双子のお姫様のお悩み

@duke-bear

第1話

「はあ、またこの季節がやってきましたか…」

「そうですね。いつものことながら憂鬱です…」


そう言ってため息をついたのは、この王国のお姫様である二人。

民の間では双子姫と呼ばれて慕われているそんな二人の目下の悩みは、この季節になると爆発的に増えるポーレンと呼ばれる草である。

草ぐらいで何を大げさなと思うだろうがこの草はある季節になると1日で庭いっぱいになるまで伸びるという特徴があり。しかもどこにでも生えているので、この時期人々は除草にかかりきりになってしまい、公共機関から一般の店にいたるまでもが休みになってしまうのである。つまり、この時期はどこに行っても何もしていないし、できないということなのだ。

なにもできないので当然しわ寄せも発生する、そして割を食うのが行政機関のトップである王族たちなのだ。具体的にはいつも威厳に溢れる偉大な王様がちょっとあれな言動を繰り返したりするようになってしまう。そんな王様を支えるために王妃から姫様、幼い王子まで全員が対処にあたりいつもどうにか乗りきっているのである。


「今回もまた書類の山と戦わなければならないのですね…」

「お父様たちもお年ですし、私達のかわいい弟ちゃんには負担が大きすぎますから、私達二人が頑張るしかないですよ。」

「なにかこう、画期的なアイデアなんてないですかね?」

「あったら、お父様たちがすでに実行してますよ…」

「そうですわよね。やっぱり1番の近道は、地道な作業ですわよね。」

『はあ……』


そんな風に頭を悩ませている人たちがいる中、この季節を楽しみにしている人もいたりする。


「おやっさん、今回こそはかたせてもらうぞ!」

「はっはっは、まだまだお前なんぞには負けたりせんわ。」


この会話は工房主とその弟子の会話である。


「お前さんたちはよくやるねぇ。この季節なんて鬱陶しいだけだっていうのに…」

「まあ、その分私達は楽させてもらえるんですから、いいっこなしですよ女将さん。」


工房主とその弟子はどちらがより多くポーレンを刈れるかという勝負を毎年のように繰り返しているため、この近所ではポーレンに悩まされることが少なくなっているのである。


「鬱陶しい雑草は生い茂るは、この時期に売れるものも無いしで本当にこの季節はろくなことがないねぇ。」

「はっはっは、だったら町をあげて祭りでも開催してみるか!」

『祭り?』

「おうよ、この町で1番誰がポーレンを刈れるかっていう祭りよ!」

「そりゃいいっすね、おやっさん!!この町1番には俺がなるっすよ!」

「へぇ、あんたにしちゃまともなこと思いつくじゃないか。」

「男なら誰しも1番になりたいもんだろ。」

「じゃあ、町長にかけあってみようかねぇ。」


そして、町長とかけあったところ開催が決定したのであるが当然そのことは王族の二人にも届き、その結果、国を上げての祭りにグレードアップを果たしたのである。


「ふふふ、やりましたわ!」

「ええ、お姉様。仕事が無くならないならその仕事の中身を有意義なものに変えてしまえばいいのですよ!!ただ王家主催ですので、前準備が忙しくなりますけど…」

「そのぐらいは、あの無意味に感じる書類整備よりましですわ!」

………


二人の書類整備への愚痴が一通り言い終わったあと、祭りはどうするかという建設的な話に変わり始めた


「お姉様、祭りはどのように運営するべきでしょうか?」

「そうですわね、国全体でやるべきでしょうね。」

「でしたら町ごとの予選、王都での本選にしましょう。」

「王家からの代表も出すべきでしょうね、騎士団の方たちに頼んでみましょうか。」

「まあそれが妥当ですわね。」


このように着々と祭りの準備が整っていき、祭り予選当日例の村では


「よーっし、この町1番になって王都でも1番になるっすよー!」

「はっはっは、お前さんなんてまだまだということを思い知らせてやるわい。」

『お前ら二人だけが優勝候補だと思うなよ!!』

『あんたたち負けるんじゃないよ!』


なんていうふうに工房主とその弟子だけじゃなく町の男衆とその奥さんたち、町全体がヒートアップしていた。

他の町でも同じように大きな盛り上がりをみせ予選は大成功をおさめたのであった。


本選当日、我こそが一番であるとやる気を漲らせている予選通過者の中に他の参加者よりも激しいやる気をみせている一団がいた。


「団長わかってますよね?この祭りはただの祭りじゃないって。」

「わーってるよ、俺達は王家の名代で出るんだから無様なことはできねぇし、いつも苦しんでおられた陛下たちの仕事の手助けができるんだから俺達にとって負けられねぇ戦いなんだよ。」


そう、王族の代わりにでる騎士団の皆さんである。王様たちが苦しんでいるのを一番近くで見ていたのに助けることができず、歯痒い思いをしていたところに今回の祭りである。王家の名誉のため、そして何よりいつも苦しんでおられる陛下たちのために負けられないと考えているのである。


