彼女は暗い

ナカネグロ

第1話

 築数十年のボロアパート。木造二階建て全8部屋、中廊下、風呂トイレ共同。駅歩15分、家賃3万。風通しが良く、梅雨でも乾燥剤まいてんのかってくらいカラッとしてるのが取り柄。これまで暮らしてきた似たようなアパートとは違って、カビやキノコとは無縁だ。


 の、はずだった。なのに、生えてきた。天井から、あれが。



 仕事を終えてフラフラになりながら帰宅。うつむきながら無意識に部屋の電気をつけ、ふと違和感に視線を上げて悲鳴をあげ、尻もちをついた。


 天井から、ぶらんと女がぶら下がってた。ゆらり、ゆらりと揺れている。


「どしました?」


 隣で暮らす中東人っぽい青年が開けっ放しのドアから部屋の中を覗き込んできた。一瞬息を呑み、それから半笑いで親指を立て、ドアを閉めると無言で自分の部屋へ帰っていった。内側から施錠する音が妙に重い。


 本当ならすぐにでも警察へ連絡するべきなんだろう。けれど、あまりの驚きにオレはただ、目の前の光景を眺めるばかりだった。


 女は身長150センチくらいだろうか。天井低い部屋だから、オレが立てば頭がたぶん胸のあたりに来るだろう。長い髪は床に触れそうだ。

 服装はジーンズに、緑のジャージ。顔は少し面長で、なかなか整っている。そんな女が天井からロープで吊られて……ん?


 女の裸足が天井にぴったりくっついている。それだけだった。ロープみたいなものは何もない。釘で足を天井に打ち付けてるようでもない。考えてみれば、こんなボロい天井に人一人の重さを支えられるとも思えない。


 そもそも、これ。


「電灯どこ行った。なんで明るいんだ」


 今さら気づく。女がいるのは、普段なら裸電球をつるした電灯がある場所だ。なのにさっきスイッチ入れて今も部屋は明るくて。

 理解の及ばない出来事に、座った畳が沈むような錯覚を抱く。


 不意に、女の目が開いた。切れ長の、細い眼だ。まっすぐ視線が合う。


「──────! グゥエホッ!」


 驚きすぎて息を吸うのと叫ぶのを同時にやろうとして、ノドが圧壊しそうになる。


「あ……」


 女がかすれた声を出す。するといきなりバン! という音と共に部屋が暗くなった。誰かがブレーカー落としたのだ。もちろんこの建物、主電源も一棟で共用ですが?


「また誰だよクソがぁ!」


 1階の奥に住むおっさんが吠える。同感だ。どうもこのアパート、誰か知らんが一人でちょくちょくブレーカーを落としてるアホがいるらしい。


 オレはスマホの懐中電灯を女に向けてみた。女は白目をむいて意識を失っている。いや、さっき目が開いたと思ったのは、ひょっとして死後硬直化なにかでこうやって勝手に目が開いただけなんじゃないだろうか。声にしても、肺に残っていた酸素が出たとか。


 誰かがブレーカーを上げたみたいで、部屋が明るくなった。相変わらず光源は解らない。そして、女が意識を取り戻したもう白目じゃない。


「いま、ブレーカー落ちましたね……」


 普通に話しかけてくる。オレは、そこでようやっと気がついた。バカバカしいけれど、他にない。


「もしかしておまえ、部屋の電気か?」


 すると女はじっとこちらを見下ろした。


「それっていま重要なこと?」

「は? いや、そりゃだって──あれ?」


 考えてみれば女が天井から元気にぶら下がってるってことは大問題だけど、それに比べれば正体が電灯かどうかなんてたいしたことじゃない、のか?


