第二十二話「鬼号」
ーー数ヶ月後。
仙兵衛は緊張の面持ちで目の前に座する六花の言葉を待った。
自室で右彩から課された読み書きに専念していた最中に呼び出されたので、指先はまだ墨で黒いままだ。いいから早く来い、というのが六花からの言伝だった。
(これはあれだ……怒られるヤツだ)
仙兵衛の首筋を冷や汗が流れる。以前にも似たような呼び出しを食らったことはあった。戦いで壊した物や家屋などの弁償が告げられる時だ。
迫水の一件以来、憑鬼組としての出動は無かったので、恐らくは朱雀殿の燃え落ちた堂か吹き飛んだ屋根の件だろう。
(どっちも俺のせいじゃないんだけどなー。それ局長に言っても無駄なんだろうなー)
仙兵衛が心の中でため息をつくと、ふいに六花が口を開いた。
「仙兵衛」
「ふぁい……」
「なんだその気のない返事は?」
「だってまた数ヶ月ただ働きかと思うと、はぁ……」
「今日お前を呼びつけたのは金の話をするためじゃないぞ。夕堂院が炭になったことも、内裏の屋根が吹っ飛んだことも、私らのせいにされてたまるか」
こっちは封印を守るだけで手いっぱいだったんだ。と六花は煙と共に吐き出す。
「え、じゃあ何の用で?」
「私とお前の間には、弁償とただ働き以外の話題が無いと思ってるのか? まあ、確かに世間話の相手が欲しくて呼び出したわけではないが」
「いいから来いって言われたんで、てっきりまた弁償の件かと」
「いいから来い、ね。右彩に言伝を頼んだのがまずかったかな、あいつはあれだ、生真面目なのはいいんだがそれが玉に瑕だな」
「いや、他にも瑕いっぱいあると思いますよ、見えてないだけで」
「私からじゃ見えない瑕がお互いに見えるくらいには仲良くなったようじゃあないか。良き哉良き哉」
カラカラと笑いながら六花は立て文を取り出し、広げた。
「今更それがどうしたという話だがな、ようやくお前の鬼号が決まったらしいぞ」
「俺の鬼号!」
「そうだ。これで今日、お前は朝廷的に正式な憑鬼組隊士となったというわけだ。それにしても……ふむ、これはまた直接的な鬼号を賜ったものだ」
「どんなの? 局長、俺の鬼号どんなの?」
「ああ、お前は今日から……」
鬼切り 仙兵衛。それが仙兵衛に冠された二つ名だった。
鬼切り仙兵衛 カトウ ユミオ @ipk-okami
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