③ 入店
店内。
時間が昼時ということもあってか――高校生や親子連れでごった返している。
見渡す限り、一人客は僕だけ。
「一人じゃないわ。私が一緒よ? うふふ」
くらやみももこは無視する。コイツは僕にしか見えない。そもそも人間ですらない。だからカウントには含まれない。
それにしても――子供が多い。
小さい時からジャンクフードを食べさせるのは、教育上どうなのだろうか? などどいう益体もないことを考える。
(……そもそも親子連れだって、一人でジャンクフード店に入る奴に、「教育上」などと言われたくないだろう)
お一人様ですか?(笑)
そんなことは――くらやみももこに言われるまでもなく分かっている。
僕はカウンターへ向かう列に並び、視線を上げた。
カウンターの上に、デカデカとメニューが載っている。
(……やたらと「裏」が多いな)
率直な感想だった。裏てりやきだの、裏チーズだの、裏コークなど――隠す気ゼロの裏要素が満載だった。まるでゲーム攻略班にフラゲされた裏ボスの攻略情報が並んでいるようだった。
裏チーズ、裏コーク――
僕の生活には何の関係もなくて、全く想像ができない。
「あ、見て。裏コーク―リームソーダだって。美味しそうじゃない?」
くらやみももこが珍妙なメニューを指差す。要するにメロンクリームソーダのコーラverだ。
(……なんか、問答無用で「裏」って感じがするな!)
これが――チェーン店という奴か。カフェ効果か。
だとすれば、僕は侮っていたのかもしれない。ジャンクフードを。ハンバーガーショップを。
どうでもいいが、僕が唯一、この店で接種したいと思っていたのがバニラシェイクなのだが、メニューを見る限り存在しない。
――まさか死んだのか?
或いは――隠されている。秘匿されている?
さながら――裏メニューのように。
(……カタルシス。まさかこんなところで味わうハメになるとはな)
過去は、過去というただその一点だけにおいて、時に強い輝きを放つ。
その光に惹かれる、羽虫のように。
それが巡り合わせというのなら、流れに興じるのも悪くない。
縁が合ったら――従うべきなのだ。
注文が決まった瞬間だった。
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