第15話 二人の考えが一致しているのはそこだけではない。

~前書き~



(え…? 同じクラスの山野太一くんだ…)


(この間も一緒にいた美人な先輩と、避難訓練の時の、可愛い人…)


(休みの日にまで一緒にいるほど仲良かったんだ…)


(なんか意外だな…)


(今度、話しかけてみようかな…)


(でも今日、気づかれてもなかったような…)


~本文~



「さあ! 開封式だよ!!」


「待ってました!!」


「何があったんだよ!!!」


 疲れのあまりついに聞いてしまった。


「何があったって、そりゃ買い物したら袋からもの出すのは普通でしょ」


「そうだよ、何言ってんだか~」


 先輩と鷲崎先輩は、こんなに仲良くなかった。それだけは俺でも断言できることだったのに。


「なんで仲良いの?!!」


 はぐらかすとかそういう話ですらなく、そんなことなかったと素直に言い出しそうな顔だった。


「もとからだよね~」


「ね~」


「嘘をつくな!!?」


 朝からあんなけんかしてたのに、昼めし食って仲良くなるとかどんなギャグなんだよ、普通じゃないだろ。


「私たちの仲が良くちゃ、いけないの?」


 猫撫で声で童顔で上目遣いをされると、なにか悪いことをしているような気になるから恐ろしいが、


「悪いなんて言ってません、気味が悪いと言ってるんです」


「ひど、普通にひどい」


「いやいや先輩、俺からしたら昼の時のあなたの態度のがよほどひどかったですよ」


「何がさ! 私の何がひどいって!?」


「食べ方とか店内での態度とかもろもろですよ。あともうマスクとっていいですよ、サングラスも」


「あ、うん」


 さっととると、綺麗なご尊顔があらわになる。


「鷲崎先輩も、その上目遣いやめてもらっていいですか、さすがにそろそろ気付いてますよ」


「ありゃりゃ、ばれてたのか」


 この人は身長の低さを利用して、体に触れないぎりぎりを保つことで相手と話すとき上目遣いを意識させる。という感じの技術なのだろう、まあ男心はくすぐられるが、タネがわかるとなんだかなという感じだった。


「で、何があったんですか?」


「だから何もないんだってば、ただ、太一君に迷惑かけないようにしなくてはと」


「そう思ったら自然と、ね?」


「え、あ…」


なるほど、二人の考えが一致したからこその今というわけか。


なんとなく合点はいった、でも、


「やっぱ、気味悪いな」


 納得したにもかかわらず、口から出たのはこの言葉で「まあ慣れるしかないな」と、これからずっとこの二人といるのが自分の中で確定していて、正直自分でもキモイと思ったり。








 時刻は六時半を少し回ったところ。


 昨日とは違い、なんとも和やかな雰囲気が場を埋めている。


 なにせ昨日一日今日半日喧嘩していた人たちが、突如として停戦協定を結んだのだ、もともとどちらといる時も、二人きりだったときはこんな感じだったような気もするので俺にとっては日常が戻った状態だった。


 そんな中で鷲崎先輩は、キッチンで料理をしている。今晩のご飯も彼女謹製ということだ。イエス駄目街道!!


 もう一人の先輩は、ダイニングテーブルで勉強中だ。何やら鷲崎先輩と話していたところ、実は先輩のやっている範囲が飛ばされて、次の範囲を始めていたことが判明し、ただいま大慌てで教科書を暗記している最中だとか。うちの学校の教師陣は少し、この美人を適当に扱い過ぎではなかろうか。


 ふいに、テストの日程など気にしたこともなかったので聞くと、ゴールデンウイークが明ければテスト期間に入り、再来週の今頃はテストと戦うため、勉強に明け暮れているだろうという事だった。中間テストってそんなに早い時期なんだなあと少し焦る。


 が、それを聞いても俺は勉強には入らず、風呂の掃除をしたり買って来たものの包装を分別したりしている。何気にゴミ捨てが面倒くさい。分別とか結構細かいのだ。その辺は地域によるのでこの地域には住んでいない鷲崎先輩に投げることもできない。この考え方からも、もはや俺は駄目街道を走り切ってダメ人間になっていることがよくわかる。


