本編再開

第95話 オオカミ連盟


やぁ、私はタイリクオオカミ。大人気漫画『ホラー探偵ギロギロ』を描いていて、今日もここ、『ろっじアリツカ』で原稿を進めているよ


今日もいつもの場所に、いつものメンバー…がいないんだ。ペパプは揃って練習。キリンは漫画のネタを探してくれている。アリツさんはいつも通り。キングコブラは見回りだ


だけど実は、昨日からいいアイデアが出なくて、原稿は進んでいないんだ。こんな時は何か甘いものを食べて脳を活性化させたいものだね


「という訳で、何か頼んでもいいかい、コウ?」


「…


「プフッ!」


「…何故笑うのですか?」


「いやいやすまないね。ちゃんと約束を守ってくれて嬉しいよ」


「…大変不本意ですがね」


コウは悔しそうな顔をして握り拳を作りながら、私をあるじと呼んでいる。普段だったら絶対にありえないこの光景。何故そうなったのかを少しばかり説明しておこう


遊園地のライブからおよそ二週間が経ち、またいつもの日常を過ごしてきた私達。だけど、昨日それは起こった


あの二人との進展がまるでないコウに対して、キリンがまたまた何かを仕掛けようとしていた。私も漫画のネタになりそうだからそれに乗ったんだ


そうして出た案は、トランプの遊びの一つである『大富豪』でビリになった人は、明日…つまり今日だね、お題に書いてあることを実行する…というものだ。当初の予定と少しズレたけど、まぁ何とかいけると思ったのさ


参加したのはコウ、私、キングコブラ、ジェーン、キリン、フルル。フルルは意外だと思っていたけど、珍しく凄いやる気を出していたよ


それぞれが無理難題にならない程度のお題を書いた紙を、審判役であるプリンセスに渡し、確認が取れたのでゲームをスタートさせたんだ


そうそう、ペパプには私達と同様にコウが文字を教えたよ。個別授業じゃなくて一斉にだけどね。それに対して不満を出した子と安心した子がいたのは言うまでもないね


話を戻そうか。結果はご覧の通り、コウが負けた。革命を仕掛けた所に、フルルの革命返しが炸裂。そのままじり貧になって終わったんだ


で、プリンセスがランダムに紙をめくり、出たお題が──



「しかし、前職なだけあってバッチリだね、

「形だけでなく、まさかまた本格的にやることになるとは…」



──一日だけ、本物の執事のように振る舞うというものだ。因みに主人役は私


ライブが終了して三日くらい経って、キュウビキツネが執事服をどこからか見つけてきて持ってきた。全体的に黒で構成された小綺麗な服だ


試しにコウに着せたところ、私も含め反響はとても良かった。も見惚れていたね。その反応に彼も満更でもなかった様で、こうして数日おきに着て執事としての仕事をしている


彼が言うには、『調べたら一番上に出てきそうな服』らしい。調べるとは本なのか、それとも別の方法なのかは分からないけど、兎に角一般的なものと考えていいらしい


「私はお菓子を作ってきますので、オオカミ様は原稿をどんどん進めていてください」


「ぐぅ…言うじゃないか…」


「甘やかすだけが執事ではありませんので。では」


コウは厨房へ向かっていった。全く、主に対してあの態度…らしいと言えばらしいけどね


ただ、これを利用しない手はない。今日は存分にいい顔を頂こうじゃあないか。今から何をしようか、考えるのもワクワクするね







「…よし、いい感じ」


試しに一つ食べてみると、口一杯に広がる甘さで頬っぺたが落ちそうになる。加減も上手くいった、これならオオカミさんの筆も進むだろう。…進むよね?


朝から作っちゃったからお昼のおやつはどうしようか?…作りすぎたからまたこれでいいか。おいしいし


にしてもこんなことになるなんて…。一日限定とはいえ、まさか主がオオカミさんになるとは…。今日の俺のけものプラズムもオオカミフェンリルだし…。なんで合わせようとするんだ?


そんな事を考えつつ、お盆に紅茶とそれを乗せて彼女の元に。見たことのないとても良い匂いのする食べ物に、早速彼女は興味津々だ。尻尾がブンブン振られている。の主人は意外と正直です


