問題

violet

問題

 西に沈みゆく太陽が、歩道を歩く二人を照らしている。歩道の脇には浜辺があって、潮の香りが漂う。


「さて、問題です」


 海と反対側にある山からの蝉の声にかき消されそうな彼女の声を聞いて彼は振り向く。


「私は最近、大切なものを得ました。それは何でしょう」


 彼女の問いかけに彼は考える。彼女は時折、このような問題を彼に問う。思い付きをそのまま言った様に見えて、意外と深い考えに基づいていたりするので、彼は真剣に考える。


「今日のデートであげたプレゼント」


 彼が答えた。今日行った水族館のお土産で彼は彼女にイルカのキーホルダーをあげたのだ。


「ぶっぶー。はずれ」


 キュウリ、ナス、トマト等を積んだ農家の軽トラックが通り過ぎて、またも彼女の声は聞き取り難かった。


「ヒント。今日のことではありません」


 彼女のヒントを得て、彼は再考する。この辺りに住む子供達数人が虫網とかごを持って駆けて行ったが、彼は目もくれない。


「もしかして、ファーストキスのこと?」


 彼は照れくさそうに答えた。一年前頃に、彼は彼女のファーストキスを奪ったのだ。そういえば、あの時も水族館に行った後のことだと、彼は思い出す。彼女は海に住む生物が好きで、その後もよく水族館に赴いた。


「惜しいけど、全然違う。ファーストキスは、私が得たものじゃなくて、あなたが奪ったものでしょ」


 彼女は照れくさそうに言った。


「さらにヒント。私にとっても、あなたにとっても大切なもの」


 はっとして彼は彼女を見つめた。そして思い切り抱きしめた。


「名前は何にしようか」


 彼は言った。彼は二つの鼓動を感じていた。


「正解」


 波の音にかき消されそうな小さな声が響いた。

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問題 violet @violet_kk

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