「あと、私は電灯であって電気じゃありません」

「やっぱそうなんじゃねーか」


 叫びたいところをぐっとこらえて小声で言う。なぜなら壁が薄いから。


 女はぐうっと伸びをした。指先が畳に触れ、体がぐわんぐわん揺れる。それでも天井は軋む音ひとつさせない。


「あ、どうぞ私のことなんておかまいなく。いつもみたいにスーパーで買った割引のお惣菜食べて寝てください」

「お。おう」


 ただでさえ仕事上がりで疲れていたオレは、言われるままに部屋の隅に置いた机の上へ買ってきた半額総菜を並べ、ペットボトルの水でもそもそ食べると共同風呂のシャワーを浴び、布団を敷いて電気消し、さて横に。


 やっぱり無理だ。気になりすぎる。特に電気消すと、薄いカーテン越しに入ってくる外の光で天井からゆらゆらしてるシルエットがかなり主張してくる。目を閉じてもなんとなく女がこっちを見てる気がする。


 オレは立ち上がると電気をつけた。


「どう、しました?」

「いや、さすがに気にせず過ごすの無理だ」

「はぁ、すみませんね」


 暗い声でぼそぼそ答える女。


「そもそもいったい、おまえは何なんだ?」

「電灯ですよ」

「だったとして、なんだって女の姿なんかになってるんだ。おかしいだろ」

「おかしかろうが、事実は事実ですし」

「でも、なんで」

「だから、それってそんなに大事ですか?」

「じゃあ聞くけど、他に大事なことなんてあるのか? 電灯が女に化けるなんて大事件だろ」

「そんなことありませんよ。とにかく、普通に過ごしてください」

「大事じゃないなら教えてくれたっていいだろ」

「そんなこと言われたって、私にも解りませんよ」

「おっ、うーん」


 そう言われるとそれ以上何も言えない。ちなみにここまで全て、二人とも小声だ。


「まあ私は、坂本さんが寝不足になって明日の仕事が辛くてもかまいませんけど」

「オレだって寝なきゃとは思ってるぞ。ただおまえが気になりすぎて寝られないんだよ。そうだ。元の姿に戻ってくれないか」

「無理ですね。できるかどうかも、できるとして、どうすればいいかも解りません」


 手詰まり感が漂う。


「じゃあ、せめて暗くしたらこっち見ないでくれないか? 視線感じるんだよ」

「それは気のせい、です。電気消すと意識なくなるんで」


 そういやさっき、ブレーカー落ちたとき白目むいて気絶してたよな。


 オレは電気を消すと、スマホで電灯女を照らしてみた。目を閉じて、眠っているようだ。


「ああ、もう、本当に寝ないとな」


 オレは布団に入ると女に背を向けて目を閉じた。



 朝、目覚めた俺はまず叫んだ。天井からぶらさがってる女のことを忘れていたのだ。中東青年とは反対の部屋から壁ドンされる。


 女は目を閉じ、意識がない。


「おい、おい」


 そっと呼び掛けて揺すってみるが、反応はない。昨夜の言葉を思い出して、電気をつけてみた。


「あ……朝ですか……。おはよう、ございます」

「おう。おはよう」


 挨拶を返しながら、オレは少し感動していた。朝起きたら誰かいるのなんて、何年ぶりだろう。悪くない。悪くないぞ。たとえそれが人に化けた電灯だとしても。


 こうしてオレはなんとなく、電灯女と暮らしはじめた。というか元に戻れない以上、他に選択肢はない。中東青年は廊下ですれ違ったときとかヤケに怯えた視線を向けてくるけれど、元々会釈する程度の仲だったしヘタに警察に通報されないだけで充分だ。


 電灯は温度低そうな、ボヤっとフワッとした物静かな性格だった。明るいか暗いかで言えば、暗いほうだ。


「その惣菜、野菜が多いですね」

「健康に気を遣ってるんだ。そもそも寝る前はあまり食べなくていいし、米なんかの炭水化物も控えめで。オマエもひとつどうだ?」

「いりません。ショートしますよ。電灯になにを期待してるんですか……。そういえば、お酒も飲みませんね。これまで住んでた人はみんな日本酒とか焼酎とか、まあ、いいんですけど」

