「ん?」と思うようなタイトルに惹かれて開いてみたら、擬人化キャラを作ろうぜという企画会議から始まり、ああやっぱりねという知ったような気持ちで読み進めていたら……舐めてました、すいません。
前半は、主人公のTwitter事情だとか、実在するTV番組の名前が出たり、「とげあめ」「ウンコキング」などクスリとする小ネタと主人公のツッコミが続き、てててててん・ててんと読みやすい文章と合わさって大変軽妙。
それに引っ張られて読み進むうちに、「大人とは何か?」という主人公の思索と過程、その果てに得た結論が胸に突き刺さりました。
答えだけ抜き出せば、「なあんだ」と言えるような平凡なものかもしれない。「当たり前じゃん」と思うかもしれない。でも、これは「小説」という「個人的な体験を他者が追体験出来るメディア」なのです。
主人公が回想する子供のころの思い出、いつの間にか失っていたものたち。「毒入りオムライス」のくだりは特に淡い切なさとおかしみの感じられる美文でたまりません。
そして「黒ひげ」への彼女いわく〝安い同情〟から導き出される、ある種必然とも言える気づきと救い。
事実だけ抜き出せば、大したことは何も起きていない。けれど、主人公がたどる心の旅は、激しいアクションも爆発も人死にもなくても、人を揺さぶるに充分な力強さと美しさでした。
なんの気なしに読み始めてみたのに、これは大当たりですね……大変素敵な物語を、ありがとうございました。
ショッピングサイトでネットサーフィンをしていると、「大人も知らない○○」という本をよく目にします。そういえば、と呆けた顔をモニターに映しながら考えてみると、私は大人だというのに何も知らない、と思い至りました。友人の作り方も、恋愛のときめきも、朝の陽の光の輝きも、昔は知っていたはずなのに記憶の彼方へ霞んでしまっているのです。
本作品は、そんな過去の誇るべき遺産と現実の重圧(大袈裟でしょうか)を思いこさせてくれる非常に良い作品でした。会社でのワンシーンは胃が痛むほどリアルです。
私は残念ながら生ぬるいコーラどころか、賞味期限切れの人間になってしまったのかもしれませんが、それでも平凡な毎日を過ごしていこうと小さな勇気をくれる作品でした。 ありがとうございました。