日月の小さな刃と翡翠、それに村長が自分の顎からそり落とした鬚を束にして安置しているそうです」

「それが?」

「明白じゃないですか。あの村の人々は古来から祀られていた心臓を捨てて、わたしたちを祀っているんですよ。鬚の束が旅団長閣下、三日月の小刀がわたし、そして翡翠はあなたを表しているんですよ」

「ここでも祀り上げられるわけか。ぼくは自分のことは特筆すべきことのないどこにでもいるごく普通の士官だと思っていたんだけどね」

 インディオのスパイだ! と声が上がった。二人は銃を抜いてその声がしたほうへ走った。ズアーヴ兵が十人近く篝火のまわりに集まっていて、そのうちの一人、狐人が右腕の小さな切り傷を見せびらかしていた。ズアーヴ兵たちが地面に転がした女インディオのまわりに集まり、ゲラゲラ笑いながら話していた。

「このアマ、おれの腕を切り落とそうとしやがった」

「切り落とそうとしたのはチンポコのほうじゃねえのか?」

 ゲラゲラ。ゲラゲラ。

「誰が一番だ?」

 腕を切られた男が言った。「おれが一番だ。だって、腕を切られたんだぜ」

「とっ捕まえたおれのほうが一番に決まってら」

 女インディオは下を噛み切られないように口に布を突っ込まれていて、盛んに呻き声を上げていた。

「おい、アマが布を吐き出せないようにもう一枚布を使って猿ぐつわをしっかりかけとけ」

「誰か布持ってねえか?」

「持ってねえよ」

 デ・レオン大尉が自分のハンカチを兵士たちに提供した。

「これを使いたまえ」

「恐縮であります、大尉殿」ズアーヴ兵たちは伸ばした手がふんわりしたズボンの縫い目に合うようにピッと立った。

「犯す気でいるなら注意したほうがいい」デ・レオン大尉が言った。「膣の奥に毒を仕込んでいるかもしれない」

「脅かさないでくださいよ、大尉殿」

「念のため水で洗ってからにしておきたまえ」

 二人は通り過ぎたが、ズアーヴ兵たちがバケツに水を汲んで持ってこいと叫んでいるのが聞こえ、しばらくしてから我慢するようなさざめく笑いとともに、なあんだ、こいつ処女じゃねえか、と声が聞こえた。

「――で、何を話していたんでしたっけ?」デ・レオン大尉が言った。

「インディオの村でぼくらが偶像崇拝されていること」

「ああ、そうなんです。彼らは教化されて、あわれな文明化の波に放り込まれました。しかし、まあ、悪い取引ではなかったはずです。十名と少しばかりの村人が殺されたかわりに彼らは五千フランの処刑道具を手に入れたんですからね。五千フランなんて彼らの村が一生かかったって稼ぐことはできないでしょう」

「妖精はどうなるんだろうな」

「旅団長閣下が専門家を連れているので死ぬことはないでしょう。妖精を実際に見ることによって士気は大いに上がりました。ポンド換算で五千は固いのですからね」

「きみも参加するのかい?」

「何にですか?」

「妖精の取り合いさ」

「いえ」デ・レオン大尉はきょとんとした顔で言った。「興味がありませんから」

「そうか」

「デ・ボア大尉殿は?」

「ぼくも遠慮する」

 デ・ノア大佐の伝令が現われて、女インディオを処刑するようフランソアに命令が下った。フランソアは自分のテントに戻ると、ジョアンに預けていた翡翠の鎚を手に取った。女インディオは後ろ手に縛られ猿ぐつわを噛まされたまま、二つの焚き火に囲まれた明るい平地に転がされていた。その股からはひどい出血をしていたから、放っておいても死にそうだった。その場にデ・ノア大佐はいなかった。

「旅団長閣下はただいまトマス神父とご一緒に揚げリンゴを召し上がっておられます」伝令が言った。

「わかった」フランソアは鎚を頭上高くかかげた。「すぐ終わらせよう」

 首に一撃が入った。グググ――呻き声が聞こえた。もう一度、もう一度と打ち込むと首が歪んできた。

「大尉殿は紳士だなあ」まわりのズアーヴ兵が感心してうなずきながら言い合っていた。「女の顔を殴らねえように注意して打ち込んでる」「死ぬぞ。もうじき死ぬぞ」

 鎚を振り下ろした。ペキッと小さな震動が鎚を通して、フランソアの手のひらに伝わり、そして消えた。

 十数分後に偵察隊が戻ってきた。

「なんだよ」彼らは不平を唱えた。「女がいたんなら、おれらが帰ってくるまで生かしておけよ」

「旅団長閣下がやっちまえって大尉殿に言ったんだ。文句があるなら、閣下か大尉殿に言えよ」

「ちぇっ、しょうがねえな。そのアマの死体は?」

「その辺に捨てた」

「顔は?」

「大尉殿は紳士だからな。顔じゃなくて首と肋骨を砕いてアマっこをぶち殺した」

「じゃあ、顔は無事?」

「きれいなもんさ。眠ってるみてえだ」

 偵察隊は死体と事に及ぶべくその場を離れた。

 フランソアはぼんやり考えていた。フォイ族は女も戦士なのだ。たぶん戦いが始まる。縛られたインディオを殴り殺すのではない、あの戦いだ。今度は慌てて全部の弾を一人のインディオに撃ち込まないようにしておこう。

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