幻想の梟少年②


僕はヒロユキ…。みんなは “ヒロ” って呼んでくれています…


でも、今ここにはそう呼んでくれる人はいません…


かくれんぼ中につい寝てしまって、起きたら皆いなくなってました。探しても見つかりませんでした


外は明るくて、朝になっていたのが分かりました。だけど何か変な感じがしたので、僕は急いで大きい方のお城に向かいました


そこにはラッキーがいたので話を聞いてみると、皆遊園地に行ったと言いました。だけどそんなことはあり得ないです。僕を置いていくなんてこと、皆は絶対にしないです…


だからパパを呼んでもらうことにしました。そうすれば、きっと僕のところに来てくれる。そう思っていたのに…



「──



該当者…なし?そんなことない、パークにいないはずないです…


その時、おじいちゃんが言っていたことを思い出しました



━━━━━━



『ラッキーってね、たまに調子悪くなるんだよ。余計なことを言ったり勝手に録音したりそれを流したり』


『そうなのですか?あんまり想像できないです』


『いやいや、酷い時は本当に酷いんだよ?最近はそこまでじゃないけど、昔は結構あったんだ』


『…音声サンプルヲ再生』


『そうそう、こんな感じで………は?』


【ねぇシロさん… きて…?】


『このバカ野郎がぁぁぁぁぁぁあ!』ブンッ!


『アワワワワ…!』ヒュイー


『…こういうことなんだ』


『な、なるほど…』



━━━━━━



これはきっと、あのお話の通り、ラッキーの調子が悪いだけなのです…。きっと皆、僕をビックリさせようと、何処かに隠れてるだけなのです…



そうじゃなかったら、僕は、どうしたらいいですか…?







「…………!」

「──!?────!」



「…んん?」



ライオン城の一室で寝ていたコウは、外から聞こえてきた声で目を覚ました。聞き慣れた声と聞いたことのない声だ


『朝から賑やかだねぇ~…』と呑気に思っていたが、よくよく考えてみるとおかしいことに気づいた



(…ラッキーさんが、話してる?)



声の一つはラッキービースト。基本的にヒトに対してのみ会話をする。コウが許可すれば、フレンズとの会話も可能になるが、今日はそんなことはしていない


つまり、それが意味することは


恐る恐る窓を開けて外を覗く。そこでは何やら慌てている二人が見えた



「該当ナシ…該当…ナシ…アワワワワ」

「なんで…なんでですか…!?」


「──っ!?」



目の前の光景に言葉が出ないコウ。それもそのはず、そこにいたその人物は、彼にとってあまりにも信じがたい者イレギュラーであった



フレンズの特徴なんて見えないであること。幼い男の子であること



見た目だけの理由だが、これだけで彼の頭はショート寸前にまで追い込まれていた。前にあったリンの時とは何かが違うと直感した。直ぐにでも問い詰めたかったが、体が金縛りにでもあったかのように動かなくなる



「パパ…ママ…どうしたら…ぇぅ…」



だが、チラッと見えたその子の表情と聞こえた言葉に、彼の心は動いた


かつての自分が、その子に重なった


そして、やることは決まった


(まずは少しでも不安を取り除く。問題は、何をすればいいのか…という所だ。いきなり出ていって『オス!オラ紅空コクウ!よろしくな!』とかやってみるか?)


ふざけているようにしか思えないが彼は真面目である。ちゃんとそれは彼の脳内会議で却下された


何か使えるものはないかと手当たり次第に体中を確認し、ポケットに突っ込んでいた物を取り出した。そして、ある一つの作戦を思い付いた


彼は音楽プレイヤーから曲を流しながら、窓から外へ飛び出した



*



「パパ…ママ…」


どんどん不安が押し寄せてくる。ヒロユキの顔色はどんどん悪くなっていき、目に涙を浮かべていた



ダァンッ!



『仮面フレェンズッ!参上ゥッ!トゥ!』ヒロガルウチュウノナカ♪キャンユフィール♪



そんな時、誰かが窓から飛び出してきた。ご丁寧にBGM付きである



「ふぇ…?仮面フレンズ…?」



コウがとった行動は、かつてパークで大人気だったヒーロー『仮面フレンズ』の物真似であった。BGMも真似ようとしたのかそれっぽいものが流れている


彼も小さい頃は、アオイも演じていた仮面フレンズのショーをよく見に行っていた。覚えているのは、ヒーローの格好よさと、観客達の黄色い声援


もし、目の前にいる男の子も、かつての自分達と同じなら、少しは意識が向くだろうと思いそのような行動をした


その狙いは見事的中し、ヒロユキはコウに視線を向ける。表情はまだ暗いが意識がこちらに向いた。そんな彼が、初めてコウに向けた言葉は



「…登場ポーズが違うです」



まさかのダメ出しだった



「…あれれ~?おかしいぞ~?どこが違うんだろぉ~?(すっとぼけ)」



しかし、これもコウの作戦の一つである。最近はヒーローショーの練習浸けだった為、資料に載っていたポーズは把握済みである。わざと間違えて反応を見ることも狙いだった。結果は、彼にとって最高のものだった



