序章の次 有る所に

むかしむかし……


有る所にそれはそれは幸せで満ちた美しい王国が有りました。その国では国民同士が大変仲良く、子供は国に満ち溢れるほど、優しい王様、優しい領主様。全てが完璧な王国。誰もがこの国に行くことを望むほど。


しかし、ある双子にはそれが苦でしかなかったのです。同一であることが、ただ笑うことが。その双子はこの国の外で産まれた男女の双子でした。森の奥に捨てられた双子を拾った老夫婦は双子を精一杯育てました。しかし、双子が16になった星の降る美しい夜。老夫婦が出稼ぎに行った晩、双子は攫われました。


無機質な灰色の部屋、小さな窓、汚いベッドに埃被ったドレッサーにはひびの入った大きな鏡が下げられていました。いない……双子は別々に牢に入れられていたのです。



そして、幾日かたったある日、可愛い片割れの双子の姉の悲鳴が聞こえました。それとともに聞こえる複数の男たちの卑しい声。初めは姉が生きていることが分かりこんな状況でも嬉しかったのです。しかし、途中から姉の声は一切聞こえなくなり、代わりに響く男たちが姉のいる牢を出る音。そんな日々が毎夜毎夜続いたある日、双子の弟は聞いてしまったのです。姉が……2人だけの本物の家族が……“死んだ”とあの男たちとの行為の途中に。







双子の弟は目を瞑り、決意したのです。この国を呪ってやる……と。



双子の弟はドレッサーのひび割れた鏡を破り、欠けらを持って深く深く息を吸う。姉にまた会う為、大っ嫌いなこの国を捨てるため。双子の弟は鏡の欠けらで自分の心臓を切り裂いたのです。優しく温かいぬくもりが溢れていき、代わりに冷たい終わりが双子の弟を迎える。


その時、ぼんやりと鏡の前に立つ人の姿が見え、耳元で囁く。


『願い』


そう、ただ一言だけがはっきり聞こえ寒気が双子の片割れを一気に飲み込んだ。






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鏡の世界 泉 京治 @Vanita

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