幻想の梟少年⑤
「そこから、仮面フレンズが敵を倒してですね!」
「フンフン、それでそれで?」
ここはステージ裏の楽屋の一室。そこにいるコウとヒロユキは先程のショーの話を楽しそうにしていた
全員がステージから去った後、再度ジェーンがアナウンスをし、ショーは無事に終わった。観客全員大盛り上がりで大成功だった
ステージ上が中々にボコボコだったのだが、ペパプはプロ根性でそのままライブをすることにした。『何事も経験よ!』とプリンセスは後に語る
派手な攻撃だったにもかかわらず、そこまでダメージを負っていなかったコウは、ライブの途中でヒロユキと合流し、そこから最後までは一緒に見ることができた
ライブが終わったので、コウはステージの修復作業を手伝おうとしたが却下された。ヒロユキと一緒にいろ、という皆の計らいかもしれない
邪魔にならないようここに移動し、ライブのことをお話しする二人。コウはショーを見ていないことになっている為、ヒロユキがヒーローショーで起きたことを熱く語ってくれていた
「それで僕は、一緒に敵を倒したのです!」
「凄いじゃないかヒロユキくん!君はもうヒーローだね!」
「そうですね。だって私を助けてくれたんですから」
「あそこで立ち向かえる奴は中々いない。見事だったぞ?」
「そ、そんな風に言われると照れるですよ…///」
そこにスッと現れたのはジェーンとキングコブラ。修復が一段落ついた後、皆から行ってこいと言われたそうだ。それがお節介なのかどうかは本人達のみが知ることである
えへへ、と頭を掻いて顔を赤くするヒロユキ。褒めすぎと思うかもしれないが、乱入のお陰で無事に終わったようなものなので、コウとジェーンにとっては大袈裟でもなかった
「注意!注意!特殊型セルリアン一体ガ出現!現在『観覧車』上空ヲ旋回中!」
そんな和やかな空気に水を差す、ラッキービーストからの通達。外に出て観覧車を見ると、全身がやたらメカメカしい鳥型のセルリアンがそこにいた。体長がゴンドラと同じくらいで、今はそれに乗って休憩している
「あ、あれもセルリアンなのですか…?」
「そうだよ。ああいうのはあんまり見ない?」
「はい…。見るとしても小さいのばっかりです…」
人が来て、パークの復興が進んでいるヒロユキの世界では、近年ではそこまで厄介で大きなセルリアンは生まれていない、又は現れても直ぐに退治される
図書館回りは、シロやクロユキが掃除をしている為セルリアンも殆どおらず、ヒロユキが目撃するのも自分と同じかそれより小さな個体ばかり。始めて見るタイプのセルリアンに彼は少し震えていた
「大丈夫ですよヒロユキくん。コウさんが直ぐに倒してくれますから」
「そうだね、あれくらいなら一人で問題なさそうだし」
「無理はするなよ?」
「分かってるって」
心配しながらも止めようとはしていない二人と、それを分かっているコウ。初めて会った時に感じたものがあった為、三人にはそれが成立する信頼関係があるのは分かっていた
だが、心配をかけまいと声をかけているコウの、ジェーンに向ける視線と、キングコブラに向ける視線を比べると、ほんの僅かに違っていたのに気づいた。その意味を、彼はなんとなく理解した
(たぶん、お兄さんは──)
「ヒロユキくん、俺が出したクイズを覚えてる?」
「──ふぇっ?お兄さんが何のフレンズかというクイズですか?」
「そう。お礼…っていうのもなんだけど、ここでスペシャルヒントを出すから、俺が帰ってくるまで考えておいてね?ではシンキングタイムスタート!」ブゥンッ!
「あっ!ちょっとまっ………えっ?」
いきなり野生解放をするコウ。ヒロユキと眼を一度合わせた彼は、グッ!と親指を立てた後、翼を羽ばたかせ、セルリアンの元へ一直線に飛んでいった
その姿を見たヒロユキは止まったが、目線だけは彼を追っていた
コウに突撃されたセルリアンが砕け散ったのを確認したと同時に、脳に情報が到達した
そして叫んだ
「分かるわけないじゃないですかこれー!?!?」
*
「ふぅ~…ただいm」
「お兄さん!」
「うぇっ!?な、なんでしょうか…?」
怒っているような興奮しているような、とにかく色々な表情を合わせたような顔をしたヒロユキに出迎えられ、コウは一瞬怯んだ
「何ですかそれは!?なんで耳と翼は左右で違うですか!?なんで尻尾が三本もあって全部違うですか!?なんで被れないフードがあるですか!?」
そこに飛んで来た怒濤の質問責め。しかし無理もないのである
頭にあるのは、横を向いたオオカミの右耳と、真っ直ぐ立っているキツネの左耳。首元には白いヘビのフード。背中には大きなコウモリの右翼とカラスの左翼。腰辺りから生えているのは、中央にヘビの、右にオオカミの、左にキツネの尻尾
見て分かる異様な特徴。見ても分かるはずがない正体。彼の本当の姿が、ヒロユキの好奇心を爆発させた
「これ当てさせる気なかったですよね!?」
「いや、一応それっぽい名前のはあるから、もしかしたらと思ってね?
