第53話 しわくちゃのユニフォーム
長井は帰り道、いきなり誰かから声を掛けられ、慌てて自転車を止めた。
「よっ!あたしがさ、アンタにコーヒーおごってあげるわ!」
振り返ると、大原だった。『唐突に何を言い出すのか?』と、ここは逃げた方が無難だと思い、逆方向にこぎ出そうとした。
「先輩…、ゴメン俺コーヒー嫌いなんだ。」
「いいから来なさいよ!どうせ今日、夕刊配達ないんでしょ!」
「な、なんで知ってんの?」
自分でしか知り得ないスケジュールを、把握してしまっている彼女は、もはやストーカーだった。おまけに恐るべき怪力で、否応なく自転車ごと引っ張られて行った。誰にも見られていなかったと、すっかり確信していた大原だが実は佳織が、この光景を少し離れた所から目撃していた。それなら、さっさと救出してやれば良かったが、あえて泳がせた。
元々、彼女に対しては快く思っていなかったので、久々に現れて何を企んでいるのか探ろうと思った。次に、この魔の手が後輩達に及んでは大変なので、その為には多少の犠牲はやむを得ないと、見殺しにしたのだった。
『大丈夫、大丈夫。難関を潜り抜けて来ている彼なら、多少の致命傷はへっちゃらな筈だわ。間違っても殴り合いのケンカなんかには、ならないと思うし…。』
仮にも全国大会出場を目前に控えた、大事な時期にも関わらず勝手な筋書きをかき立てていた。そして連れて行かれた先は、ハンバーガーショップだった。
「何だ…。コーヒーって言うからシャレた喫茶店かと思ったら、ただの安上がりなファーストフードじゃないか。」
「えっ何か言った?とにかく、この間はゴメンなさいね。急に泣いたりして…。」
「いや…。」
この瞬間、長井は背筋が凍る思いに浸った。自分にとっての彼女の存在とは、非常に自分本位で気まぐれであり、出会ったばかりの一年生の頃は、散々それで悩まされ続けて来た。
それは彼女が卒業した後も続き、一時期は、自ら立ち上げた今の部から、退陣を要求された程だった。当時の校内では、総番長同然の立場という印象しかなかっただけに、また何かの嫌がらせかと疑わずにはいられなかった。
「そんな疑う様な目で見ないでよ。でも、そう思われても仕方ないわね。今迄、散々な事をやって来たんだから。」
『あー気持ちが悪い、具合が悪い…。自己主張説の限りを唱え続けて来て、どうして今更、素直な振る舞いを見せるのか?』
そう呟かずにはいられない、悪寒が走るセリフの数々だった。しかし好印象は持っていないという視線が、明らかに伝わっている筈なのに、彼女は依然として温和なままだった。
そういった態度から決して『裏』があって、こうして目の前に現れた訳ではないと思えて来た。実は今大会の長井達の試合の一部始終を、彼女は気付かれない様に客席から見届けていた。あの決勝進出を決めた当日は試合開始前に、何か声を掛けて上げたいとも考えていた。勿論、自分なんかが姿を現したら、逆にヘタなプレッシャー以前に、トラブルになってしまう事は目に見えていた。
長井の後輩達からも、良くないイメージを持たれている事は自覚していたので、そういう行為自体が場違いだった。だから、ひっそりと観戦する分には、誰からも文句は言われない筈だし無難だと思った。去年の全国大会の予選での、途中棄権を観てから自分は一体、何をやっていたのかと思う様になった。
元を辿れば、自分が仕組んだ無理な約束から生じた結果だったと、今の気持ちを吐露し始めた。正直、あの後すぐにでも謝ろうとも考えたが、それは自分の性格上できなかった。
格下意識があった相手に頭を下げる事が、どうしても許せない行為に思えて、そういったつまらない意地を持ち続ける自分は、とても醜かった。鏡に映るぐらい感じていた、その性格に歯止めが掛けられなかったのは、やはり捨て切れなかったプライドだった。
