⑤ 熱いのでお気を付けください
注文の品が届いたのは、それからちょうど十五分後だった。
「お待たせしました。ガーリックトマトスープパスタです」
ごとり、と僕の前に置かれた器。
なるほど、一見コンソメスープのように視えるが――浮かんでいる。刻み乾燥ガーリック。
そして沈んでいる――パスタ。
(これがコントラスト――いやアシンメトリ、か)
スープパスタをぼんやりと眺める僕に、店員は言った。
「お皿、大変お熱くなっておりますのでご注意ください。――では、ごゆっくりどうぞ」
――何?
ちょっと待て――今なんと言った?
僕の耳が間違いでなければ――確かに、皿が熱くなっていると、そう言っているように聞こえた、が……。
(いくらスープパスタとはいえ、そんな現象が在り得るか? いや――)
憶測で、ものを語るは、愚か者。
ここは本格パスタ店。
本格を謳っている以上――パスタに関する知識は計り知れない。
皿を熱することで、風味が増すのかもしれない。
器が熱くなるほどに、加熱の限りを尽くしているのかもしれない。
或いは――ブラフ。
すなわち、クレーム対策。
大して皿が熱くもないのに、難癖を付ける客というものは存在する。
そしてたった一人の客が、マニュアルを変える原因となる。
そういうこともあり得るのだ――この混沌とした現代社会では。
(……しかし、忠告された以上は気をつけないとな――)
僕はゆっくりと、そっと、器に触る――
(あっつ!!! 冗談抜きでクッソ熱い!)
例えるならば、石焼きビビンバ。
バーナーに晒された鉄板の如き灼熱。
想像を絶する熱量。
このスープパスタには、それが秘められているというのか?
――面白い。
それは、僕には無いものだ。
混沌とした現代社会の中に、僕が置き去りにしたものだ。
(……久々に、晒されてみるか。「熱量」というやつに――な)
僕はフォークとスプーンを手に取った。
(正直、スープパスタを食べるのは初めてだが――少しは楽しませてくれそうだ)
「……ご飯食べるだけなのよね?」
くらやみももこを無視して、僕は食事を開始した。
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