番外編(?)2
幻想の梟少年①
ジャパリパーク。そこはサンドスターという物質によって、動物達が『アニマルガール』と呼ばれる女の子の姿になり、毎日を楽しく過ごしている場所。時が経った今では、彼女達は『フレンズ』とも呼ばれている
そして、ここはパークのキョウシュウエリアの図書館。島の長であるアフリカオオコノハズクとワシミミズクが住んでおり、来客の相手をしたり、料理に舌鼓を打ったり、静かに本を読んだりしている
しかし今日は何やら違う様子。テーブルには多くの料理が並び、賑やかな声が聞こえる。その理由は…
『ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデーディア…』
『ヒロユキー!!!』
『ハッピバースデートゥーユー♪おめでとー!』
「ありがとです皆さん!」
綺麗に飾り付けられたバースデーケーキの蝋燭の火を少年がフゥ~…と吹き消すと、パチパチと拍手が起こる。彼は今日誕生日であり、たくさんの人に祝われている
そう──ここはジャパリパーク。だが、場所、時代、人物。全て、というわけではないが、何もかもがと思ってしまうほど、あのジャパリパークとは違っていた
嘗てこのパークに、一人の少年がやって来た。その少年はフレンズとヒトの子供でありハーフであった
彼の名は “ユウキ”。親しみを込めて “シロ”と呼ばれている
そんな彼も結婚し大人になり子供も生まれた。妻の名は “かばん”。息子は “クロユキ”…通称 “クロ”。娘は “シラユキ”…通称 “ユキ”。子供もそれぞれ結婚し、孫も生まれ成長した
様々な困難を乗り越え、愛する者と結ばれた彼等の人生が気になる方は、“
そんな彼等の物語は終わりを迎えた。つまりこれは過去のお話
猫が最期を見届ける、ほんの少し前の出来事である
*
誕生日を祝われているのは、クロユキとその妻である
母親譲りの茶色の髪と口調、父親譲りの少しくせっ毛のある髪と頭脳。チェックの半ズボンを履き、ベストにワイシャツを着て、首元には蝶ネクタイが付いている
他にも得意なことや好きなこと等たくさんあるが、それは追々話そう
彼は今目の前にある豪華な料理に心を奪われている。因みにこれは母親譲りである
「じゃあ、そろそろ食べよっか!」
「そうですね。では皆さんご一緒に…」
『いただきます!』
ピザやスパゲッティ、お寿司にうどんにカレー等、まるでバイキングのようにバリエーション豊かな料理を各々自由に皿に取っていく。人数が多いのでどんどん無くなっていくが、特に問題はなさそうだ
「いやぁ朝早くから作っててよかったな」
「沢山ある理由はそれだけじゃないけどね…」
「アハハ…このペースだと全部食べちゃいそうだからいいんじゃないですか?」
「残ったら明日のお昼にでもするのです」
いつもの三倍以上はある豪華な料理。何故そうなったのかはちゃんと理由がある
今日はヒロユキの10歳の誕生日という大きな節目である。地域によっては『2分の1成人式』と呼ばれる行事もあり、大きく祝う所もある
それを聞いた(孫に滅茶苦茶甘い)シロと(親バカと化した)クロユキが、それなら今日は盛大に祝おう!と気合いを入れ、そこからいつの間にか夫婦同士での料理対決が実現した
激しさを増していき次々と出来上がっていく料理。山盛りになったそれを前にしてようやく冷静になった四人。直ぐ様ラッキービーストの通信で他のちほーからお客さんを招いたのだった
それを見た子達は大感激した。もちろんヒロユキも眼を輝かせていた。その様子を見たクロユキは少し呆れながらも嬉しそうにしていた
「大きくなったなぁヒロも。最近また背伸びたんじゃない?」
「僕は成長期ですので!これからもっと大きくなって、直ぐにパパもママも追い抜くです!」
「フフッ、楽しみにしているのですよ?あっ、ほっぺにケチャップがついていますよ?ほら…」フキフキ
「んむっ…ありがとなのです。ですがこれくらいは一人で出来るです!僕は賢いので!」
彼が大きくなったと言っても、両親からしたらまだまだ子供である。しかし、その発言から成長が伺えるのは、親としては嬉しいことであり、ほんの少しの寂しさもあった
*
料理を食べ終わり、皆が自由にしている中、ヒロユキは少しそわそわしていた。待ち合わせをしているかのように回りをキョロキョロしている
「ヒロくん、何か気になることでもあるんですかねぇ?」
「い、いえ?特にないですよ?」
「ならトイレですか?」
「違うです!」
ヒロに声をかけてきたのは、サーバルとシンザキの息子である “サバンナ” …通称 “サン”。凄い名前だが、サーバルがつけたと言えば皆納得する名前である。彼はからかっているわけではなく、本当にただただ疑問に思っていた