「ねぇ君、良かったらお兄さんに教えてくれないかな?」



その一瞬をコウは見逃さない。少しでも楽しいことを、好きなことを共有することで、彼から悲しみを遠ざける


状況がよく分かっていないような顔をしていたヒロユキだが、印象に残った言葉を繋ぎ合わせ、答えを出した



「…いいですよ、僕が教えてあげるです!」



涙を拭い、元気よく返事をしたヒロユキ。早速コウの前でポーズを取り始める


彼は仮面フレンズガチ勢である。ただし、誰これ構わず自分の趣味を押し付けるような子ではなく、キチンと相手を見て話せる子である


コウを自分と同じ種類の人だと判断したヒロユキは、割りとガチ目に指導していく。それを楽しそうに受けているコウを見て、ヒロユキは凄く嬉しそうな顔をした


「ここはこう!なのです!」ビシィッ!


「こうだね?フッ!」ビシィッ!


「そうです!お兄さん飲み込み早いですね!」


「だろう?…だけどまだ不安が残るな。そうだ、お手本を見せてほしいな。お兄さん怪人役やるからさ?」


「お安いご用です!仮面フレェンズッ!参上ゥッ!」ドヤッ!


「出たな仮面フレンズ!今日こそこの怪人テツヤツヅキが決着をつけてやる!」


へいげんの一角で繰り広げられるプチヒーローショー。ラッキービーストの状態が元に戻るまでの間、二人の遊びは終わらなかった




*




「ありがとう、これで俺はまた仮面フレンズに近づけたよ!」


「どういたしまして!これでバッチリですね!」


ガシッ!と熱い握手をする二人。友情に年齢や世界は関係ないのだ。いい笑顔が見れたところでコウは本題を持ち出す


「…よかった、少しは落ち着けたみたいだね?」


「あっ…」


涙は引っ込み、さっきまでよりもだいぶ心に余裕ができていたヒロユキ。冷静になってきた彼は目の前にいるヒトを観察し始める


「そういえば自己紹介してなかったね。俺はコウっていうんだ。君の名前は?」


「僕は…ヒロユキです」



(コウ…さん?紅い瞳に、紅い髪…。背中には大きな黒い翼があって、パタパタと動いてアピールしています。図鑑で見たコウモリの翼に似ています。おじいちゃんや僕と同じハーフに見えます。


…だけど…どこか不思議な感じが…気のせいでしょうか…?)



「よろしく、ヒロユキくん。君はどこから来たの?縄張りは?」


「えっと…」


ヒロユキは、図書館に住んでいることや、ここに来るまでのことを話した。所々つっかえながらも全て言い切った


「…なるほどね。確認したいんだけど、ここに来るまでに、見たことのない何かに出会ったり、変な空間を通ったりはした?」


「…? いえ、寝ていただけです…。普通に起きたら、こんなことに…」


「そっか…」


それを聞いたコウは真剣な表情をし、顎に手を当てぶつぶつと呟き始めた。『隙間』『特殊セルリアン』『異変』といった、ヒロユキにとっては不安を感じる言葉が次々と聞こえてきた


「これは…どう説明しようか…」


言おうかどうか迷っている様子のコウ。それを見たヒロユキの表情は再び暗くなり俯いてしまう


「あっ…ご、ごめんねヒロユキくん。えっとね…」


「あの…お兄さん…。僕も、質問いいですか…?」


「…うん?別にいいけど…」


そんな中で、ヒロユキはある一つの可能性にたどり着いた


自分の中に生まれたそれが、本当かどうかを確かめるために聞くことにした。聞かなくても苦しいのなら、聞いて少しでもスッキリしたいから



「…?」



意を決した質問だった


普通であれば、質問を返したくなるような質問である。ここがへいげんだというのは自分でも分かっているからだ。他のフレンズだったら『何でそんなことを?』とでも言うだろう


だが、コウにはその質問の意味が分かった


だから、誤魔化さずに答えた



「…へいげんだよ。



それは、少年にとって残酷な現実だった



「…やっぱり、そうなんですね…」


だが、その答えを聞いて、意外にもヒロユキは納得していた


彼は聡明な子である。7歳にしては知識は豊富で物事を考えるのも得意であり、些細なことにも気がつき興味を持つ。だからこそ、ここまでの様々なことが引っ掛かっていた


進みすぎている時間、消えた家族達、ラッキービーストの反応


そして、コウという存在


ヒロユキの話など、子供の妄想ということで片付けられてしまってもおかしくないだろう。だというのに、コウという人は、最初からそういうことだと分かっていたかのような振る舞いだった。それは、彼がその考えに至るには十分な要素だった



