絶対破壊剣

山中清流

第1話 あの夜のこと

かつて、世界が殺戮と破壊に満ちていた頃。




魔族、獣人、悪魔……そして人間が殺し合う、群雄割拠の時代。血で血を洗う程度の甘いものではない。肉が肉を喰らうとでも言わんばかりの、力が有るものが力の無きものを陵辱する世界。

人間や魔族の王国や帝国がいがみ合い、常に戦争が勃発し、世界中を魔族や獣人が跋扈する異世界。


常に人間の国々や魔族の王の軍団とも絡み合う複雑な争いは数百年にも及んだ。そうすると煮詰まって腐っていくのは結局どの世界でも同じ事だった。


初めは騎士道、魔族には魔族の矜持があって、戦乱の中にもそれなりに秩序が存在した。だが戦乱が長引くに連れ、いつしか裏切り、毒殺、無差別殺戮からジェノサイドに至るまで、ルールのない殺戮が日常的に行われるようになりはじめ、この世界に住むものはいつ命を落とすか分からない恐怖に怯えてつつ日々の生活をおくることとなる。


力が力を陵辱する殺戮と混沌の世界……そして、それを終わらせたのは、それらを踏み潰す圧倒的な「絶対破壊」だった。


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「……ということが昔にあったんだよ」


「いやさあ……ばあちゃん、子供の寝る前のお話にしちゃあ、えらく血生臭い気がするけど、選ぶ話を間違ってないか?」


「……まあ、私の趣味さね、ホッホッホッ」


とある夜の部屋、寝室だろう。ベッドに掛かるランプの明かりが部屋をぼんやりと照らしている。そして、寝間着でベッドに横たわる恐らく5~6歳くらいの可愛らしい少年に、おそらく祖母であると思われる上品な婦人が、寝る前の王国の昔話を話して聞かせていた。


調度品や寝室の感じからして、それなりに裕福な家庭なのはわかる。ただ、人は見た目だけでは無いというかなんというか、大虐殺の昔話を寝る前の昔話として妙にリアルにはなして聞かせるエキセントリックな祖母と、それにツッコミを入れる孫の少年。多少……いやかなり変わり者の二人だった。


「……コホン、じゃあお話はこれくらいにしようかの。ゆっくりおやすみ」


「なあ、ばあちゃんさあ……破壊が力を踏み潰すっていったいどういう意味?」


毛布を掛けようとする祖母を見上げて、少年は尋ねる。「力」と「力」のせめぎ合いで成り立つその昔話の世界。


少年の住むこの王都、街中は常に王国騎士団が警らに回っているから、裏道や禁所と言われる下層域にさえ踏み込まなければ、普通に夜でも出歩いても、よほど運が悪くない限り別に危険は無い。


でも王都の外に出れば、今でも決して気軽に歩くことなんか出来やしない。さすがに商人や旅人、騎士や乗り合い馬車が行き交う街道はしっかりと警護されている。しかし街道や街、村等から離れた深い森や谷に入れば、正直どうなるかはわからない。


野盗、山賊、そして獣や魔物……いまはここ、王都を首都としたヴェルゲール王国が周辺国や魔族達に対しても絶対的優位性を持つとは言え、力の世界であることは基本的に今でも変わらない。


「って事は、そりゃ昔に比べたらはるかにマシにはなってはいるけど、やっぱり力が勝つってのは一緒なんじゃない?」


「……ああ、それはの、今は破壊さまがいらっしゃらないからだからじゃよ」


「破壊さま?」


「破壊さま、この世の混沌を終わらせた破壊の神様さ。魔族、獣人、妖魔、そして人間の王を倒してこの世に平穏をもたらせて下さったお方さね」


「破壊の神さま……」


「世界が殺戮と混沌に満ち溢れていたある日、空から降りて来られた破壊の神様が、その手に持つ絶対破壊の剣で全ての混沌の元をバッサバッサと切り裂いてくださったんだよ。それはそれはもうおもいっきりのう」


「いやいや、それはかなり力技なんじゃないか?」


「まあ力こそ正義を地で行くお方だの。それで全ての根源の王を殲滅したあと、破壊さまはどこともなく去っていったのさ」


「いやあ、なんか子供の寝る前のお話と思えないえぐさだなあ……ばあちゃん、実は結構そっち系の話好きだろ」


「ふふっ……判るかい」


フッと微笑みつつ、祖母はそう答える。なんとなく微笑むというよりほくそ笑んだような気はするが、気のせいだろう……多分。


「さあ、もうおやすみ。明日はセリアちゃんのご家族と一緒に街にお出かけだろ?」


「う、うん……じゃあ寝る。おやすみ」


「おやすみ……」


そう言って婦人は孫の額を優しく撫でた後、ランプを手にとって立ち上がり、ドアを開けて寝室を後にする。


だけど……その前に、少年がどうしても気になって仕方がない事をたずねる。


「なあ、ばあちゃん」


「ん?なんだい、早くおやすみな」


「最後だからさ。なあ、破壊の神様の剣って、なんで絶対って断言してるの? 普通に破壊剣でいいじゃん。破壊の剣なんだろ?」


「ああ、なんで大層に強調してるか気になったのかい」


「うん」


「……ふふっ、それはな」


そう言うとその少年の祖母は、少し含み笑いながら、教えてくれた。


「絶対破壊の剣は、ただ力が強いだけの剣じゃなかったからさね。その前に立つものを、絶対に破壊、そう、どんな防御も魔力も関係ない。一度の例外もなく完膚なきまでに確実に完全に破壊した。そう、相対するモノに確実な死を呼ぶ絶対破壊剣だったのさ」

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絶対破壊剣 山中清流 @yamanakaseiryu

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