「キメラ…名前は聞いたことあります。でも見たことはないです!そんなフレンズもいるのですね!」
コウの回りをぐるぐる歩くヒロユキ。やっぱり恐がらなかったか…と、予想が当たったコウだが、ここまで興味深く見てくるのは予想外だった
「でも、やっぱり分からないですよ…。お兄さんは意地悪です…」
「なっ!?」
「そうですね…流石にこれは…」
「子供に出す問題ではないな…」
「二人まで!?」
落ち込むヒロユキと、便乗して攻撃を仕掛ける二人。クリティカルヒットしたのか罪悪感が一気に込み上げてくる
「ごめん!悪かったよ!お詫びに出来ることはするからさ?何がいいか言ってごらん?」
「じゃあその耳とか尻尾とか全部触らせてください!」
「えぇ…」
気持ちの切り替えの速さに唖然とした。そして確信した。ヒロユキの中には、あの子の遺伝子がバッチリあると
「…まぁいいか。どうぞ?」
胡座をかき、腕を組んで構えるコウ。覚悟完了である
「では…」
後ろに回り、耳、翼、フードと上から順番に触っていく。きっと今の顔は祖母とそっくりだろう
「久しぶりに触りますけど、やっぱり柔らかいですね」
「ああ、毛並みも綺麗だ」
便乗してジェーンがオオカミ耳を、キングコブラがキツネ耳を触りだした。注意をしないとこを見るに、どうやら黙認したようだ
「おぉ~…モフモフですぅ~…」
今度は尻尾を撫で始めた。特にキツネの尻尾が気に入ったのか、手を突っ込んだりしがみついたりしている。コウはくすぐったいのかちょこちょこ動いている
そして、触り始めて数分後
「ふわぁ~…」
「…もしかして眠くなっちゃった?」
「はい…」
この半日で、ヒロユキは多くのことを体験した。違う世界に飛ばされて、昔の遊園地を廻って、ヒーローショーに出て、新しいフレンズを知って。精神的に大きく成長したが、ここらで疲れがドッと出たようだ
「皆でお昼寝しませんか?私も眠くなっちゃいました」
「そうだな…私も少し寝るか…」
「今日は色々あって疲れちゃったよね。起きたら狩りごっこをして、ご飯食べて、また手がかりを探しに行こうね」
「約束…」
「ああ約束だ。だから今は寝てしまおう。お休み」
「おやすみ…なさい…」
尻尾を抱き枕のようにしたかと思えば、ヒロユキはものの数秒で眠りに落ちた
眠気が移ったのか、三人も大きな欠伸をして眼を瞑り、夢の世界へ旅立っていった
───
「…ウ。コウ」
「…ぅぅ?」
「起きました?もう夕方ですよ?」
「オイナリサマ…?」
どうやら起こしに来てくれたようだ。もう夕方…結構寝てたのか。先に起きて外に出たのか、ジェーンさんとキングコブラさんはいなかった
そうだ、彼も起こさないと。約束通り狩りごっこをして、終わったら夕飯を作って…
「…あれ?ヒロユキくんは何処に?」
隣で寝ていた彼の姿が見えない。だから、てっきり俺より先に起きて、皆と遊んでいるのかと思っていたけど…
「ヒロユキ?それは誰ですか?」
「…は?」
オイナリサマは何を言っているのだろうか?さっきまでここにいたじゃないですか。なんなら貴女俺と彼のダブルキック見てたじゃないですか
「…もしかして!」
「あっ、何処に行くのですか!?」
走りだして、会う子達全員に彼のことを聞いて回ったけど、誰も覚えていなかった。あの二人も、キュウビ姉さんでさえもだ
…いや、最初から、ここにはいなかったような感じだ
その現象を、その意味を、俺は知っている
「…無事に、帰れたんだね」
何がどうなってそうなったのかは全然分からない。だけど確信があった。彼は、自分の世界に帰ることができたのだと。その証拠が、皆の記憶の忘却だ。俺が覚えている理由は、同じ経験があるからだろう
俺が両親の元に帰すことはできなかったし、狩りごっこも結局しなかったし、ライブを一緒に見たのも途中からだったし…。約束、全然守れなかったのはごめんね…。それだけが心残りかな…
「…その様子だと、また何かあったのですね?」
「ええ、ありましたよ。聞きますか?」
「はい、後で聞かせてください。…そうだ、その出来事、前にあったことも一緒にして残しておきましょう。また何かあった時のヒントになるかもしれません」
ヒントになるかは疑問だけど…確かに、こんなことがまたあった時の為に、何かに残しておくのは大切だ。日記にでも書いてみるか
…あっ、サンドスターコントロールについて聞いておけばよかった。力の制御に使えたかもしれなかったし…そこは言っても仕方ないか
「…オイナリサマ、夕飯食べたら、稽古つけてくれませんか?」