「コウ、これはなんというお菓子なんだい?」


「これは『マカロン』というお菓子でございます。大変カラフルな色をしておりますが、問題なく美味しく頂けます」


「なるほど、どれどれ…」


手始めに茶色のマカロンを手に取り、彼女は一口食べ、飲み込んだ後に紅茶を飲む。頬っぺたを抑えご満悦な様子だ。どうやら合格はもらえそうだ


「素晴らしい出来だね。流石はコウだ」


「恐縮です」


ペコリ、とお辞儀をすると、わしゃわしゃと頭を撫でてくるオオカミさん。いやいや、主従関係になっているとはいえそんな事はしなくていいから


『──!』『━━━━。』


「…ん?誰か来たようだね?」


「ふむ、一体誰でしょうか?」


廊下を歩く音と、誰かが話している声が聞こえてきた。俺とオオカミさんの獣耳は同時にピクッと反応した。表情を見るに、彼女には誰が来たかが分かったみたいだ


「あっ!おはようございますお姉様!」

「久しぶりー!元気にしてたー!?」


「久しぶりだね、イタリアオオカミ、ニホンオオカミ」


ここを訪れたのはイタリアオオカミさんとニホンオオカミさん。二人は昔からの仲間だそうだ。確かに、みずべでのライブステージで一緒に警備をしていた気がする


「今日はどうしたんだい?二人だけ?」


「み~んな予定があって来れないんだってさ~。だから私達だけで来たの。目的は、君に会いに来たのが半分、もう半分は彼ってところかな」


「彼…コウのことかな?」


「おr…私ですか?」


「そうです。私達は貴方を見極めなければなりません!お姉様の、私達『オオカミ連盟』の未来の為に!」


【オオカミ連盟とは】

タイリクオオカミさんをリーダーとし、同じオオカミのフレンズ達で構成されたグループの一つ。群れのようなものでもあり、メンバーは随時募集中だそうだ


他のメンバーは、ツンドラオオカミの “ツンコ” さん、インドオオカミの “インカ” さん、チュウゴクオオカミの “リンリン” さん、シンリンオオカミの “リンカ” さんがいるとのこと。現状でも結構いるんだね


因みに他にもグループはある。俺が知っているのだと、ツチノコさん率いる【チーム噛んじゃうぞ】やバリーさん率いる【百獣の王の一族】だ。最近だと他の子達もグループを作ろうと動いているらしい


そしてこの子…イタリアオオカミさんは、俺を指差して不思議なことを発言した。見極めるとは一体何なのだろう?


「見極めるって…何をだい?」


あっ、オオカミさんが言ってくれた


「オオカミの群れってさ、トップがツガイでしょ?で、私達は一つの群れでもあるでしょ?」


「…成る程、そういうことか」


「そういうことです!」


どういうことだってばよ?当人を置いてけぼりにしないで頂きたい。そしてオオカミさん、そのニヤニヤした顔はやめていただきたい


「つまり、コウをオオカミ連盟に加入させるか、延いては私とツガイになるかどうか…ということだよ」


「ふむふむ、そういう…………はぁ!?!?!?」


ツ、ツガイ!?俺とオオカミさんが!?


「オオカミノ群レノトップハ、基本的ニ繁殖ペアダカラネ。群レニ入レバ、コウハ唯一のオスダカラソウナルノモ不思議デハナイネ」


そういえばそんなこと言ってた記憶がありますね解説ありがとうラッキーさん!だけどその情報は今は要らなかったなぁ!


「私としては入ってほしいな!仲間が増えるのはすっごく嬉しいし楽しくなるし!」


うぐぅ…!ニホンオオカミさんが言うと重さが違う…。そんな期待しているような瞳で見られると折れそうになるからやめて…


「私は認めません!お姉様に相応しいのはこの私です!」


どさくさに紛れて凄いこと言ったぞ。オオカミさんは『やれやれ…』って顔してるからいつもの事なんだろうけど…眼がマジなんだよなこの子…


「あれ?見慣れない方達が…」

「おはよう…って、今日は賑やかだな」

「せんせー…事件は特にない…あら?」

「お部屋の案内をと思ったのですが…」


おっと勢揃いですね。それぞれが話し始めたら収集がつかなくなりそうだ。だけどここにはそれを抑えるいいものがある


パァンッ!と俺が手を叩くと、皆が一斉にこっちを向いてくれた。そこにすかさずマカロンを見せる



「先ずは皆様、お一ついかがですか?」



視線が釘付けになった。食べ物の力は計り知れない




*




さて、いつものメンバーも集まり、オオカミさんが二人が来た事情を軽く話している


「コウとオオカミがツガイになるだと!?」

「コウさんそれは本当なんですか!?」

「お、落ち着いてくださいキングコブラ様、ジェーン様。そのようなことは断じてありません」


まぁそこに食い付くよね。大丈夫、そんなことはないから安心して?


…安心してってなんだ?別に二人とはそういう関係でもないのに…


「私はコウとツガイになっても構わないよ?」

「タチの悪い冗談マジでやめろや!…ですよ」


こっちはこっちで何言ってんだよ!場を混乱させるようなこと言うんじゃない!ほら皆の君を見る眼が一層鋭くなってるぞ!…あれ?俺に対しても鋭くなってない?気のせい?


「くっ…私は屈しません…!これだけで納得させられると思ったら大間違いです!」


マカロンを人一倍美味しそうに食べていたイタリアオオカミさんが何か言ってる。姫騎士か何かですか?