そんな二人の元にシロが来た。後ろに回した手を前に持ってきて、綺麗に包装された何かを彼の前に差し出した
「ヒロ、はいこれ、誕生日プレゼント」
「あっ!おじいちゃんありがとうございます!」
プレゼント…子供にとって、誕生日というイベントで一番楽しみなものだろう。普段では手が届かない物も、この日なら手に入るかもしれないのだから
ヒロユキにとっては料理もプレゼントと同じくらい大切だったが、あれはあれ、これはこれである。彼は包装を破らないよう綺麗に外し中身を確認する
「あっ!これは最近発売された歴代『仮面フレンズ』のブロマイド!しかも初回限定盤の初代フィギュア付きじゃないですか!」
「ヒロも最近勉強頑張っているからね。確保しておいたんだ。大切にしてね?」
「一生大切にするです!本当にありがとうございます!やったー!」
成長したとは言っても好きなものは年相応である。彼はパークで大人気のヒーロー『仮面フレンズ』の大ファンで、手に入れたグッズは部屋に飾ってあるくらいである
限定品であった為手に入らないと思っていた物が、今自分の手の中にある。はしゃいでしまうのも仕方ないのだ
「歴代の仮面フレンズ…!ホワイトに、ブラックに、サバンナに、それからそれから………………」
歴代ヒーローを確認していくヒロユキだが、し終えた後で何故か固まっている。それを見て首を傾げるクロユキ
「どうしたヒロ?」
「えっ?何でもないです。早速飾ってくるです!」
図書館から少し離れたところに彼等の家があるのだが、ヒロユキが生まれたのもあってまた増築し、今では中々大きくなっていた。俗にいう二世帯住宅であり、シロ夫婦とクロユキ家族はそこに住んでいる
自分の部屋に向かったヒロユキの後ろ姿を見てそれぞれが口にする。『本当に大きくなった』『まだまだ子供だ』『将来仮面フレンズをやらせよう』などだ
ただ、シロとクロユキは違うことを考えていた
*
「ねぇパパ?」
「どうしたクロ?」
「ヒロのさっきの反応、どう思う?」
皿洗いをしながら問いかける。クロユキが気になったのは、プレゼントを貰ったヒロユキの表情だ
大好きな物が手に入り、心から喜んでくれたのは分かっている。その後に見せた表情に引っかかった
「抜けがあるとかはないからなぁ…」
「だとしたら…もしかして…」
「もしかして、夢で新しい仮面フレンズに会ったとか?」
お互いにその答えの検討はついていた所に、たまたま通りかかり聞いていたシラユキがそれをズバッと言った
猫はしばしば夢を見る。シロ、クロユキ、シラユキ、サン。そして彼等は知らないが、ここにはいないとある女の子も、過去に不思議な体験をしている。共通点は、全員フレンズの子供、その関係者であるということ
もしそうであれば、ワシミミズクのフレンズである助手と、ほぼヒトのフレンズであるクロユキの子供であるヒロユキも、何らかの経験をしていてもおかしくはない
「仮面フレンズ参上!トゥ!」
「助けて仮面フレンズ~!」
『出ましたねぇ仮面フレンズ!今日こそは決着をつけますかねぇ?』
「サン兄さんなんで疑問系なのですか!?」
向こうではヒロユキとサンが仮面フレンズごっこをしている。ヒロイン役の博士は結構ノリノリだった
「あれが終わったら聞いてみようか」
「そうだね。ママにはどうする?」
「取り敢えず俺達だけで聞こうか。男だけの秘密の話だ」
「あっ、何かそれいいね。そうしよう」
*
「ヒロ、ちょっといい?」
「パパにおじいちゃん、どうしたのですか?」
片付けを終えたシロとクロユキがヒロユキの元へ。ごっこ遊びに満足したのか、彼は一度仮面を外し水を飲んでいた
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、変な夢を見たことはない?」
「変な夢?」
「そう、ここと似ている場所に行ったとか、似てるけど違う人に会ったとか」
「う~ん…?」
顎に手を当て、眼を瞑り考え込むヒロユキ。奥底に眠る記憶を掘り返し…
「…あっ!ありました!」
大きな声を出したヒロユキに対して、やはりな…と思った二人。彼もまた、同じ体験をしていたのだ
「その話を聞かせてもらってもいいかな?」
「分かりました。あれは、確か3年前──」
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「もういいでござるか~!?」
『もういいよ~!』
「よし、行くでござるよ!」
彼が7歳だったころの話。その日彼はへいげんでかくれんぼをしていた。へいげんの皆も家族も全員参加の大規模かくれんぼで、場所はヘラジカ陣営のいるお城の跡地だ