「うぅっ…ひっく…ぐすっ…」



こんな状況に耐えられるはずもなく、彼は泣き出してしまった。違う世界に迷いこんでしまったと、自分は一人ぼっちになってしまったと理解してしまったから


帰り方なんて分からない。そもそも帰れるのかすら分からないのだから


そんな彼を抱き寄せて、頭を撫でて背中をさするコウ


「…寂しいよね。不安だよね。分かるよ、その気持ち。俺も、似たような体験してるからさ」


「お兄さんも…?」


「そっ。だけどさ、俺は今ここにいる。最後にはちゃんと家に帰れたんだ。だから、君も帰れるよ。直ぐにとは言えないし、方法なんて俺もまだ分からない。だけど、俺が絶対に君をパパとママの元へ連れていくと約束する。だから、俺を信じてほしい」


正面から向き合い、目線を合わせ、真剣な表情で見つめ、ヒロユキの手を包み込むように握り微笑む


普通に考えれば、今日初めて出会った、しかも異世界の住人のことなど到底信用できるはずがない


「…僕は、お兄さんを信じる…」


だが、この人の言っていることは嘘ではないと、この人は信頼できるとヒロユキは思った。先程のごっこ遊びもそうだが、行動と言葉に、優しさと力強さを感じられたから


「…ありがとう。なら、早速動いてみよう」


「動くって…何かするのですか…?」


ヒロユキの問いかけに、ニヤリ…と笑い目的地を告げた


「ヘラジカ城に行こう。少し考えがあるんだ」



*



現在二人はヘラジカ城の中を歩いている。何をするのか検討もつかないヒロユキに対し、コウは話題を作り投げ掛ける


「やることはその場所に着いたら話すね。それ以外に何か聞きたいことはある?」


「なら…お兄さんは、何のフレンズなんですか?」


「むっ…やっぱりそこは気になるのね」


先程からピクピクと動いている翼を指差しながらヒロユキは質問をした。ヒロユキは、コウは自分と同じハーフではないと思っていた。そう感じてしまう原因は、その背中の翼にあると考えたのだ


決して父親クロユキ祖母かばん曾祖母ミライのように、フレンズが持つ特徴に魅入られた訳ではない…はず


「見た目通り、コウモリのフレンズ…じゃないんだよね。色々複雑なんだ、俺」


「複雑?やっぱり僕と同じハーフではないのですね?」


「そうそうこれが違うんdハーフ!?君ハーフなの!?本当に!?」


「え、ええ…。僕は(ほぼ)ヒトのフレンズとワシミミズクのフレンズとのハーフです…」


「ヒト!?ワシミミズク!?」


コウの心は驚愕でいっぱいになる。まさか本当にそんな存在がいると、出会うことなんてないと思っていたからだ



(ワシミミズクってことは…助手か?ヒトのフレンズが男ってことは、そのヒトもフレンズの子供って可能性が高い…。ヒトのフレンズだから母親もヒトのフレンズ…?…まさかそういうこと!?だとしたら助手とそのヒトの年齢差凄くない!?)



頭の中にヒロユキ家の家系図を勝手に作りながら、コウはヒロユキの回りをグルグルと歩き、ワシミミズクの特徴を探している。しかし彼は野生解放をすることで羽が出る為、どんなに見ても意味はない


「あの…」


「はっ!?ご、ごめんね?ビックリしちゃってつい…」


「いえ…大丈夫です」


ジロジロ見すぎたと反省したコウ。自分と同じく普段は出ないのだろう、と思ったので観察は終了した。あと家系図も消した


「ハーフではないのなら、いったい何のフレンズなのですか?」


「へっ?えーっとね……あっ、ここかな?」


「あっ、そうです」


そうこうしている間に着いた場所は、ヒロユキがかくれんぼで隠れていた部屋。特に変わった物はなく空気も特におかしくはない


「ここで何をするですか?」


「これを使って、この部屋を調べてみようかと思ってね。もしかしたら、ヒロユキくんが迷い混んだ原因があるかもしれないからね」


コウは右手を広げ、握りしめていたものをヒロユキに見せる。それは、キラキラした石のような物だった


「綺麗ですね。これは何ですか?」


「『勾玉』。御守りみたいなものだね。まぁ見ててよ」


コウが再び握りしめ、ヒロユキから少し距離を取り深呼吸をする。すると、彼の体から光が溢れ出した


「うっ…!?」


思いの外強かった光に、手で顔を覆うヒロユキ。瞳を瞑ってもなお眩しいくらいだった



(…えっ?)



だが、彼のとても薄く開かれた瞳は確かに捉えた



(…耳と…尻尾…?)



一瞬だけコウに現れた、真っ白なキツネのような耳と尻尾を

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