第6話 非行には走らないでくれよ


ココが朝倉の家に泊まりに行ってから一時間が経過した。

俺は久しぶりの家での一人の時間に満喫することができてココがいなくなって清々するぜと思っていたが、意外とそうはなれない。

 ココが朝倉の家で何かしでかすのではないかという不安ばかりで頭が先ほどからいっぱいである。

 もし、うっかり異世界からきた魔女だなんて言ったら大変なことになるに違いない。

 想像するだけで恐ろしい…。

 全く、家にいなくても迷惑をかけるのだから本当に大したやつである。

 俺は不安から頭を離れさすために面白くもないテレビを見ていた。

 ああ、ココよお前は一体何をしているんだ?



  


 一方その頃、ココが泊まっている朝倉家ではーー


 「うまい!!!!」

 ココさんは朝倉家の食卓で朝倉の母の手料理を夜ご飯として食べていた。

 私の名前は朝倉野乃。今日はココさんと一緒にお泊まりすることになりました。

 ナツキのためにもココさんとの関係とかどんな人なのかもこの一夜で全て暴いて見せるんだから、と私は皿に盛られたハンバーグを口に運びながら意気込んだ。

 「このサラダ美味い!このハンバーグも!この味噌汁も!」

 どうやらココさんは普段ナツキとの生活では食べたことのない料理に目を惹かれ、次々と料理を口に中へと運でいるようだった。

 「どんどん食べてね、ココちゃん」

 美味しそうに料理をたべるココさんに私の母が優しくそう言った。

 「でも、なんでさっきから全ての料理に納豆をかけるの?ココさん」

 何でもかんでも納豆をかけるココさんの食事方法に引きながらも私は半笑いでそう言った。

 「あたし、ナトラーなんで」

  何そのマヨラーみたいな。っていうか全然語呂合ってないし。

 「そうね、それじゃあまるでヒトラーと聞き間違えそうだわココちゃん」

 「いや、流石に聞き間違えないよお母さん。っていうかそれヒトラーに失礼だから、そんなネバネバなヒトラー見たくないから」

 私の母はココさんとどこか似ているところがあるのか普段から訳のわからないことを言ったりする。

 そしてそのたびに私がツッコんでいるのだが今日はココさんもいることでいつもの二倍である。

 一人だけなら可愛いものだと軽く流せたりできるものの二人だとそうもいかない。食事しているはずがいつの間にか変に疲れてしまいそうになる。

 「ココちゃんの好きな料理はなんなの?」

 「カレー納豆ライスと、納豆シチューと納豆ラーメン!」

 それ全部納豆ないほうが美味くね?

 「あら、美味しそうね」

 母は相槌を打つようにそう言った。もし本気で言っているならやばいのだが、でも、さすがに本気ではないか。

 「明日、作ってみようかしら!」

 本気だった。思いの外ノリノリだった。

 「やっぱりどれも魅力的な料理ばかりですからねぇ」

 今の料理のラインナップのどこに魅力があるのだろうか。

 一見冗談に見える母の言葉も全て本気であることは間違いない、私は母が過ちを犯さないためにも注意することにした。

 「お母さん、私さすがにカレーに納豆をかけるのはどうかと思うんだけど…」

 「何を言っているの野乃!あなたそれでもナトラー?」

 「いつから私はナトラーになったんだ!?なった覚えないんですけど」

 「まぁ、しょうがないですよお母さん。カレー納豆ライスは子供にはちょっとわからない大人の味ですからね」

 子供も大人もわからないわよそんな味。っていうかわかりたくもないわよそんな味。

 このままではこの二人に振り回されるばかりで私の体力が持たない。私は自分の身を守るために提案した。

 「ココさん、良かったら先にお風呂に入ってくれば?その間にお部屋にお布団敷いておくから」

 「そうね、その方がいいわね」

 母もどうやら私の意見に賛成のようだ。このままいけばあとはココさんとゆっくり話すこともできる。

 ココさんは腹をボリボリと指で掻きながら答えた。

 「えぇ、せっかくだから一緒に入ろうよぉ〜」

 「でも、お風呂そんなに大きくないし。ねぇ、お母さん?」 

 「そうね、その方がいいわね」

 お母さん!?なぜ否定してくれないの?