それが今日、こうして姿を見せた目的だったと察したものの、長井には罪悪感があった。率直に言えば、藍子と千秋を陸上部から引き抜いた事が、結果的には反感の増幅を招いた。
「それは違うわ!その事を確かに根には持ったけれど、本人達が自分で選んだだけの話しなのよ。それに、この間の陸上部の総体、あの二人を出してくれたでしょう?」
窮地の状況の中、選手として二人を差し出してくれた件は感謝していると言い、長井は苦笑いで応えた。どうしても、見慣れない彼女の謙虚な態度には馴染めず、抵抗があった。こうしている今でも『一体どこ迄が本音なのか?』と思えてならないぐらいで、やはり今迄の印象が、とてつもなく強過ぎていた。
未だ何て言ったらいいのかは分からないままだが、ここ迄、勝ち進めた事を素直な気持ちで喜びたかった彼女は、一つ聞きたかった。
「…!?」
「決勝の相手チームの中に、なんか特に意識している人がいるみたいね?ちょっと気になっただけだから、別に答えたくないなら、それでいいんだけど…。」
グランドでの中崎との視線の飛ばし合いは、決して声に出ていたものではなかったが、その激しさは観客席に迄、響き渡っていた。同じユニフォームさえ着ていた仲だったが、ある日を境に何かの弾みで、お互いは違う道を歩き出していた。次第に互いのやって来た、やり方さえ常に否定し合う様になって行った。
あの日、右も左も分からない女子校同然の環境に、たった一人で放り込まれた事態から、全てが始まっていた。その後、後輩達が駆け付けてくれる、大きな進展を迎える事になる。
元々は彼の誘いの一言が無ければ、今日の自分は有り得なかったのだが、それに対し感謝しているかと言えば、決してそうではない。勿論、自分との友情よりも、明るく円満な高校生活を優先させた彼の一連の行動を、一概に非定もできなかった。自らの選択肢を心から『善』だと思っている筈だし、自分も何も後悔などしていないので、お互い、正しいと思って選んだ道を歩き出しただけの事だった。
では本当は、どちらが正しかったのかの答えは、もうすぐ開始される決勝という場で出る事になる。だからと言って、負けた方が必ずしも『悪』という答えにはならない…。
「そう…、そうだったの。どうして、あなたが今の学校を選んで入って来たのかなんて、考えた事なかったから…。なぁんて、そう言っている私が一番あなたを追い詰めていたんだから、とやかく言えないわよね。」
苦労の大半を作り上げていた元凶は言う迄もなく、中崎などではなく、この彼女の存在だった。間違い無く言えるのは、中崎との間に生じる未だに失せない確執など、かつての彼女のものとは比べ物にならなかった。
仲たがいとなったという存在すら知らない彼女に、随分と込み入った昔話をし過ぎた気がしたが、会話が進むにつれて、何だか気が許せる相手に見えて来た。これが彼女の本当の性格なのではないだろうか、とさえ思えてならなかった。
「とにかく絶対、勝ってね。知っての通り、ウチの学校は全国大会に行った部は一つもないし、地区予選でも決勝に進んだ前例さえないのよ。だから私達が作れなかった実績を、あなたの代で作ってほしい…。」
そう言われると自分の両手が、強く彼女の両手で握り締められ、鼓動が極度に高鳴った。この時になって、やっと彼女が純粋に、自分に期待を寄せて近付いて来た事を確信できた。過去のわだかまりは、ようやく今日になって、全て水に流されたのだった。
「もう疑ったり何かはしない、絶対にやってやるよ…。」
そんな決意に水を差す、話しの流れに納得できない者が、すぐ近くに居る事に二人は気が付きもしなかった。座席から通路を挟んだ斜め向かいのそばの席で、後を付けて来た佳織が、帽子を深く被り一部始終を聞いていた。散々、大原に付け回された過去の経緯を考えると、勝手に和解されては困るのである。
