第12話 ゆめみし
連れて来れれたのは、地下施設……地下シェルターだろうか、見るからにシッカリとした造りで、公共の施設だなぁという感想しかない。
防護服を脱ぎ、佐藤さんに案内されながら中を歩いて行く。
「わかっているとは思いますが、施設内は勝手に出歩かないでください、特には制限はつけないとの話ですが、監視はされていると思ってください」
佐藤さんは、冷たい目で言う。
「あなたは、貴重なサンプルですから、我々が生き残っている限り利用価値があるので」
わかっていたが、はっきり言われてしまった。
「あの……、佐藤さん」
俺は話そうとして声をかけたが、足を止めた佐藤さんは、むっつりとした無表情の顔でこちらに顔を向けただけだ。
「他にも、こんな施設があるんですかね? 他の人たちとかがまだいる場所とか」
「……地下街を改造したり、地下鉄の駅を改造したりして、一般の方々は暮らしています」
「そうですか」
俺は少しほっとして、つぶやく。
他にも人は生きている、村の人たちはそちらの方に居るのかもしれない。
「人は、人類はしぶといのです、負けません」
そう彼女は小さな声でつぶやいて、また歩き出した。
一つのドアの前で、佐藤さんは立ち止まり。
「ここが、あなたの部屋です、似たような部屋ばかりなので間違えないように」
そう言って立ち去って行く、俺は部屋の番号を覚えなきゃいけないらしい。
中に入ると結構広かった、自分の荷物もないので殺風景だが。
備え付けの鏡を見る。
贅肉は大分落ちた、筋肉質になり背も延びた、もともと低かったので180cm無いくらいだが、十分背が高い方だろう。
髪は色を塗ったように白髪が多くなり、目も赤味が多い、充血しているのではなく白めの部分すら赤身が多くなり、ピンク色のようになっている。
色素が無くなっているのではない、変化しているんだろう。
あの怪物たちのように。
「笑えるな……」
無理に笑顔を作ると、犬歯が牙のように大きくなってるのがわかる。
寿命も短くなっているのだろう、どのくらい生きられるか……。
親のすねをかじって怠惰に暮らしていたのに、何でこんな事になってしまったのか。
ふっ、と考える事がある。
あの霧に入って、元の世界に戻ったと思っていたが、実は別の世界なんじゃないかと。
化け物も居ない、親父やお袋も居て、ガヤガヤとやかましく、そこに戻った俺は今度こそ……、いや、そんな事……。
「はぁ~」
大きくため息を吐くと、ベッドに横に転がる。
部屋の隅に置いてある段ボール箱には、着替えが入っているらしいが、今日は面倒だ。
非常灯のような薄暗い明かりが灯る天井が見える。
外には、何処かからか集めてきたソーラパネルが並んでいた、蓄電池も正常に稼働しているのだろう。
今のところは。
何時までちゃんと稼働しているか……、故障をすれば部品も底をつく。
だが、それはすぐではない、近くで数年、数十年は持つだろう。
それまでに、人は復活できるのだろうか。
つまらないことを考えていると眠くなるもので、疲れもありウトウトとしだした。
そして、あの夢だ。
あぁ、思い出した、起きると忘れてしまう、あの夢を見る。
俺は、獣じみた叫び声を上げ、人間を襲っている。
指先の鎌のようなカギ爪で、目の前の人間を引き裂いて、その肉を喰らう。
カギ爪が、ズブズブと肉に食い込み、湿った音を立てて肉ごと皮を裂いていく。
悲鳴を上げ、手足をばたつかせて抵抗してくるが、つかんだ手をあっけなく握りつぶし、腕をひねり関節をはずし抵抗できなくしていく。
その行為にゾクゾクと背筋を震わせ、歓喜の吠え声を上げる。
(止めてくれ! 俺はそんな事をしたくない!)
肉を咀嚼しゴリゴリと骨を噛み砕き、次の獲物に狙いを付ける。
あぁ、やめろ、やめてくれ。
犠牲になっているのは、俺が今まで世話になったり関わったりした人たちだ。
目の前で知っている顔の人たちが、次々に動かぬ肉の塊になっていく。
やめろ、やめろやめろやめろ……。
ナニヲダ? ナニヲヤメル? 人ヲカ? オマエハ人デイタイノカ?
血の海が、まるで赤い鏡のように足元に広がっている。
そこから、俺を見ているバケモノが居る。
俺ハ、オ前ダ、早クコチラニ、来イ。
霧深き町より 大福がちゃ丸。 @gatyamaru
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