第5話 変態の思惑が見えない。
〈前書き〉
甘い香りがする。
ここは夢の中だ。たまにそう気づく。
ここはどこだろう。
柔らかくて、暖かい。
もう少し、このままで……。
〈本文〉
目覚めると朝で、右側の頬がずきずきと痛む。
畳敷きの床に寝そべっている体を起き上がらせると、体中が悲鳴をあげる。
「いってて...、...っと」
ふらつく体を支えようと手をつくと、何やら柔らかいものに触れた。手はそのまま沈み込み、むにむにという感触が手のひらに広がる。
寝ぼけ眼を逆手でこすり、至福の感触の正体を確かめると、そこには小学生の顔をした小学生ではあり得ない大きさを誇るものを持った美少女が横になていた。
「ふう、とりあえず、落ち着こう。ここは俺の部屋だ、間違いない。この女の子は、高校生で先輩だ。犯罪じゃない」
「んん...あっ...!」
「妙な声を出すなっ!! 起きてるのは分かってますよ!」
「もむんだもん...」
「それに関しては本当にごめんなさい..」
不可抗力とは言え、やっちゃいけないことだよな。
「どうだった?」
「すごかったです」
それだけ返すとむふふと笑い、
「じゃあ許す〜」
寛容な先輩でよかった〜。なんて言ってる場合じゃなかった。
「何してるんですか、こんなところで? ていうか服着てください」
「こんなところって君の家じゃんか」
そりゃそうなんだけど。
「じゃなくて、帰らなかったんですか? 家の人心配しますよ?」
家の人という言葉で妙な顔をした先輩は、
「...優しいね」
暗い顔をして捻り出すように笑顔を作る。
「いや、多分だいたいの人が同じことを言いますけど。一人暮らしなんですか?」
昨日の先輩といい、一人暮らしの高校生って多いんだな。と思ってした質問だったがどうやら違うらしい。
「一人暮らしならよかったんだけどね〜...、私の家はちゃんと両親そろってるよ、仲はよくないけどね」
昨日と比べると明らかに下手な作り笑いで、どう見ても強がっているのがありありと分かる。これはどうしたもんか、面倒ごとへの介入はごめんだ、が、こんなところまで俺のためにきてくれる先輩だ、すこし、相談に乗るくらいは罰もあたらんか。
「ご家庭になにか問題でも?」
鷲崎先輩は、はっとした顔をしたあと、こちらを見ないようにして口を開く。
「何かあるってほどのことでもないんだけどね、ただちょっと仲が悪いの…、お父さんがね、私が小学生のときに仕事をやめて帰ってきたの。それまでは本当に幸せに育ててもらったんだけど、その事でお母さん怒ってね、当然だよね、急に仕事やめて帰ってきたら…。でもそれからお父さんは働く気がないって言い出して、お母さんが一生懸命働いてかせいだお金をギャンブルに使い始めたの。そこからはもう悪化の一途。怒るお母さんに逆ギレして暴力を振るってから、歯止めが効かなくなって、私にも暴力を振るうようになって…。それが中学の時でね、そしたら私、ストレスで身長止まって、こんな体型になっちゃった…」
へへへと笑う顔は全く笑えてなくて、さっきまでの自分が本当に恥ずかしい。
可哀想などとは思ってはいけないのだろう、この人の人生を、俺のような奴が裁定していいはずがない。同情も、むしろ迷惑だろう。
だが俺は、涙をこらえながら笑うその笑顔を見て、少しの愛しさを感じすらした。
「そうだったんですか。まあここにならいつでも遊びに来てもらっていいんで、愚痴も聞きますよ、あんまりいいことは言えませんが。まあ言うだけでも気が張れるって言うでしょ?」
「君は本当に優しいね…」
少しだが、打ち解けられた気がした。
「まあその前に先輩、服、着てください」
でもまあ取り敢えず、昨日の夜、いったい俺に何があったのかは、あんまり知りたくない。
朝御飯を作り、何となく一緒に食べて、よく考えたら今日学校だと二人で制服を着て家を出た。
「それにしても先輩」
「なんだね後輩?」
「中学生で身長は止まったのに、胸は大きいんですね」
「ストレスじゃなくて普通にそこまでが限界だったのやも知れぬ…」
背伸びして、少し悔しそうな先輩。
「それで後輩や、発掘部の入部、考え直してくれるのかね?」
「それは、んー…、また別の話ですね」
そんな話をしてたことをすっかり忘れていた俺には、ひどく新鮮な話題だった。
そう言えば、今日も部活はあるっていってたな。
「今日行ってみて、またかんがえてみますよ」
「そっか、じゃあ今日も君の家にいこうかな~」
半歩前を歩きながらそんなことを言う先輩に、
「襲わないでくださいね」
早朝の自分を呪ってやりたい。でもまあ、退屈せずにすみそうかなと、ちょっとだけワクワクしている。
決して不純な動機ではない。
おっぱい揉めてラッキーとか、超思ってるけどそれはまた別です。
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