④ 注文

 カウンターの最前列。僕の注文する番だ。


「大きいバーガーのセットで……飲み物は、う、裏コーククリー……裏コークリームソーダ。ポテトはLで」


「店内でお召し上がりですか? お持ち帰りですか?」


「店内で」


「承知しました。番号44番でお呼びしますので、少々お待ちください」


 注文を終えた僕は、カウンターの端で待機する。


 ふーっと一息。

 そして思う。


(……どうでもいいが、日常生活で「裏」って単語使うのクソ恥ずかしいな!)


 お蔭で注文噛んじまったじゃねぇか!

 後続の列の人に笑われていないだろうか? 気になって後ろを振り返る。


 ――ベンチに座る異形の後頭部が視界に入る。


(うッ……! ぐうう……!)


 あの野郎――! 嗤っていやがる! 間違いない!

 注文一つ満足に出来ない僕を――店員とのコミュニケーションすら上手くいかない僕を見て、嘲笑ってやがる! 


(くそっ……だが僕は屈しない)


 ジャンクフードに一人で入店。そして注文も終えた。

 僕は客なのだ。

 一体、何を恐れることがあるだろう?


 僕は今や、この店内と同調している。一体感だ。溶け込んでいる。そう認識しろ。誤解でもなんでもいい、そう思え。


 いま僕は、社会の中にいる。


 自信を持て。誇りを抱け。


「…………貴方には、いつだって敵が必要なのね。生きるの辛そう」


 くらやみももこが、憐憫の表情を浮かべていた。

 余計なお世話だと思った。

 


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