第5話 帰宅
僕はゆっくりと目を覚ました。
視界には風で揺らめく木々が目に入る。
そして、泣きじゃくっているティアの姿も。
なんでこんなところで寝てたんだっけ?
なんだか頭がボーっとして上手く思い出せない。
取り敢えず起き上がらなきゃと思い体を動かそうとするんだけど、とにかく体が重たく感じる。
鉛が体に巻き付いているのではないかと感じるほどだ。
それでも強引に起き上がろうと体に力を入れると、
「グゥッ……」
とうめき声が口から洩れてしまった。
うめき声が出てしまうなんてよっぽどだな。
何とか上半身を持ち上げて地面に座り込む形になると、
「タイガ。良かった……」
とティアが消えてしまいそうなか細い声を出した。
そして、先ほどよりも大きな声で泣き始めてしまった。
「大丈夫だから! 泣き止んで、ティア!」
なんとか落ち着かせようとするんだけど、一向に泣き止む感じではない。
どうしたらいいんだろう……。
ティアを励ますには何をすればいいか考える。
こういう時、何故か自然と腕を組んでしまうものだ。
いつの間にか腕を組んでいた僕は大きな傷跡を目撃した。
左腕に大きく切れた後があったのだ。
その傷跡を見て全てを思い出した。
そうだ、ティアと森に果実を取りに来て、そしたら狼に襲われて僕は怪我をしたんだった。
でもなんで血が止まっているんだろう?
狼に引っかかれて大けがを負い、かなりの血が流れていたはずなのに、現在の僕の左腕はまったく血が流れていない。
それどころか、傷は塞がっているのだ。
塞がっているとはいえ、傷跡は残っているのだけど。
もしかして、これがおまけなのだろうか。
転生する際に管理者が言っていた言葉が蘇ってくる。
「いろいろとおまけしておいてあげるから、僕の世界についたら生活しながら確かめてみるといいよ」
これがおまけの力?
再生能力が早くなったということなのだろうか?
僕はまた頭を悩ませる。
悩んだところで答えには辿り着かないんだろうけど、やっぱり考えてしまう。
「うえーん!!」
そうだ、ティアが泣いてるんだった。
こんな森の中でいつまでもいるのは良くない。
僕がどれくらい気を失っていたか分からないけど、長居すればまた襲われてしまうかもしれないんだ。
まだ気怠さが残る体を動かしてティアの下へ近寄る。
「ティア、帰ろ? ここは危ないからさ」
呼びかけてもまだ泣き止まない。
本当なら抱えて連れて行ってあげたいところだけど、体に力が入らないから多分無理だ。
どうすれば……。
そうだ!
「すぐ戻ってくるから、ちょっと待っててね!」
作戦を思いついた僕はティアを待たせてその場を離れる。
そして、狼から逃げた道を戻ると、そこにはまだ果実が転がっていた。
逃げる途中にティアが落としたものだ。
もともとこの果実を取りに来たんだし、これを見せてあげれば元気になると考えた。
まあ、一回地面に落ちちゃったものだけど、洗って皮をむけば大丈夫のはずだ。
地面に落ちた果実をひょいひょいと拾い集める。
比較的綺麗なものを選んでいくと、もともとティアが集めた量の半分以下になってしまったけど、これでも頑張った方だ。
集め終えたし、早く戻ろう。
ティアのところへ引き返すと、やはりまだ泣いている。
「ティア! 果実集めてきた! これで機嫌直して!」
集めた果実を強調するようにティアに見せる。
それを見たティアは、
「おかあさん……の……たんじょうび……」
と涙声ながらも反応を示した。
あと一押しだ。
「そうだよ、誕生日のために森に来たんだろ? 早く帰らないと心配させちゃうからさ!」
「うん……」
まだ涙を流してはいるけど、かなり落ち着いたようだ。
ようやく立ち上がってくれた。
そうして僕たちは森から出るのだった。
その後、家に着いたのは陽が沈む直前だった。
近所の森に行ったつもりだったけど、結構長居してしまったようだ。
そのほとんどは僕が気絶してたんだろうけど。
ティアは先ほど家に送ってきた。
果実が母親にばれないようにと、ぎこちない動きで家に入っていったティア。
僕が親なら、確実に何か隠してると分かる動きだったけど、どうなったんだろうか。
そんなことを考えながら歩くと自分の家に着いた。
ティアの家から僕の家まではすぐ近くだし、あまり物思いにふける余裕もなかったな。
今日の晩御飯は何だろう?
そしていつの間にか、頭の中は母さんの美味しいご飯のことでいっぱいになっていた。
ガチャッと扉を開けて家に入る。
「ただいまー」
「おかえりなさい。もうすぐご飯できるから、手を洗ってらっしゃい」
キッチンから母さんの声が聞こえる。
言われた通りに手洗いうがいをしてから食卓へと向かうと、いい匂いが漂っていた。
グゥゥとお腹が鳴ってしまう。
食卓の席に座り、ご飯が出てくるのを待っていると、
「ただいま」
と父さんが帰ってきた。
僕と母さんは、
「「おかえり」」
と返答する。
父さんは村の自警団のようなものをしている。
図体がガッシリとしている父さんに適任の仕事だ。
自警団といっても、獣の駆除がほとんどなのだが、村を護る者がいるというのは村の人たちからすればありがたいことだろう。
父さんも手洗いを済ませて食卓にやって来る。
そしてそれとほぼ同時に母さんが料理を完成させテーブルへと運んできた。
何という完璧なタイミング。
これぞ洗練された主婦の技というやつだろう。
「美味しそう!」
「仕事終わりにアルマの料理が食えると思うと毎日頑張れるんだよな~」
僕と父さんはそれぞれが賛辞の言葉を述べる。
「はいはい、ありがとう! さあ、食べましょう!」
母さんも席に着き、ようやくご飯が食べられる。
三人仲良く手を合わせると、
「「「いただきます」」」
食前の挨拶を行い、僕はガツガツと料理を口に運ぶのだった。
異世界転生を果たした僕は与えられたおまけの力を使いできる範囲で世界を救ってみようと思う Tea @teascenario
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