「街道の整備に駆り出されて身につけたポーレン刈りの技術を見せつけてやるぞ!!」

『おーーー!!!』

…………


そうして始まった本選であった。

結果から言うと騎士団の皆さんが他の参加者たちをドン引きさせるレベルで頑張り、圧勝することになったのだが、他の参加者たちも満足いく結果だったのか皆にこやかに王宮での表彰式を見ながら、王様の話を聞いている。


「まずは今回の祭りで上位になった者たちよ、大儀であった。此度の祭りはある町の提案を娘達が聞いた結果急遽開催することが決まったものであったが、とても楽しく見ることができた。そして、この季節にこのような祭りができたことをとても喜ばしく思う。各々後夜祭も存分に楽しんでいってくれ。余からは以上である。」


王様も予想以上に盛り上がった祭りに喜びを隠しきれない様子で壇上で話をし、王様以上に喜びをかくしきれていない双子姫に順番を譲った。


『まずは、今回の祭りのために奔走してくださった方々ありがとうございました。そして、素晴らしい技術を見せてくれた騎士団のみなさんと各町代表のみなさんお疲れ様でした。』

「毎年この季節にはこのお祭りを開催しようと思いますので、今回出場できなかった人たちも頑張ってくださいね。」

「お父様もおっしゃっていましたがこれからは後夜祭となりますのでみなさん最後まで楽しんでくださいませ。」

『私達からの話は以上です。』


壇上から降りて民衆から見えなくなったところで二人は脱力してお互いを労いあった。


「ふー、お姉様お疲れ様ですわ。」

「あなたの方こそお疲れ様。」

「今日ぐらいは何もせずにお祭りを楽しんでもいいですわよね?」

「今日ぐらい何もせずとも神様もお怒りにはなりませんよ。」

『ふーー。』


後夜祭が始まってやはりというか何というか意気投合した騎士団のみなさんと各町の代表たちは仲良く王都で一緒になって飲んでいて、周りにいる人たちも各人気になった試合をしていた選手に話を聞き騒がしくも心地よい時間が流れていった。


二人の姫様は王都の喧騒をBGMに部屋でのんびりして、いつもの季節ならできないような満足感を感じていた。それは別の部屋でいる王様も同じで王妃様と幼い王子と一緒にくつろいでいたのであった。


「ふふふ、いいお祭りになって良かったですわね。」


そう言ってグラスを傾けつつ妹姫にワインを注ぐ


「ええ、そうですね、心地よい疲れです。この疲れなら毎年経験してもいいんですけどね。」

「新しい風が吹いたということでよしとしましょう

。」

『ふふふ。』


こうして後夜祭も終わり王家の人たちも大満足で夜は更けていったのである……


〈後日談というかこの物語のオチというか〉


王家の人たちが朝起きてまず目にした物は昨日行われた祭りの確認書類であったり、決済などの大量の書類の山であった。


『……………………………ふぅ。』


もはやため息しかでないご様子である。


「確かに無駄ではありませんよ。」

「しかし、やはりこの量はどうにもならないんですのね。」

「はあ、誰ぞ王妃も呼んでまいれ。」


そうなのである、この書類の量は前の年の量と変わらないのである。ただし、質というか内容というのは大きく変わっているのであるが…


「毎年この量の書類だけは慣れんものよのぅ。」

「そうですわね、お父様。」

「しかし、今年は喜ばしい書類でもありますよ。」

「それだけが励みになるかのぅ。」

「ん?この書類は…」

「どうしたのですか、お姉様?」

「お父様、騎士団長を呼んでくださいませ。」

「む?まあよかろう。」


王妃様の到着と同時に騎士団長も執務室へとやってきた。


「あなた、今年も書類整備なのですね…」

「すまんな。」

「いえ、いいんですよ。」

「すみませんお母様。ところで騎士団長さんこの書類はどういうことですの?」


そう言って姉姫が示した書類は、騎士団全体が後夜祭で飲んだ酒代の請求書であった。王宮宛の。


「いえ、あの、その………」


汗をだらだら流しながら言葉に詰まっている騎士団長。


「はあ、おそらく騎士団全体で勝利を祝うために飲みに行ってお金が足りなくなってしまったのでしょう?」

「はい……すみません……」

「全く、きちんとしてくださいよ。もう。」


予想よりも軽い注意で驚いている団長であるが、姫様たちは書類の山を処理しなければならないのでそれどころではないのである。しかし、きちんと団長の減給処分の書類に判を押しているのは流石である。


『あーー、全くポーレンのせいで結局大量の書類との格闘ですわー!』


二人の悲鳴とも怒りの声ともとれる声が王宮にこだましたのであった。

この季節王族の人たちはこのように落ち着きがなくなってしまう症状が多発するため、王宮で勤めている人たちからはポーレン症と呼ばれているのである。

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