第13話 二対一、お泊りイベントは色気がない。
硬い床の上。シャワーを浴び、まだ乾ききらない髪で寝転がりながら自分の情けなさを痛切に実感し、なにをするでもなく何となく寝返りをうつ。
時刻は十一時。高校生にしては明らかに寝るには早そうなこんな時間だが、立派なことに先輩二人組は既に布団に入り寝息を立てていることだろう。
そう。二人だ。
結局、三人で鷲崎先輩の作った夕飯を食べた後、何気なく放たれた、
「昨日、一昨日と二人はどこで寝たの?」
という質問は、俺の口を閉じさせ、鷲崎先輩は、溌剌と、
「そっちの部屋で二人で寝てるよね〜」
この発言の効力は恐ろしかった。
すぐさま俺に一撃のグーが飛んできて、叱責を承った後、二人がシャワーを浴び、何事もなく今に至る。何事もなく、という言葉がここまで嘘っぽい色を放つことは、なかなかないのではなかろうか…。
「ハア…、せめて座布団敷くか…」
頭だけは座布団に置かれ、いい具合だ。
よし、このまま寝て、明日に来る全身の痛みに備えよう。
お休み!!
さすがに今日は鷲崎先輩も見当たらない。
環境が悪過ぎた所為か、寝覚めは悪くない。
時計をみると五時を少し回ったところ。
痛ててと体を起こし、前日の二日間とは打って変わって静かで寝息すら聞こえて来そうな寝室の方をみる。
たまには寝顔でもみてやろうという悪戯心は、この場合腹いせや少しの征服欲を満たすには仕方ないのではないか。そんな言い訳を心の中でしながら少しだけ戸をあける。
予想通りまだ眠っている二人は布団にくるまっている。
鷲崎先輩の寝ている方の布団(昨日まで俺の寝ていたもの)に近づき、覗き込む為にしゃがみ込むと魔の手に絡めとられた。
「ちょっ!! 寝てたんじゃないのか!!?」
「扉が開いたら起きた、へへへ」
「いやいや! すとっぴ! じゃなくてストップ!! て言うかなんであんたはいつも全裸なんだ!!」
「自分から来たくせに何をいってるかね?」
小声に力を込めて抗議するが全く意味はなかった。
しかもこの人全裸で寝てるから引き剥がそうとすると柔らかい肌に手が当たって!!!
巻き付いた腕は頭に周り、
「どうしたのさ〜 逃げるなら今だぞ〜」
うっぜえええええ
「えい!」
「ちょっ! マゴっ! んんんー!!」
顔が!
胸が!!
息が!!!!
隣でこんなに騒がしくされればさすがに起きる訳で。
「なっ! 何してるの!?」
「朝のスキンシップ〜」
「はふへへ!!」
「離れて!!」
先輩が俺と鷲崎先輩をはがそうと動いてくれる。
ナイス! でもこの後怒られるのは俺なんだろうなぁ……。
俺と鷲崎先輩を引き剥がすことに成功した先輩に引っ張られ、ダイニングに放り出される。
「何考えてるの!?」
戸を閉めて戻っていった先輩は鷲崎先輩に怒鳴り始めた。
「かわいい後輩にお礼のハグをしただけだよ?」
お礼はご飯でしっかりいただいてると俺は思っている。いや、伝わっていないかもしれないけど。
「そんなことは許さない」
「別に許しが欲しいなんて思ってないもん」
なんでこの二人、こんなに仲悪いんだろう。
とりあえず、朝飯の用意でもするか。
七時を過ぎても口論は集結をみない。
話しかけるのも怖いので一人で朝食をすませ、着替えを済ましてダイニングで文庫本に目を落としていた。
ていうか朝のスキンシップってどこの国の人なんだ。
ふとそんな馬鹿なことが頭に浮かんだ時、戸が開かれ制服姿の二人が出て来た。
「話がついたわ」
「一方的に怒鳴ってただけじゃない」
「とにかく、守ってよね」
真剣な顔の先輩に、対照的におざなりに、
「はいはい、努力しま〜す」
どうにも要領を得ないが、二人の間で何かが決まったらしい。
「それで、今日から休みな訳なんですが、お二人はどうなさるんですか?」
俺はそろそろ鷲崎先輩は家に帰った方がいいんじゃないかと思っていたし、先輩もいつまでも制服のままじゃどうかと思ったので、こんなことをいったのだが、俺の意図は全く汲み取られることはなかった。
「今日は買い物に行きます。太一くんも行くから用意して!」
食パンを食べながら言う鷲崎先輩。
そのことは二人の合意だったらしく、何も言わない先輩も椅子に座って「いただきます」と俺の作ったもう冷めてしまった朝食を食べ始めた。
買い物って、制服で行くのか、この二人。
~後書き~
《乙女の恋愛協定?》
一つ、絶対に、太一君から告白されるまでは、どちらも太一君に告白等、襲いかかってはいけない。
一つ、誘惑は程々に。
一つ、宿泊に関しては他言無用、互いに口出ししない。
加えて、これを太一くん以下他者に知られてはならない。
以上を以て、その他諸々許容する。
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