「いいですが…急ですね。それも何か関係が?」
「まぁそんな所です。さて、行きましょうか」
オイナリサマと並んで観客席に向かいながら、今日起きたことを思い返す
短い間だったけど凄く楽しかった。彼は初めての、本当の意味での、同性の友達。そして、小さな小さな、俺にとって偉大なヒーロー
きっと、彼は忘れてしまうだろう。だけど俺は忘れない。君との時間を。君の勇気を。君が運んできてくれた、ヒトとフレンズの、未来への希望を
「…物語にしてみようかな?」
「物語ですか…良いのではないですか?それだとタイトルも考えないとですね」
「タイトルか…じっくり考えますよ」
とは言いつつ、実は一つ既に浮かんでいる。意外とピッタリなんじゃないかなって
【幻想獣は夢を見る】…なんて、ね
ポケットにある勾玉を握りしめ、二人のことを思い出しながら、俺は皆のいる所へ向かった
────────────────────
「その後、ママが僕を見つけて起こしてくれたのです」
「ああ~、だから暫く僕達にくっついてたのか」
「パパ!それは言わないでいいですよ!」
向こうで寝た後、ヒロユキは無事に帰って来ることができ、彼を
彼の記憶からこの出来事は消えていたが、寂しかったという想いは強く残っていた。故に暫くの間は何処に行くにも両親について回っていた
「にしてもキメラのフレンズかぁ…。パパはどう思う?」
見たことも聞いたこともないフレンズに興味が湧かない訳もなく、クロユキはシロに問いかけるが、彼は難しい顔をしていた
「…パパ?」
「えっ?あっ、そうだな…いたら見てみたいもんだな」
「そうだよね~。僕も会ってみたいよ」
「でも、あれは夢だったのでしょうか?夢にしてはやけにリアリティがありましたが」
「もしかしたら予知夢かもしれないよ?」
「ということは、近々仮面フレンズスカーレットが…」
「キュアミミズクブラウの方じゃない?」
「そっちは絶対にないです!パパは意地悪です!」
「あはは!ゴメンゴメン!」
ポカポカとクロユキを叩くヒロユキ。こういう所も可愛くてついからかってしまう
「でも、ライブに登場する可能性はあるかもね。次はいつだっけ?」
「それはママなら知ってるかもです!早速聞いてくるです!ママー!」
「あっ!急に走ると危ないぞ~!」
ヒロユキが助手のいる図書館に走っていき、クロユキがそれを追いかける。それに気づいた助手が出て来て、三人仲良く図書館へ入っていった。それを見送ったシロの脳内に、ふと昔の光景が映った
かつて、彼を研究に利用し、人間にフレンズの能力を付加させようとした奴等がいた。フレンズのことを何とも思わない最低な人間だった
そいつらはもうこの世にはいないが、ヒロユキの話に出てきた、“コウ”という者の人物像を想い描いたとき、それについて思い出してしまった
自分が生まれる前も今現在までも、複数のフレンズの特徴を持ったフレンズの出現報告はない。話を聞いた限り、その人物はフレンズの子供でもなく、人として生を受けている。そんな彼は、どうやってそんな力を手にしたのか
もしかしたら、彼の世界にも、そういう奴等がいるのかもしれない。もっと言ってしまえば、彼自身がそういう奴で、自分を実験台にしたのかもしれない
「…いや、その子は、きっとそうじゃない」
ヒロユキの話から、ヒロユキにしてくれたことから、悪い人じゃないのは分かったし、そういうことをする人でもないだろう。きっとその彼も、あの世界の彼のように、その力を正しく使い、皆を守ってくれるはずだ
…でも気になったのはそこだけじゃないんだよね。彼もまた、恋路で一悶着ありそうだ
「…紅毛の少年よ、女難の相には気を付けるのじゃぞ?」
かつて俺も、二人の女の子…だけじゃなかった。まぁあれだ、八方美人も程々にな?後で大変なことになって、苦労するのは自分だぞ?…な~んてね
「おじいちゃ~ん!」
「どうしたヒロ~?」
可愛い孫が手を振って呼んでいる。ライブの日にちが分かったのかもしれない。直ぐに行ってやらないと
この子が将来、仮面フレンズになってショーをやるんだとしたら…また俺も、頑張らせてもらおうかね
まだまだ若い子達には、負けていられないからさ?
クロスオーバー
猫シリーズ(気分屋)×幻想の けもの(遊士)
↓お相手様
猫の子:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883670347
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