「クッソーッ、あの野郎…。一体、何を話してるんだぁ?!」
長井と大原、どちらに向けて発した言葉なのか定かでないにしても、仮にも女子高生なのだが、それらしからぬ表現だった。盗み聞きしているとはいっても、BGMと周囲の無数の喋り声が混ざり合う中で、よく内容は聞き取れないでいた。だが和解に向けて着々と進んでいるであろう、大体の会話のやり取りは、それなりに伝わっていた。
長井の存在無くしては、有り得なかった様に思えるラグビー部だが実際は『自分が居たからこそ』というのが佳織の勝手な見解だった。常に部員達を陰から支え、部に迫った困難や障害には一番の責任感を持って対抗した。特に、その元凶である大原からの心無い嫌がらせには、長井と肩を並べて立ち向かった。
『長井なんかが始めた、先が見えない訳の分からない部のマネージャーを、率先して志願するなんて所詮は同類のバカ女…。』
実際は、その程度で扱われて相手にもされなかった。幸先がいい訳でもない、名も無い部の世話係りを、しかも第一号で引き受けたのだから、そう思われてしまう要素が付きまとったのだった。
長井は、まだ両手を握られたままでいた…。彼女は感情を込めていたせいか、かなり手に力を入れていた為、完治していない肩には、いささか激痛が走った。他の部員達も自分と同じか、それ以上に、かなり体を痛めているに違いない。僅かでも勝ち続けるという目標を抱いたからこそ、みんなで決勝を迎える事にはなったが、彼女の寄せる期待に応えられるか否かには、どうしても不安があった。
「あのーっ。い、痛いんだけど…。」
さすがは柔道部、陸上部と渡り歩いて来ただけの事はあり、卒業した今も力は衰えてはいなかった。小声で訴えても聞こえているのかいないのか『うんうん』と、うなずきながら笑顔で返されるだけで、延々と続く『手を握り合う光景』が佳織には致命的だった。
『意味の無い対決を叩き付けられて、無理矢理グランドを走り回された、あの日を思い出せ。そして理不尽な年功序列に悩まされ、共に戦った事をもう一度胸に刻み込め。たぶらかされているだけなんだから!』
わだかまりを勝手に消すなとばかりに、佳織は斜め向かいから、必死に目で訴え続けた。数年間に渡って蓄積された確執が、そう簡単に消せる筈がない。それに味方である長井が、共に敵対視していた大原と、長々と手を握り合い見つめ合う場面なんて、昨日迄なら絶対に有り得ない事だった。
「しっかり手なんか握ったら、相手はイチコロになるに決まってるじゃないのよ!」
女という立場を悪用した手段が、どうしても許せず、目の前で起こっている想像も付かない現実に、カルチャーショックを隠せなかった。せっかく、一つの確執が消えたばかりだというのに、それによって生まれた新たな一騒動が、まさに起ころうとしていた。
次の日の放課後、長井は部室に一番乗りした。明日が決勝で実質の練習日は今日で最後の為、かなり活き込んでいたが、既に佳織が入室を果たしていて、スパイクを磨いていた。
「何だ、俺が一番かと思ったら…。あぁ悪いなぁ、さすがはマネージャー第一号!明日の決勝に備えて、みんなのスパイクを磨いてくれてたんだ!」
「一号…、ですって?入った順番で言えば、そうかも知れないけど…。所詮アンタにとって私は、二号さんみたいな存在でしかなかったみたいね。」
すると突然、手にしていたスパイクを無造作に、机の上に投げ付ける様に置いた。それは、とても暗い口調で、あまりの意味深さに、ただ戸惑わされるばかりだった。
「何言ってんだ?昼ドラの見過ぎなんじゃないのか?」
「ねぇ昨日…、寄り道なんかしないで、ちゃぁんと真っ直ぐ帰ったわよねぇ?」
「なんだよ急に、しかも寄り道って…。小学校じゃないんだからさ。」
「すっトボケてんじゃないわよ、この浮気者ーッ!」