まずいとは、思ってる…。


「そういえば、鷲崎先輩の家はどのあたりにあるんですか?」


「私ん家? ここから二駅先のとこのマンションだよ。今度行ってみる?」


「んー…あ、じゃあ明日行きましょう、三人で」


 なんとなくの質問で、お誘いがあったのを幸いと思い、絶対に達成され得ないと思っていた俺からの鷲崎先輩へのお願いを果たしにかかる。


 お玉を掲げ、固まる鷲崎先輩はどう見ても焦っているが、どちらかというと嘘がばれそうで焦る子供みたいな顔をしている。親が怖いわけではないようだ。


「あ、明日…?」


「明日」


「私も行く~」


「じゃあ決定で」


「…うそ…でしょう?」


 にんまりと、俺と先輩は笑った。


 逃がしはしない。心の中ではもったのは、さすがに知らない。




夕飯はグラタンだった。オーブンなど当然なく、トースターもないこの部屋で、どうやって作ったのかは謎だがこれまた美味だった。もう、俺はこの人なしで生きていけるのだろうか、普通に不安になる。


「あの、今日も泊まるんですか?」


「もちろん」


「そう、ですか…」


「大丈夫だよ、今日は太一君も布団で寝れるよ!」


 そして今、食器を片付け風呂に入り、通常通りやけに早い就寝時間。


布団が一式増えっていた。


 どうにも荷物の重さが尋常ではないと思ってはいたのだが、まさか布団が混じっているとは予想外だった。ほかにも小さなドレッサーやカラーラックが増え、二人の私物がそこに収められていた。


 もともと何もなかった部屋なので、全く狭くはならず、むしろ生活空間であると言えるようになったが、なぜ、この人たちの私物を…?


「まあまあ、細かいことを気にしたらだめだよ。ドライヤーとかアイロンとか、置いとくところがほしかっただけなの。あと少し身だしなみを整えられるところがあったらなあって」


「先輩は、そんなこと必要ないでしょう。なんで協力してんですか」


「ちょっ! 私の顔は元が良くないみたいに言わないでよ、傷つくよ!」


「ああ、いや、そうではなくですね。こっちの先輩は、どうせ外に出たら隠すんだから化粧なんて必要ないだろってことです。まあ鷲崎先輩も、あんまりそれが必要なようには見えませんが」


 俺の弁明に納得してくれたのかふむと顎に手を当て、


「なるほど…、でも私は化粧しないと子供だと思われるから……」


「あぁ……じゃ、じゃあ仕方、ないですね……」


「まあ女の子なら鏡は必要だし」


 なんだそのまとめ方、とは思ったが、別にあって困るものじゃないし、、どうせ俺はこれからこの部屋を使わないのだ、好きにさせよう。


 なんやかんやと話が進み、2LDKの部屋の使い方は、俺一部屋、先輩二人で一部屋と相成った。シェアハウスかよ…。


「とにかく、明日はザッキ―の家に行くんだからもう寝よ~」


「え、ザッキ―って私の事?」


「当然」


「小学生みたいなあだ名だ」


 吹き出しそうになる。


「まあいいけどさ」


 そっけない態度でそう応じ、


「お休み、太一くん」


「はい、それじゃあ」


 その場を立ち去ろうとすると、後ろから、


「いつもみたいにキス、しないの?」


 鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。


「誤解を招くんだからそう言う事言うのやめましょうよ!?」


振り向きざま叫ぶと、さっきまで座っていた布団に足が絡まり、バランスが完全に崩れて向いた方向に倒れていく。


「あ! あぶっ!」


「きゃっ!」


 ぼふっ! ポヨンッ


 手をつき、完璧に衝突することは防いだが、顔面は二つの柔らかな谷に受け止められた。


やわらかい。幸せだ~…。


「やだ、太一くんてば大胆…あっ…んっ……」


もはや考えることを放棄し、その心地を堪能している俺の鳩尾を全力のトーキックが炸裂した。


「ゴッハッ…!!」


「え、ちょっ! だ、大丈夫、太一くん? 何してんのあんた!?」


「目の前で同級生の胸で顔を挟んで喜んでる後輩に、正義の鉄槌を食らわせたのよ」


「あ…ありがとうございます…現実に戻ってこれました…でも、次はもう少し、優しく、お願いします…」


 息も絶え絶えに談判するが、


「次やったら警察行きよ」


 性犯罪の闇は深い。


じとーっとした目を向けてくる先輩は、たぶん本気だ。


「鷲崎先輩も、すいませんでした、以後気を付けます」


「私は全然良いんだよ? ついでにちゅーしとく?」


「しません」


 押し倒した大勢を解き、謝ってからもう一度立ち上がる。


「それじゃあ今度こそお休みです」


「うんお休み~」


「ふんっ」


 優しく笑顔で手を振ってくれる鷲崎先輩に会釈して戸を閉める。


「ちょっと、トイレ行ってこ…」


 すぐに寝ました。寝たんです。


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