 ココさんはやったー、と両手をあげて喜んでいる。しかし何をそんなに喜んでいるのだろうか。

 「女の裸見放題だー!」

 あんたも女でしょうが。

 こうして、私とココさんは二人でお風呂に入ることになった。


私はココさんと一緒にお風呂に入ったが一足先に風呂から上がり自分の部屋で少しリラックスしていた。

 部屋には母が気を使ってくれたのかココさんの分の布団がすでに敷かれていた。

 私はお風呂上がりの火照った体で布団に寝転んだ。

 冷房の効いた部屋のしばらく時間のたった布団は少しひんやりしていて気持ちいい。

 このままココさんがくる前に眠ってもいいのではと思えてしまうくらいに。

 だが、それでは今日わざわざココさんを私の家に泊まらせた意味がない。何が何でもココさんとナツキの関係を聞きださねければ。

 私が布団でくつろいでいると、ガチャりと扉が開かれた。

 そこにいたのはココさんだった。裸の。

 「ココさん、パジャマは?」

 「ああ、忘れてた」

 忘れるか?普通。いや、ココさんは明らかに普通ではない。

 もしかすると、ココさんの育った環境では服を着るのが当たり前ではないのかもしれないのかもしれない。

 「これでよし、と」

 ココさんは頭にパンツをかぶっただけでパジャマを着ることはなかった。

 っていうか、これでよしじゃねぇだろ。どこもよくねぇよ。

 「ココさん。パジャマ早く着ないと風邪引いちゃうよ?」

 「何いってんのよ。ちゃんとパジャマじゃない」

 「いや、ただ頭にパンツ被っただけだよそれ」

 「違うよ、お風呂入る前はいちごパンティだったけど、今は白のパンティだよ」

 「わかりづらいよ!何その間違い探しみたいな!っていうか結局裸なのは変わんないでしょうが。とにかく、早くパジャマ着て!今用意するから」

 「ちょっと喉乾いたから飲み物のみにいっていい?」

 「ダメ!絶対にダメ!そんな格好で家中歩き回ったらもしお父さんに見られでもしたら大変なことになる」

  私は自分の部屋のクローゼットからココさんが切れそうなパジャマを探す。

 ココさん私よりも背は小さいし、今私が使っているパジャマだと大きいかもれない。

 だから、私が前に使っていたパジャマを探す。

 しかし、頭にパンツ被っただけでパジャマだなんて言う子がいるなんて思わなかった。もしかして、ナツキとの暮らしでもあんなことが日常茶飯事なのかしら、と私は考えつつもココさんのパジャマをなんとか一式揃えた。

 さあ、あとはココさんにこのパジャマを着せるだけーー

 「って、いねぇし」

 ココさんは私の部屋にはいなかった。

 そして、私がココさんの姿を見失ったことを知ったと同時にリビングから仕事か帰ってきたばかりのお父さんの悲鳴が聞こえる。

 私は大慌てでリビングに向かうと、そこには先ほど私が思い描いた最悪の状況が広がっていた。

 裸のココさん(パンツを頭に着用)。そして、ココさんをみるお父さん。


 「な…なんで裸の女の子がうちに?ち…違うぞ、私はわざと見たわけじゃなくて…」

 父は目元を隠して必死に裸のココさんを見ないようにする。

 私はココさんを大慌てで手を掴んで私の部屋まで連れ戻した。

 「部屋から出ないでっていったでしょう!」

 「ダメって言われると余計に出たくなるもんで」

 「そんな考えいらない!いいから早くこのパジャマに着替えて」

 はーい、と返事をして渋々着替えるココさん。

 それにしても、後でお父さんにはなんと言い訳をしたものか。

 家に帰って着たら裸の女の子を見てしまうシチュエーションなんてそうそうないだろう。

 真面目なお父さんのことだ、きっと不可抗力とはいえ少し落ち込んでいるに違いない。

 私は父の元にいってココさんのことについて説明と謝りに行くことにした。

 リビングに向かうとそこにはソファに座るお父さんがいた。

 私は父に元へと向かい、お父さんの隣に座る。

 「さっきはごめんね、父さん。あの子私の友達のココさんって言うんだけど今日泊まる事になったの」

 「ああ、そうか」

 「それでね、さっきのはココさんがお父さんがいるのを知らなくてね、たまたまお風呂上がりのところにばったりあっちゃっただけで、お父さんは何一つ悪くないからね。だから気にしないでね」

