第12話 ほぼ初対面の三人の三角形な関係性。
~前書き~
寝ている人に手を出すなんて、賊のようなことはしない。
衝動に逆らうために、無理矢理言い聞かせて、寝顔を見つめる。
この人が、私の運命なのかと思いながら。
~本文~
背もたれにもたれかかりながら眠ってしまったらしい。
部室で寝るのは初めてだ。腕にはめていた時計は、机の上に置かれている。
時間を確認すると下校時刻の十五分前を示している。
体にかけられているブレザーの所有者のいるだろう地点を見やる。
人には掛けたにもかかわらず、自分はベストで寝こけている。
もう時間も時間なので、何かを掛けるのではなく起こしてしまおうと考え立ち上がり、
「先輩、起きてください、時間です」
肩をトントンたたいて意識の覚醒を促す。
「んあ…?」
腕を枕にして突っ伏して寝ていた先輩は、眠そうな顔を上げる。
あほそうな顔をしても、美人は美人だった。
「先輩、よだれ」
「え!? ちょっ! 見ないで!!」
速攻で眠気は飛んだらしい先輩に、目隠しされる。これは便利だ。
「冗談ですよ、綺麗な寝顔でした」
「そ、そういうことは、軽々しく言うものじゃないと、前にも言ったろ…」
こちらも冗談だった(突っ伏して寝ているのに顔など見えるわけもない)のだが、なんか喜んでるので放っておこう。
「もう時間なんで俺は帰りますよ。先輩はどうするんですか?」
湯飲みを備え付けの手洗い場のようなところで洗い、そう聞くと、
「私ももう帰るよ、一緒に帰ろうか」
あ、やばい匂いがする。
「いや、その、あっ、そういえば俺この後用事があるんだった、すいませんがお先失礼しますね!」
猛ダッシュ!! 逃げろ! なんか地雷臭がすごいする!!!
昇降口まで走り切った俺に待っていたのは、昨日の続きのような光景だった。
「あ! 太一くん、じゃあ帰ろっか~」
「この人たちは良いんですか…?」
「いいのいいの。さ、いこう」
そこには四人ほどの上級生が、一人の女子を囲んで談笑するというカオスな絵面があった。
その輪の中から、するりと抜け出し俺の腕を絡めとった鷲崎先輩は「じゃあまたね~」と手を振るだけ。
徐々に離れる四人組から、殺気の混ざった視線でにらまれるのは俺の役目なのだ…。
夕飯の食材なんてものは冷蔵庫にはない。
かくして、正直気乗りはしないのだが駅の方面に向かい近くにあるスーパーに入った。
昨日の夕飯がかなりの美味だったので、なんとなく今日も鷲崎先輩のおいしい料理が食べられると期待しているのだが、さすがに家主なのにも関わらず、もてなされてばかりなのはどうなのだろうと思い始めている。
「今日は何が食べたい?」
籠をもって後ろを歩く俺に、問いかけてくる鷲崎先輩の顔は、やはり子供に見えるのだが幼な妻といえば通じるのではないかと、いや、やめよう。
それにしても、やはり作ってくれる気でいるらしい事は分かった。
三日間、ほぼ他人のような女の先輩を家に泊めていることはかなり問題なのだと自覚はある。
そこからご飯を作ってもらうようになったら、俺はもうだめ街道まっしぐらなのではないかと。
「えっと…そうですね、唐揚げとか、食べたいですね」
不安とは裏腹に、俺の口からは普通に食べたいものが発せられ、
「おいしいよね~ じゃあ今日は唐揚げとサラダと、なんかスープだね」
ざっとメニューが決まったらしい。
ああ、不味いなあ、こっちの道はだめ街道か…。
「今日もうまいです!!!!」
だめ街道まっしぐらだわ。
「よかった~。ご飯いっぱい炊いたし、唐揚げもいっぱいあるからどんどん食べてね~」
はー、うまい。かわいい先輩が作ってくれてるから尚うまい。
しかも目の前で一緒に食べてるのがエプロン姿。
なにか新しいものに目覚めそうだわー…。
時刻は七時少し過ぎ、ダイニングテーブルの上には「こんな皿あったっけ?」なおしゃれな皿に盛りつけられた、俺では絶対に作れないレベルの料理が並べられている。
そんな料理をバクついているのは俺。対面で、おしとやかにしずしずと咀嚼するのが鷲崎先輩。あんまり見たくないけれど、その隣で俺をにらんでいるのが先輩だった。
……。
スーパーで買い物を終え、帰ろうとしているところを捕まった。
言い訳は許されず、しょっ引かれる犯罪者のようにひたすら下を向き、うちまで連行され、夕飯ができたという声により、先ほど取り調べが終了した。
結果は不起訴。
鷲崎先輩の事情を少しだし、そういうことには至っていない、と今朝の出来事は脳のなんか深くのところにしまって、言い訳を終了した。
が、疑いはいまだ晴れていないようで、未だ睨みを効かされている。
「せ、先輩も食べましょう…?」
いつまでも目を逸らし続けるわけにもいかない。そう思って声をかけたのだが、
「太一君。この人に出すものはないよ?」
「あの、ちょっと黙っててもらっていいですか」
むーと頬を膨らませて不機嫌を表現する鷲崎先輩。いや、可愛いけどその可愛さが今は邪魔だ。
「私はいらないよ。こんなどこの馬の骨とも知れない女の作ったものなんて」
うわあ、超真顔、表情がほぼない。
誰をも魅了するその相貌からは、若干のいらだちだけが見て取れるだけ。
「美味しいんだけどなあ…」
机の下で刻まれていた貧乏揺すりが俺のすねに炸裂し、涙目になったのは自業自得だと納得している。
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