「フフフ…ここならバレないのです…!何故なら僕は賢いので!」
その一室で隠れているヒロユキは得意げな顔をしていた。鬼役のカメレオンが近づいてきたが、彼のいる場所に気づかずに別の場所へ移動したからだ
「ふわぁ~ぁ…」
隠れてから数分後、彼は大きなあくびをした。お昼ご飯に、かばんとサーバルが作った特製弁当をお腹いっぱいに食べた為、急激に眠気が襲ってきた
周りからはドタドタと足音がする中、彼は睡魔に勝てず、横になり眠りに落ちた
*
どれくらい経っただろうか。ふと眼を覚ました彼は、周りから話し声や足音が聞こえないことが気になり、そこから移動することにした。少し歩いたところで異変に気づいた
「…皆、何処に行ったですか…?」
さっきまで遊んでいた全員がいなくなっていた
名前を呼んだり隅々まで探したりしたが、誰一人として見つけることはできなかった
何かがおかしいと思いながらも、彼は一旦ヘラジカ城を離れ、ライオン城へ向かうことにした。もしかしたらそちらにいるかも知れないと考えたからだ
「…あれ?もしかして今は朝ですか…?」
外に出ると、優しい日差しが彼やへいげんを照らしている。そこでも彼は違和感を覚えた。日付が変わるほど長く寝ていたようには思えなかった
それにかくれんぼで遊ぶ時は、どんなに上手く隠れても、いつも最後には父親のクロユキか、母親の助手が彼を見つけるのだ。彼が両親から時間いっぱいまで隠れきったことはなかった
心に不安が生まれた彼はライオン城へ走った。入口に着くと、塀の陰からヒョコッと出てる尻尾を見つけた。青くて大きくて可愛らしいそれをつけたものは、頭にジャパリまんの入ったかごを乗せてぽてぽてと歩いている
「あっ!ラッキー!」
ラッキービースト。彼にとっても馴染み深いものである。名前を呼ばれたそれは、ゆっくりとヒロユキに近づき…
ピロピロピロ…
「…初メマシテ、ボクハ、ラッキービーストダヨ。君ノ名前ヲ教エテ」
自己紹介の挨拶をした
「えっ…?ぼ、僕は、ヒロユキ…です…」
端から見たら特に違和感など覚えない普通のやり取り。しかし彼にとってはそうではない
図書館にも当然ラッキービーストはいる。そして、このキョウシュウのラッキービーストはヒロユキ達のことはよく知っているし、彼もまたラッキービーストをよく知っている
まるで初対面であるかのような挨拶に、彼の不安は大きくなるが何とか返事をした
「ヒロユキダネ。君ハ何ヲ知リタイ?」
「えっと…皆は何処に行ったですか?」
「『へいげん』ノフレンズナラ、皆『遊園地』ニ行ッタヨ。今日ハ『ペパプライブ』ガアルカラネ」
「…ペパプ…ライブ…?」
また何かがおかしい気がした。ペパプライブは最近したばかりであり、告知もなくやるはずがないのは知っている。家族がそれを黙っている筈もないし、知っていても彼一人を置いていくなどあり得ない
「他ニハ何カアルカナ?」
「…あっ!パ、パパに繋いで下さい!クロユキって名前なんです!」
「クロユキ…検索中…検索中…検索中──」
父親のクロユキは、かばんから受け継いだ小型ラッキービーストをつけている。連絡が繋がれば何処にいるかは一発で分かるだろう
しかし、返ってきた言葉は
「──該当者ナシ」
彼にとって、理解できないものだった
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アノカドーヲーマガァレバー♪アナタニーデーアウヨカンー♪シャーラーララララーラー…♪
ピッ!
「…うぅ…眠い…」
へいげんのライオン城の一室で、眠そうに目を擦る人がいた。今日のけもプラガチャの結果である、漆黒のコウモリの翼を軽く羽ばたかせているのは、ジャパリパークにいる唯一のヒトであり、男であり
そして、フレンズでもある少年 『
昨日は夜遅くまでセルリアン退治をしていた為、そのまま城に止まり熟睡していた。普段なら目覚ましを止めてももう少しだけ寝ている時間である。まだだるいのかゆっくりな動きで起きようとしていた
「…もうちょい…ねれる…」
と思っていたら二度寝をかました。今日は大切な用事があるというのに呑気なものである
しかしこの後、予想外のことで起こされるなど、この時の彼が知るはずもなかった
クロスオーバー
猫シリーズ(気分屋)×幻想の けもの(遊士)
↓お相手様
猫の子:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883670347
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