後編
不思議な夢を見た。
1羽のペンギンが私に語りかける夢だ。
私と同じコウテイペンギンだ。
凄く大切だったはずのそいつは必死にフリッパーを動かしながら何かを伝えようとしてくる。
だが今の私にそいつの言葉は分からない。
ただただ騒ぎ立てるその声に私は苦しくなって静かにヘッドホンで耳を塞いだ。
「やっと見つけた!!!」
塞いだはずの耳に聞き覚えのある声が届く。
ふと目を覚ますと目の前に昨日の黄色の関羽をぴょこぴょこさせながらツインテールの彼女が立っていた。
「な、なんで君がここに!?」
「周りのフレンズから聞いたのよ。そしたらコウテイ、貴方の場所が分かったのよ」
「こ、コウテイ!?私はコウテイペンギンで…」
「うるさいわねー。貴方は今日からコウテイ!いいわね!?」
「なんて滅茶苦茶な…せめて理由を聞かせてくれないか?」
聞くと勢いを殺さず彼女は口を開く。
「アイドルの先代からコウテイペンギンはコウテイって呼ばれてるのよ、だからコウテイ!」
昨日断ったのにまだ諦めていなかったらしい。
「だから私はアイドルなんてやらないよ…だって私は…」
アイドルーー
それは皆の前に立ち、皆を喜ばせ、楽しませ、時には夢や希望となる存在。
そんなものに私はなれる気がしなかった。
私は否定を繰り返す。
何度も何度も。
「私は…弱いし上がり症だ。コウテイペンギンとは名ばかりでこの姿になってから寒さにも負けるようになった。そんな私がコウテイとしてリーダーになんかなれるはずがない。いや、なってはいけないんだ。」
言い終わるより先に彼女は私の手を掴み、引き寄せて目を合わせる。
「否定ばっかしたきゃそのまましてればいい!!みんなから聞いたわ、貴方がいつも弱気で一人で佇んでるって!そんな毎日が楽しいの!?」
痛い。
「そのまま日が登って暮れるまで否定し続けてその先に色のある世界はあるの!?私は御免だわ!」
痛い、痛い。
「否定し続けてその先に貴方を見る人なんて誰一人としていないわよ!!!歩くより先に自分で否定したらそこで終わりなの!!」
うるさい…うるさい!!
「うるさい!!!君に…私の何がわかるっていうんだ!!!」
気付いたら私は彼女の華奢な肩を掴んで押し倒していた。
その事実に気付いたのはその刹那だった。
「あっ……ご、ごめん… 」
彼女の上から身を引き、その場に座り込む。
すると彼女は起き上がり、優しく微笑みながら私の背中に手を回す。
「やっと表情が生まれた。やっぱりあなた、リーダー向きよ」
抱きつかれ耳元で小さく呟かれた言葉は次々に空に溶ける。
「いい?コウテイ。自分を否定するのは勝手だけどそれは正しい評価ではないわ。本当の否定出来るのは周りの人達。でも私はそれを絶対に許したりなんかしないわ」
「君は…何を…」
「自身を肯定し続けなさい。コウテイ。私だって貴方を肯定し続ける。そして否定するやつは許さない。貴方が肯定し続けられる世界を私が見せてあげる」
彼女は手を解くとその場に立ち上がり手を差し伸べる。
「貴方が見えない貴方の背中を私が見つけてあげる。どんなに暗く冷たい海でも必ず。だからほら」
黒い否定はもう見えなくなっていた。
私は彼女の手を取り立ち上がる。
「そこまで言われたら…信じて見るしかないじゃない。そう言えば名前は?」
「もー今まで誰かわからないでやり取りしてたの?」
「分からないさ。きっと違う縄張りのペンギンなんだろ?」
歩きながら彼女はくるっと回りながら笑顔で答える。
「ロイヤルペンギンのロイヤルよ!」
彼女のその瞳に私は彩を見つけた。
ペンギンの憧憬〜鏡合わせの否定〜 yAchi @yAchi_ainamikoi
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