「金があれば飲みたいけど、なかなかなぁ」

「若いのに苦労してますね」

「ここに住んでる時点で察してくれ」

「そういうものですか……」


 こうして見ると会話が弾んでるように見えるが、実際の電灯はとぎれとぎれに暗い声でボソボソ喋る。

 それでもオレは家に遠慮なく喋れる相手がいて、うれしかった。そもそも疲れて帰ってきてるんだから、多少テンション低くておとなしいのは、むしろちょうどいい。オレは窓際の机を少しだけずらして、横を向けば電灯が見えるように位置を調節した。

 最初は向かい合う形にしたんだけれど、座った状態でほぼ目の前少し上の方に上下さかさまの電灯が見えてるのはなかなか圧迫感があって慣れなかった。


 そんなわけでオレの毎日には物静かな電灯と過ごす時間が加わり、死んだ魚の目でやり過ごしていただけの平日がずいぶんと変わった。


「これまでにも人間になった事ってあるのか?」

「いえ。この姿になって、から、前のことも思い出せるように……なりましたけど……。ずっとただの電灯、でした」

「謎だな」

「古くなったものは命が宿るっていいます。それ、では?」

「それならこの建物自体の方が命宿りそうだけどな」

「それはそうと、これ」


 オレは百均で買ってきたヘアゴムを取り出した。パールっぽいシンプルな飾りのついたヤツだ。


「ちょっとさすがにその床に垂れた髪が気になって」


 そう言うと、オレは慣れない手つきで電灯の長い髪を持ち上げると、あらかじめ動画で調べておいたとおりに後頭部でまとめて縛った。サイドもヘアピンで留めて補強する。

 電灯の髪はサラサラしていて、見た目よりずっと軽かった。後ろから縛ったので、うなじを見下ろす体勢だ。電灯のうなじは細っこくて白っぽくて、なんだか艶めかしかった。


「よし、できた」


 なんどか失敗してから、ようやく満足いく形になった。オレは写真に撮って、電灯にも見せてやる。


「なんだか、いい、ですね。余分なコードを束ねたみたいで」


 みょうな感想だが、うっすら口の端に笑みが浮かんでるから嬉しいんだろう。


 それからしばらくしたある日のこと。オレはその日も仕事を終え、スーパー出やすくなった総菜やサラダを買って帰宅した。部屋の電気をつけて言う。


「ただい──!?」


 床に男が倒れていた。ぼさぼさの髪に痩せて無精ひげ。メガネ。見覚えがある。たしか101号室のヤツだ。名前は知らん。

 そいつがなぜかウチの床に仰向けでひっくり返っている。しかも下半身丸出しで。おまけに……おや? 机がちょうどいい位置、具体的には電灯の頭の真下、やや顔寄りに動かされていて、101号室の男は机の傍らに倒れていた。

 いい位置の机、丸出しの下半身。ははぁん。具体的には言わないが、ははぁん、だ。


「あの…………これ、は?」


 戸惑う電灯にむけて静かにするよう合図する。


「口の中、なんともないか?」

「え? あ? はぁ」


 どうやら未遂だったらしい。おおかた股間から感電したんだろう。黒焦げになってモゲたりしなくてよかった。いくらオレでも自分の部屋でそんな惨事が起きたら、住み続けるのに苦労する。


 オレはダクトテープで男の手足をぐるぐるに固定し、そいつの位置からは顔が映る絶妙に見えない場所にスマホを立てると動画撮影を開始。それから文字どおり“叩いて起こした”。


「うぉっ! あ! がががっ!?」


 男は驚いて跳ね起きようとして、盛大にスジを変な方へヒネってしまったらしい。オレはのたうつ男の頭の近くでしゃがみこんだ。


「よう。101に住んでるやつだよな。楽しい夜にしようぜ」


 それから脅したりビビらせたり問い詰めたりすること30分。ようやく話を聞きだすことができた。

 男の名前は米村。このアパートで擬人化の研究と実用化に取り組んでいるらしい。ちょいちょいブレーカーが落ちるのも、コイツのせいだったようだ。


「というわけで、長年の研究の末、僕はついに擬人化装置を開発した。といってもここの構造や土地の磁場、電気、ガスの配管や電気の配線まで、それはもう複雑に絡みあったシステムだから、正直、汎用性はない。とにかく、それでも理想とする可愛い擬人化娘が僕の部屋へ顕現するはずだったんだ」


