序章 謎の遺跡

序章1 『騎士と少年』

 ここはレトナーク大陸に存在する王国の一つ、リオミス王国。

 そこでは一人の男が、戦いの真っ只中であった。


 まず何よりも目を惹くのが、稲妻のような黄色い髪。

 その下には真っ直ぐで、勇猛以外の譬えようがないほどに輝く青い双眸がある。異常と言ってもいいほどの整った顔立ちもその凛々しさを後押しし、それらを一瞥しただけで彼が一角の人物であると存在が知らしめていた。


 男に、魔獣――魔力を持つ動物のことだ――が、その鋭利な爪牙で襲いかかる。

 一方の男――魔法騎士は微動だにせず、その手に携える片手半剣バースタードソードを構え、目を閉じて何かに集中していた。


 ――彼は、自身の奥底に眠る魔力を集めているのである。

 彼の中で凄まじい量のエネルギーが、唸りを上げる。


 そして、天から魔獣目掛けて稲妻が迸った。

 稲妻は、魔獣の体を穿ち、絶命させる。


 雷属性の魔法を使うことから、彼はこう呼ばれる。

 【雷神の守護者ソア・ガーディアン】と。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「今回の任務凄かったそうじゃねえか、ガルジュ」


 ここは、リミオス王国の第三駐屯地。

 男――ガルジュは、今回の任務の達成を報告し終えたばかりであった。


「いや、そんなことありませんよ。あの魔獣は、かなり弱っていましたし」


「あまり謙遜するなよ。それはお前自身の実力のおかげだろ。サポートされずに一人でなんて誰もできねえよ」


 ガルジュと話す筋骨隆々の男――アスロアの言い分は最もだった。

 ガルジュの討伐した魔獣は災害級――単独で村を壊滅させられる力を持っていたのである。


「はぁ……そうですね。ところでアスロア先輩、俺の次の任務は何でしょうか?」


 ガルジュは、この国で雷属性の魔法のエキスパートだ。そして次代魔法騎士団長とも呼ばれている。

 そして、ガルジュが慕うこの男はアスロア。炎属性と水属性の二種類の魔法を扱うエクスパートである。


 ガルジュは改めて、アスロアを見つめた。

 燃えるような赤髪に、大きな青色の瞳。その奥には、鋭い牙が宿っていると言ってよいだろう。

 顔はとても男前で、凄まれるととても迫力があって、強面だ。

 筋骨隆々の長身を、仕立てのいい黒い外套に包み、その腰に尋常でない威圧感を放つ騎士剣を下げている。


 その騎士剣が業物であることは、言うまでもない。

 近くにいるだけで皆に畏怖されるその剣の名は――霊剣・インブリム。


 霊剣とは、『霊』が宿っているという武器だ。

 アスロアの一族は、『風霊・インブリム』が宿っている霊剣・インブリムを管理してのである。


 ちなみに『霊』とは、魔力をエネルギー源として活動する超自然的な存在だ。

 『霊』は人間と契約を交わして力を貸すことがあるが、強力な『霊』ほど契約内容は厳しく、契約できる者は限られる。『霊』と契約した者は『霊使い』と呼ばれ、魔法に似た霊法を使用できる。

 

「次の任務か……お前頑張りすぎだろ。だが、国民の役には立っている。いい心がけだ」


「ありがとうございます」


 アスロアは滅多に人を褒めない。それは、騎士を育てるための厳しさだ。

 だから誰であろうが、アスロアに褒められれば、実力を認められたと言うことだ。


「一つだけ言っておくが、お前一人の任務だぞ。無茶すんなよ?」


 この国リミオスで、たった一人を指定する任務は滅多にない。

 たとえそれが、どんなに簡単な任務だろうとそれは変わらない。それは、人間誰しも、一人で行動することに恐怖や不安を持つからだ。


「了解です!」


「そうか……わかった、頑張れよ。この任務は今回発見された遺跡の調査だ」


「了解しました」


 かくしてガルジュは、難易度不明の遺跡へと向かった。

 危険が待ち受けているとも知らずに――。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ここが遺跡、か」


 遺跡の前で、ガルジュはそう呟いた。

 彼の瞳には、不安が浮かんでいる。


「とりあえず、入って……」


 彼は途中で言葉を失った――否、失わされた。


「ガルァアアアアアア――ッ!」


 ガルジュに魔獣が飛びかかる。

 魔獣は彼の腹部に喰らいついた。


「――がぁああああああっ!?」


 想像を絶する痛みで絶叫するガルジュ。



 ――終わりだ。



 魔法を使おうにも、こんな状況でまともに使えるかどうか分からない。

 剣を抜く気力も、既にガルジュは削がれている。


 絶命するのはガルジュの方だと、彼は確信していた。

 そう、このときまでは――。


 次の瞬間、目に見えぬ風の刃が、魔獣の右足を切り裂いた。

 あまりに突然のことで、魔獣が叫ぶ。


 だが、魔獣が敵を認識する前に、再び風の刃は放たれた。

 ただし――今回は三つだ。


 風の刃は、魔獣の両腕と首を切り裂き――魔獣を絶命させた。

 あまりの出来事に、ガルジュは動くことができず、このときばかりは痛みを忘れた。


 森の方から少年が出てくる。

 攻撃されても大乗なように、ガルジュが身構える。


 だが、ガルジュの予想は大きく外れた。

 少年はガルジュの腹を押さえ、短い呪文を唱えた。

 すると、彼の腰に下げられている短剣と、ガルジュの傷が発光し――二分と立たない内に傷が塞がった。


 ガルジュは礼を少年に言ってから、まず何から聞くか熟考し、


「君は誰だい?」


「俺は……エリック。旅する魔法使いだ」


 少年の声はかなり小さくかろうじて聞こえた。

 エリックは痩せ干そっており、彼が健康的な食生活を送っていないことは一目で窺がえた。


「俺はガルジュ、リオミスの騎士だ。とりあえずさっきも言ったが、ありがとう。なにか、お礼をしたいんだが…………」


 そこまで言えば分かるだろう。なので、その続きは敢えて口にしなかった。

 じゃあ、とエリックはしばらく熟考してから呟いた。


「――俺も一緒に、その遺跡に入らせてくれ」

 

 

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ボクと歯車と賢者の石 @kamishiroyaiba

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