まさに彼女のヒューズが切れたのは、その時で急に立ち上がると、そこら辺にある物を、とにかくお構いナシに投げ付け始めた。
「おい、やめろよ!」
もはや、それは一人の男の力では、どうにも止められるものではなかった。無数のボールに掃除用具、自らさっき迄、丹念に磨いていたスパイクさえ、何のためらいも無く投げまくった。挙句の果ては、明日の本番の舞台には絶対、欠かせない洗いたての神聖なユニフォーム迄もが、容赦無く飛び道具と化した。
「アンタが、あぁもコロコロ気が変わり易い男だとは思わなかったわ!あの女とデキている事は、ちゃーんと知っているんだからね!今迄どれだけ、私がアンタの事を心配して助けて来て上げたと思ってんのよ!」
佳織の目に映った昨日の長井の行動の一部始終は、裏切り行為と表現する以外、何物でもなかった。
「モノを投げるな、物を!せっかく手入れしたスパイクとかが、みんな駄目になっちゃうじゃないか!明日、何着て試合に出ればいいんだよ!」
「一体、何を話していたのよーっ!」
「何言ってるか分かんねぇよっ!第一なんだって、お前から浮気者呼ばわりされなきゃならないんだ!」
そんな言葉は、もはや彼女の耳には届いていなかった。そこへ、やっと藍子と千秋、そして部員達の声が近付いて来た。しかし全員、今から入ろうとする部室内で起こっている惨劇に、気付いてはいなかった。
「今日さーっ、先生早く帰っちゃって…。」
山元が、そう言いながら先頭で入ると、何かの物体が目の前に飛んで来る事に気付いた。
『何だろう、これは…。あれぇ…。』
決勝進出を果たすにあたって、どんなに研ぎ澄まされた反射神経を培っても『スパイクが飛んで来る』という概念迄は、兼ね備えられなかった。そうこう呟いている内に、よりによってスパイクの裏側がタイミング良く、顔面に直撃し白目を向いて倒れてしまった。
「ちょっとォ!何やってんのよアンタ達!」
藍子を始め、部員達が総出で止めに入るも、佳織の攻撃態勢は緩む気配が無かった。
「た、助けてくれ!」
長井は怯えながら、そそくさと遅過ぎた部員達の救援に隠れ込んだ。狙撃相手が、対象では無い藍子や部員達を壁にして見えなくなった事で、佳織は投げるのをピタリと止めた。
「一体…、何があったのよ?」
「別に…、何でもないわよ。」
千秋が聞いたが、そうシラを切ると自分が投げ倒した椅子を拾い上げ、そっぽを向いて堂々と座るのだった。しかし尋常ではない、この散らかり様の現場を見渡す限り『何でもない』で本当に済む筈がない。藍子が言った。
「あのねぇアンタって人はねぇ…。決勝を前にして部員達の大事な備品とかを投げまくるって、どういう事!?この用具の管理をするのが、私達の仕事じゃなかったの?」
全員、一部始終を目撃していた訳ではないが、長井が抵抗できずに一方的な攻撃を受けまくっていた、という事実は明らかだった。だが佳織には一向に反省の色が見られず、後ろを向いて澄ました顔をしているだけだった。
「せっかく、糊付け迄したユニフォームが…。私達三人で明日の本番に間に合う様にって、必死で仕上げたんじゃない?どうしてこうも簡単に無駄にできるのよ!こんなにシワクチャになって、ちゃんと説明して!」
千秋が半分、泣きそうな声で言った。三人全員で必死に洗い上げた、結晶みたいなものであり特に今回は、練習試合などとは訳が違い念入りにしたのだった。そんな感極まる最中、ある思いが部員達にはあった。大事なユニフォームを、試合が終わる度に洗ってくれるのは嬉しい半面、いつも仕上がりが丁寧過ぎていた事に、ちょっとした不満があった。
愛情がこもっているからこそ、いつも新品同様の着心地に仕上がる為、肌に馴染まないまま試合に挑んでいた。むしろ普段、練習で着古しているヨレヨレのジャージの方が、ピッタリフィット感があった。でもまさか、十五人が不揃いの格好で出る訳には行かない。