 下半身丸出しで縛られたままとはいえ、よく喋る男だ。よっぽど誰かに自慢したかったんだろう。それでも大きな声を出さないあたり、米村もまたこの壁薄いボロアパートに住む人間である。


「ところが、どうも計算ミスがあったらしい。僕の部屋に擬人化娘は現れなかった。おかしいと思ってから何が起きたか、つまりこの部屋の電灯が擬人化娘になったと割り出すまでに数日。さらにこの部屋へ入るための準備で今日までかかってしまった」

「なんでコソ泥みたいなまねしたんだ」


 言ってからコイツが意識のない電灯に何しようとしてたかを思い出す。


「ああ。そういうことか」


 つい声が冷たくなる。


「いや、違う。これはその場の雰囲気でつい。もともとは一対一で誰にも邪魔されず、自分の偉業を噛み締めたかっただけなんだ」


 どう言おうと説得力はない。


「で、コイツのことはどうするんだ。まさか消したり、自分の部屋に移そうなんて考えてないだろうな?」

「移設は無理だ。システム全体が複雑に絡み合ってるって言ったろ。この子はここにしか顕現できないし、システムを調整して僕の部屋へ出現の焦点を移すくらいなら、新規に別の擬人化装置を作った方がまだ早い。それに何より、だ」


 そこで米村はオレをキッとにらんだ。


「僕の部屋に焦点を移したら、この子という存在は消えてしまう。せっかくこの子はここに顕現したんだ。もうすでに存在している一つの命なんだよ。そんな尊い擬人化娘を消すだなんて、いくら僕だってそんなことするわけないだろ!」

「うるさいよ性犯罪未遂者が」


 つい足で転がしてしまった。いやだってさ。言ってることは立派だけど、しようとしてたこと思うと、な。でもいちおう、コイツが変態なりに真摯に擬人化娘と向き合おうとしてることは解った。


 こうしてオレは警察へ突き出さない代わりに、米村の費用負担で頑丈なドアと新しい鍵への交換を約束させ、解放してやった。


「また会いに来ていいかな?」

「オレがいる時ならな」

「ありがとう、同志よ!」


 ぐっと手を握られた。こいつ、電灯の擬人化を実現するくらいだから天才なんだろうけど、飛びぬけた天才だけあって頭がおかしい。


「ところでこの人、本当は私になにを……しようとしてたんです?」


 え!? いまそれ尋ねるのか!? オレと米村は返事に詰まった。


「いや、その、なんだ。気にすることない」

「そうですよ。あなたの足がどう天井に接続されてるか確認しようと机に乗ったら足を滑らせて落っこちて、机の角に引っかかってズボンが脱げちゃったというわけで」


 いかにも今、思いついたことを端から順に喋ってますという感じだ。電灯はなんとなく納得いかなさそうだったが、いちおうそれで話を収めてくれた。



 それから季節が廻り、冬になった。年末。寒い寒い夜だ。


「坂本、さん」


 電灯がオレを呼ぶ、このところ電灯はぼんやりしていて、なんとなく元気がない。いつにも増して暗く、反応も薄い。内心俺はメチャメチャ心配していたが、相談できそうな米村は資金稼ぎとかでどこかへ泊まり込みのバイトに出ている。おまけにオレはヤツの連絡先を知らない。