「話には聞いてたけど、やっぱり君って凄いね!ますます入ってほしくなるよ!」


「ぐえっ!?」


ニホンオオカミさんが飛び付いてきて来た。後ろから首に手を回されて密着しているから背中にとても柔らかいものが当たっております。ちょっと離れてください、皆の視線が更に痛くなったので


「どうしても納得できないなら、今日一日コウに付いて回ればいいんじゃないかな?彼を君の眼で見極めるんだ」


「…そうですね。そうですよね!」


なんで俺が連盟に入る前提で話が進んでいるんだ?さっきからこれでもかというくらい否定しているんだが?


そんなことを思っていたら、オオカミさんが原稿の端っこにスラスラと何かを書き始め、それを俺だけに見せてきた


『ああなった彼女はちょっとやそっとじゃ止まらないんだ。だから少し付き合ってほしい。主からのお願いだ』


…はぁ。仕方ない、今日だけですよ?


「覚悟してもらいますよ!私は厳しいですからね!」


「…お手柔らかに、お願いいたします」


という訳で、俺の仕事に監査が入ってしまった。と言っても、やることはろっじの掃除やパトロール、晩御飯の準備くらいなので特にいつもとそう変わらない。暇になったら外で運動したり、本を読んだり、トランプで遊んだりだ


イタリアオオカミさんは粗探しをしようと目を凝らしていたけど、俺のやることなすこと全てが新鮮だったのか、途中から子供のような眼をしていたよ。そんな顔も出来たんだね




*




「どうだった?イタリアオオカミ?」

「…特に問題はなかったです」

「だよね~」


夜になり皆で晩御飯のカレーを食べています。安定と信頼のカレー、好評につき再販売決定!


「これでは私のお姉様が取られてしまいます…」


いや最初から取る気ないし。てか君のじゃない(だろう)し。いい加減誤解(?)を解かないと


「ご安心下さいイタリアオオカミ様、私と主はそのような関係には決してなりません。今後もそのような感情を持つこともありません」


「そうかもしれないけど、そこまで言われるとそれはそれで傷つくんだよね…」


「決して…?今後も…?お姉様に魅力がないとでも言うんですか!?」


あーもう面倒くさいなこの二人!最早分かっててやってないか!?オオカミさんは絶対そうだろ!


「コウが連盟に入ることはないぞ」「そうですよ」


おおっ、キングコブラさんとジェーンさんの援護射撃だ!いいぞもっとやってくれ!


「こいつは私達のグループに入るからな」

「彼は私達ペパプのボディガードになるんですから」


あれーおかしいなー!?いつの間にそんな話が上がっていたんだろぉ~!?本人な~んにも聞いてないんだけどなぁ~!?


「でも気になるね、コウは将来どうするんだい?」


「どうと言われましても、まだ何も…」


俺は今持っているものならどれでもいけるのだろう。何なら後から作られるかもしれないトリのグループや、キツネのグループにも入ることができる。一つに絞っていいのかは分かんないけど


「分かった!好きな人がいるからそこに入ろうとしてるんだ!だから私達のとこに入らないんだね!」


「「「すっ…!?」」」


ニホンオオカミさんがとんでもない爆弾を投げてきたぞ!?よりによって皆がいる前で!


「あれ?もしかして図星?それって誰!?気になるな~!教えてよ~!」


「いや…それは…」


しまった、否定する隙がなくなってしまった…!ポーカーフェイスも機能しないぞこれ…!皆も期待した様子で見てくるし!そんな表情したって言うはずないだろう!?だって、俺が好きなのは…!



好き、なのは…?



「…コウ?」「…コウさん?」


「っ…すみません!少し席を外します!」


「あっ、ちょっと何処に行くのー!?」





*




「はぁ…」


逃げるように出て来てしまった。好きな人…と言われて、ついあの二人を見てしまった。気づかれたくなくて、直ぐに顔を背けたけど


俺は、あの二人のことを…



──八方美人はやめることだ赤毛くん… 二人とも悲しませるよ?



八方美人…か。それに二人…そこまで見抜かれていたとはね…。つくづく不思議な人だったな…。だけど…そうだね、いい加減認めるよ



俺は、二人のうちのどちらかを、女の子として好きだってこと



──目を閉じた時、始めに思い浮かぶのは?



…ごめんなさい仮面フレンズホワイト、俺にはまだ、片方だけ出てくるという現象が起きません


今の環境は、今のこの関係は、正直居心地が良い。二人と仲良く、毎日を過ごしているから


だからこそ、このままじゃいけない。思わせ振りな態度は、相手にとても失礼だから。例え相手が、俺のことを何とも思っていなくても。友情か愛情かハッキリさせないと



現状から抜け出すには、大きく動くしかないんだ



「…何か、きっかけが欲しいな。大きな、何か」



自分で何かしなきゃいけないってのに。俺は、なんて情けないんだろうね…

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