毎回、部の活動の全てを支えて貰っている立場だけに、日頃から言うに言えない現状だった。目の前にある、無造作にシワクチャに投げ出されたユニフォームに、かなりの好感があった。少し汚れてしまっているものの、投げ出された衝撃から生まれる、適当なほぐれ具合から期待できる更なるフィット感は、計り知れないものがあった。
そんな事を口にしてしまっては、今度は藍子と千秋の方が発狂しかねないので、部員達は、決して声には出さない様にと疎通を図った。それにしても気になるのは要因となった、この乱闘騒ぎで前々から関係が怪しいとは思っていたが、ひょっとして二人は…。
「バカ言ってんじゃないよ!誰が、こんな暴力女を!」
それは状況を余計に悪化させる要因になり、長井は発狂する直前に陥ってしまった。
「あら?時間が経つのって随分、早いわ。さぁて、そろそろグランドに行かなくっちゃ。それにしても明日が本番だっていうのに、どうして先生、早く帰っちゃったのかしら。薄情だわぁホント。」
佳織は髪をかき分けながら、白々しく出て行った。この散らかった後始末は一体、誰がやるんだという課題だけを残したまま、場を去った蛮行自体が薄情極まりなかった…。
ただ、この騒動の引き金を引いた張本人は最後迄、大原の名前は挙げなかった。もし出していれば、こんな大事な時期に接触なんかを果たした、長井の方に非難が集中していた筈だった。乱闘騒ぎも当然、やむを得ない行動だったと正当化されて、誤解も解けたに違いない。あえて『それ』をしなかった佳織に、長井は純粋さを感じた。
総仕上げの練習は前日に、入念にやり過ぎてもオーバーワークになるだけなので、控え目で終えた。長井は帰り道、佳織を呼び止めて、みんなからの誤解を何とか払拭できないかと訴えたが、中々聞き入れてはくれなかった。卒業した後でさえ散々付け回して来た相手に、どうして今頃、許せる隙を作るのかが理解できなかったからだった。
向こうから謝って来たのはいいとしても、どこ迄が信用できるのかは結局、大原自身の今後の行動に委ねるしかない。彼女の本心は、彼女しか知り得ない事でもあり、佳織にとっては、まだまだ限り無くダークな存在だった。
「さっき、あの先輩の名前を出さなかったのは別に、あなたをかばうつもりじゃなかったのよ。どうしても私は素直にはなれないから…、憎まれ役で結構なの。好きでやっているのよ!」
そんな突っ張っている態度こそが、素直だと思った。
「もし許してくれるなら明日の決勝、あの先輩を客席じゃなくて、俺達のベンチに座らせて上げたいんだ。一応この学校の卒業生なんだし、それに終わった事なんだよ、もう昔の話しなんて…。」
『なんて突拍子も無い事を』と言われるかも知れないが、自分にとっては大原との確執は、とっくに失せていた。それを部員達や特に、この佳織に理解して貰えるとは思っていなかった。わだかまりが消えた今日に至る迄の経緯は、あくまでも自分と大原との極限られた、やりとりでしかないのである。
「藍子と千秋なら、きっと反対はしないと思うわ。どうせ試合が始まったら、ベンチには私達しかいないんだし。大人しく観てくれるって言うのなら構わないわよ。それに私が決める事じゃないわ。」
あの二人が『いい』と返事をするならだが、かけがえの無い後輩達である以上、そう言わない筈がなかった。自分が始めた部とは言え、部外者をベンチへ招くといった『私物化』は許されず、周りの理解が必要だった。
渋々ながら、後輩達の承諾も得られると思った。結局、三年生になった今も大原は自分にとって、いつ迄も付きまとう存在だった。もしかしたら、自分が今の学校に入った事で、自分が『つきまとっていた』のかも知れない。
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