「ん? どうした」

「どうやら、そろそろ、じかん、の、ようです」

「え……」


 その一言に、周囲の景色が色を失って、ひゅうっとオレを置いて遠ざかっていくような気がした。


「なんてかお、してるんです。わたし、もう…………」


 ふたたび話しはじめるのに、数分かかった。


「わたしがだめになったら、くびを……ねじって…………」


 ひときわ部屋が明るくなり、それから暗くなった。


「おい。電灯? 電灯!? なあ、おい。返事しろ!」


 オレは壁ドンをものともせず、電灯に呼びかけた。体を揺する。けれど、電灯は動かない。


「そんな。冗談だろ、なぁ……なあ」


 気が付けば俺は泣いていた。暗い部屋の中、天井から吊るされた電灯が暗いシルエットになって揺れている。


「そうだ、首……」


 オレは電灯の言葉を思い出した。首に手をかけ、ひねる。あれ? どうも違う。


「ひょっとして……」


 ちょっと体勢的に苦しかったが、オレは脇に電灯の体を挟むようにして、両手で電灯の頭をつかむと、ゆっくり回した。


 くるり──。


 頭が回った。首の付け根に細い隙間ができる。


 くるり、くるり、くるり…………。スッ。


 とうとう電灯の頭が首から外れた。頭の抜けた部分は、それこそ電球のねじ部分になっていた。首の方はソケットだ。


「そういうことか」


 理解すると同時に、電灯の頭がサイズも見た目もただの電球に戻る。まだ少し温かい。振るとカラカラ音がした。

 オレはワット数やなんかを確認すると、少し離れたところにあるドンキへ。せっかくだからと、長持ちするよう奮発してLEDの電球を買った。


 急いで帰ってくると、箱から取り出すのももどかしく首の穴に電球のネジ部分を当てる。


 キュ、キュ、キュ。かすかに金属同士のこすれる音。回していくと抵抗感とともに、LED電球が電灯の首の穴に埋まっていく。


 くる、くる、くる。


 一番奥までねじ込むと、電球がボウっとかすんで、再び鮮明になったときにはもう、元の電灯の頭になっていた。

 オレはいつの間にか詰めていた息を吐き出し、額の汗をぬぐう。うまく行かなかったらどうしよう。見当違いだったらどうしよう。無意識にそんなことを思って緊張してたみたいだ。


 オレは壁のスイッチを入れた。すぐに電灯は目を見開く。目を、見開く? なんかいつもの眠たそうな細目より、ずっと大きく目が開いてる。

 電灯はオレを見ると、にっこり笑顔になった。


「あ、電球変えてくれたんですね。さっすが坂本さん。すみません伝えきる前に落ちちゃっていやぁ、油断してました」


 そして明るく笑う。


 ──誰だ、これ。同じ顔、同じ声なのにまったく知らない陽キャラがいる。


 オレの微妙な空気を察した電灯が、軽く手をパタパタさせながら言った。


「やだなぁ。いつもの電灯ちゃんですよ」

「いや、いつものではないだろ」


 腕組みする電灯。


「んー。多分なんですけど、新品の電球で力に満ちてるとか、ですかね? あとLEDって電球に比べて光が直線的に進むらしいんで、その辺の違いが出てるのかもしれないですね」


 重力に逆らってうなずく電灯。確かに身振り手振りも増えてるな。


「もし、さっきまでの感じが良ければ普通の電球に変えてみる、それもどこかの使いかけを持ってくるとかしてみたら上手くいくかもです」


 オレは一瞬、迷った。たしかにこの、新しい電灯も元気があって魅力的だ。話し相手にもいいだろう。

 けれど、まる一日、人間性が擦り切れるくらい働いて疲れきって帰って、それからこの電灯と過ごすのはどうなんだろうか。元の穏やかで落ち着いた、陰キャの電灯の方が心地いいんじゃないだろうか。


 ──せっかくこの子はここに顕現したんだ。もうすでに存在している一つの命なんだよ。


 縛られ、下半身丸出しのまま熱く語る米村の姿が浮かんだ。なんで映像付きなんだ。音声だけでよかっただろがオレの記憶よ……。


「いや、いいさ。そのLEDが切れたら、その時また考える」

「LEDの寿命って10年くらいでしたっけ」

「引っ越す予定はないから、べつに構わない」

「色変えられるやつとか、普通の電球とか、いろいろ揃えて気分で付け替えてみてもいいかもしれないですね。他にもまだまだ色んな私が出てくるかもしれませんよ?」


 電灯はそう言うと、目を細めて笑った。

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