第10話 死あわせ? 幸せ?
前書き
寝息を聞き取った。
好きな人の抱き枕なんて、
破廉恥な!!!
でも寝心地は最高です………zzz
本文
んん…? ん…、い…息…が……
「がはっ…!!!! ヴぉぅぇっ…!!! はあ…! はあぁ…!!!」
し、死ぬかと思った…!!!
苦しさと死への恐怖がまだあるということは俺の命はまだ俺の元居た世界にあるらしい。
いや、そんな風に始まるはずのない超絶ポップで現実的な、いや現実的は言い過ぎたけど、こんな風に命を脅かされるような作品じゃなかったはずなんだけど。
何はともあれ、呼吸困難による窒息死は避けられたようで、眠っていたはずの自分がなぜそんな状況に巻き込まれたのかを知るべく、周りをきょろきょろ見回してみるが、布団を掛けて眠りついた俺に魔の手を差し伸べていたのは、隣に寝ていたロリを合法にするとこんなかな(未だ合法ではありません)という容姿を一部個人の才能により修正することを成功させて、現実に体現して見せた鷲崎先輩だった。
何をしていたのかというと、どうやら俺はこの、いつの間にか全裸になって寝ている先輩に抱きしめられ、顔を胸に押し付けられながらあわや幸せな死を迎えるところだったらしい。
乳圧で死ぬとかシャレにならん。
「ていうか、なんでこの人は俺の布団に入ってきてんだよ…」
寝相悪すぎるだろう。
ホールドから抜け出して、なるべく見ないようにしてタオルケットを体に巻き付けると抱き上げ、隣の布団に移動させる。そのまま掛け布団を掛けてミッションコンプリートだ。
「まだ四時か、水飲んで来」
キッチンまで行き、コップに水を入れる。
ふと、なんだか寒いなと、素直に思う。
「つめたっ!」
はねた水が地肌に当たり恐ろしい冷たさを体験させる。
「…ん?」
自分の腕を見て違和感を感じ、自分の上半身を見て衝撃を覚え、下半身を見た時には確信する。
「あのロリっ子、脱がしやがったな!!?」
時刻は五時を少し過ぎたところ。
若い男女は一人は服を着直し。一人はタオルケットにくるまり眠気を眼に称えて、布団のうえに正座して向かい合っていた。
「太一…くん…、私まだ、ふぁぁ… 眠いんだよぉぉ…」
「寝るんじゃねえ。ちょっとお聞きしたいんですがね」
寝転がる鷲崎先輩の状態を無理やり起き上がらせ、口調は丁寧に問いかける。
「そんなの、昨日太一くんが、きのう寝かせてくれなかったんじゃんかあ…」
「うそおっしゃい!!?」
めちゃめちゃに裏返った声で突っ込みを入れるが、鷲崎先輩には眠気が優ってしまっているらしい。
さっきまで見てた夢の内容を当てられて焦ってたりしてないよ!!!
「いや、ほんとなんで脱がしたんですか?」
早朝から呆れすぎて尋常じゃない疲労感を覚え始め、「これだけ答えてくれれば寝て良いんで」と付け加え、
「俺の貞操には何もしていないといえ!!!」
と、もう本当、自分でも情けなくなるレベルのことを発狂する。
「それはだいじょうふだよ~… …おやすみ……」
朝の出来事はこれにて終了だった。
結局、その後は寝ずに制服の皺を伸ばしたり、ワイシャツをアイロン掛けしたりと何かにつけて起き続け、食パンと目玉焼き、レタス、ミニトマトをプレートに載せ、朝ごはんの完成を迎えたころ、下着姿で起きだしてきた鷲崎先輩と朝食を食べ(俺は目隠し)、奮闘した結果、残念ながら目隠しで飯を食べるのは困難なことが発覚し、服を着るという行為をしない本人から「食べさせてあげる!」と、言われたので甘えておいた。いや、服を着てください。
昨日に引き続き、当然のように学校があるので制服に着替え、通い慣れ始めた通学路を歩く。
到着してすぐに、鷲崎先輩はどこかのだれか(制服着用者)に連れていかれた。
昨日のことがあったので、正直怖かったのだがクラスに到着してもこれと言って何か問題は起きなかった。
先輩が人ごみの中、俺の前に現れるまでは。
朝のホームルーム。電車の都合に振り回され遅刻しているものを除いて、ほとんとが揃い、教師の話を聞かず、各々が勝手におしゃべりしているこの時間。
そんな中でももちろん俺に話かけてくる奴はいなくて、だから俺は意識を半々に教師の話を耳に入れながら文庫本の活字を目で追っていた。
担任の話によればどうやら今日の三時間目に避難訓練があるらしい。
クラスメイトの中には、ふざけ合いながらも聞いている、器用なやつがいるようで、「避難訓練とかだるー」とかなんとか、口々に言い合うのが聞こえて不快感を覚える。
そのほかにはこれと言って特徴的なことをいうでもなく、
「週の終わりです。明日からゴールデンウィークなので、ラスト一日、張り切ってください。今日も一日頑張りましょう」
みたいなことを言って、ホームルームを締め、教室から出ていった。
「ゴールデンウィーク、か」
そういえば帰って来いって言ってたっけな。
ふと引っかかったフレーズを繰り返し、記憶を思い起こす。
元気にやってるかなとか、一瞬感慨に浸ろうとするが、あの人たちがそうでないところなど想像もできなかった。
でもまあ、時間があれば帰ってみるかな。
高校に入って一か月。
親元を離れたのは学校が始めるより半月ほど前だった。
中学三年の八月に、ある出来事を経て高校は遠方を選択することを決意した。
そのことを相談したとき、両親も、大学に自宅から通っている兄も「お前なら大丈夫だろ」と、恐ろしく適当な返答と「まあ今まで通りにがんばれ」というこのころまでの俺を見てきている人たちに言われると、なんだか貶されている気分になる言葉をかけられた。
結果、新幹線で四駅ほどの距離にある、地方都市の進学校へと入学したわけなのだが。
今現在の自身の状況を顧みると、まずったかなあ、という気持ちが膨らむばかりだ。
一、二時間目をつつがなく終了し、三時間目に入って防災ブザーが校内に響き渡った。
誰もが椅子に着席し、さすがに騒いだりはしていない。
担任も黙してはいるがしっかりと教室に存在し、どう考えてもこのまま「おはし」だか「おかし」を遵守し、校庭に向かい、偉いような人の話を一時間分聞いて教室に戻ってきてから、何事もなかったように日常に戻る。
俺がまともな人間関係を構築していれば、そのように進むはずだった。
がしかし、たった一か月、適当に通っていたはずの学校で築いた人間関係は、尋常ではなかったようで、「では並ぶから席を立って」というような文言の言葉を発そうとした担任の言葉を遮る存在が突然教室のドアを激しく開いた。
直感だった。
絶対に、そんなことは有り得ないと、そう信じたかったが、残念なことにこの人に至ってはこんな願いなどか届いてはくれないのだ、だって本当に馬鹿なんだもの…。
「大丈夫?! 太一君!!!」
「何してんですか、先輩」
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