 うなだれるお父さんの背中を見て、私はそっとお父さんの背中に手を当てる。

 「ありがとう、野乃。どうやら、最近の女の子は色々とアバウトと言うか進んでいると言うのは本当らしいな……。野乃、頼むから非行には走らないでくれよ」

 「うん、私はあんな事はしないからお父さんは心配しないでね」

 お父さんに謝りとココさんの説明も済んだところで私は自分の部屋に戻ることにした。

 部屋に戻ると布団の上であぐらをかいて何やら読んでいるココさんがそこにいた。

 てっきりココさんのことだからまた裸になっているんじゃないかって心配していたけれども意外にそうでもないらしい。

 私はココさんに優しく話しかけた。

 「ココさん、何読んでるの?」

 「中出シスターやよいっていうエロ本」

 予想の範疇を超えるものここに現れり。

 なんで今度はエロ本を読んでんだよ、っていうかエロ本持ってくるならパジャマ持ってこいよ。と私は静かにそう思った。

 「ココさん、その本一体どこから持ってきたの?」

 「ナツキの部屋の引き出しに入ってた」

 まさかのナツキの所有物だったらしい。いや、ナツキも思春期なんだしこういうことに手を染めるのもわかる。でも、こんな二次元の世界のエロ本に手を染めるなんて思いもしなかった。

 でも、ナツキがどういうことに興味があるのか私も多少興味がある。

 ちらり、とココさんが持つ本をみるとココさんは私をじーっと見つめる。

 「な、何よ」

 「もしかして、みたい?」

 「べ、別に…そんなんじゃないし」

 ココさんはニヤニヤしながら私の方へと近づいてくる。

 「見たいんでしょ」

 「いや、だからいいって」

 「じゃあ、私が読み聞かせてあげるね」

 ココさんは手にもつ本を音読し始めた。

 「ぐへへ…はぁ…はぁ…今日もぶち犯してやるぜ。やよいちゅあああん!!」

 ココさんは声を低くして汚いおっさんの演技をしているようだった。

 ココさんはツンツンと私の体を突く。

 「ほら、ここ読んで」

 「やだよ、こんなの読みたくないわよ」

 「読んでくれなきゃ帰ろうかなぁ」

 ココさんはニヤニヤしながらそういった。

 私は納得はいかないもののこんなことで私の計画を台無しにするわけにもいかないので仕方なく読むことにした。

 「や…やめて。神様にも出されたことないのに…!」

 「ぐへへ…じゃあ俺が神様の代わりにやよいちゃんの中に……出してやるぜええええ!!!!」

 「ちょ…!そんなおっきいの挿れちゃだめえええええ!!!!」

 「はぁはぁ…最高だ…ガンガンいくぜえええ!!!」

 「あああああああああんん!!!!!!!」

 その時、ガチャリと扉が開いた。

 振り向くとそこには涙を流すお父さんの姿がそこにあった。

 沈黙の空間が10秒ほど続くとお父さんはこう言った。

 「野乃。頼むから……非行には走らないでくれよ」

 そして、ガチャりと扉が閉められた。

 すると、ココさんはぽんぽんと私の肩を叩いてこう言った。

 「あたしたち、いい友達になれそうね」

 「そう…それは嬉しいわココさん」

  その時私は初めてお父さんのあんな悲しい表情を見たと思った。

 そして、ココさんと本当に仲良くなったほうがいいのかと静かに疑問を抱き始めたのだった。


 

 

 

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異世界から来た魔女 @10071999

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