第42話 運命のキックオフ

「どこ行ってたんだ!次が始まっちゃう!」

試合の合間に、フラフラと場を離れて行ってしまった長井達に、勝浦は待ちくたびれていた。その後の二試合目と三試合目は、順調に連勝を重ね、この大会自体の最後の試合が、長井達と中崎のチームの対戦となった。

四試合目以降は全て負けてしまっている為、例え本当に勝ったとしても、掲げた目標である優勝は、既に果たせない事が決まっていた。試合数が多い事もあり、二十分ハーフの短縮策が取られてはいたが、普段の練習試合の経験も乏しく、まだ連戦をこなせる余裕は無かった。中崎達のチームはと言うと、勝たなければ優勝できない状況下に追い込まれていた。

つまりは二位以上は確定しているが、基本的には毎年、電々工業が余裕で優勝する為の大会だった。最後の方の数試合を待たずして、優勝決定が恒例であり主催校としての絶対使命でもあった。今回ばかりは参加校が増えたせいか、単に陰りが見えたか、その行方が最終戦に迄もつれ込むという『失態』を犯した。

ましてや問題外チーム相手に、勝敗の命運を賭けなければならなくなったので、これだけでも長井達にとっては開始前から、まさに『してやったり』だった。ちなみに優勝校には選手や監督は勿論、リザーブなども含む参加した全ての者に、特製の紅白大福餅一箱が各一人ずつに進呈される。

こういった特典を用意するのは主催校なので、下手なトロフィーなどよりリーズナブルで済み、発注した商店が大会のスポンサーになってくれるなど、多大なメリットがあった。

こうした地域密着型の運営も、強豪と謳われる理由の一つであり、別に悪名だけを轟かせている訳ではない。圧倒的な強さ故に世間から生じる誤解とは、よくスポーツの世界ではある事だった。既に、全ての対戦を消費し終えた他のチームからは、これでもかというぐらいの声援を送られていた。

特に大福餅獲得の権利が、まだ懸かっているチームからは異常な声量が上がり、これは中崎達への当て付けでもあった。苦い思いをさせられているので、毎年ありきたりの結果は当然、見たくはなかった。ただ自分達は強豪チーム相手には、下馬評を覆す事でしか脚光を浴びれないとの現実でもあった。

味方ではない筈の名も無いチームに集中する声援が、それを証明していて、決して勝ってほしいという意味合いではない。優勝候補が何かハメを外してほしいと願うもので、やがて応援はプレッシャーへと変わって行った。

「黄金色に輝く紅白餅か…、いつか俺達も口にしてみたいものだなぁ。」

いずれは後輩達にもと、気遣ってか長井が呟いたが、どうやっても赤と白の物は金ピカにはならない。所詮はキャプテンらしい例えだと、部員達は呆れるばかりだった。とは言っても手にするチームは毎回、変わらない。

食すれば無限の力を発揮し強豪をも、なぎ倒し頂点に立てると誰かが言ったとしても、疑う要素はなかった。届かないと分かり切っている物程、魅力的なものはない。まさに高度な栄養素を豊富に持ち合わせた、王者が最後に入手できるスーパーフードなのであった。

「何の通販やっているの?毎年、用意したチームに食べられているだけじゃないの。」

更に佳織が、呆れた様に言った。練習環境や、何よりは学年的に分が悪かった点が響き、過去二回ある対戦は、いずれも惨敗していた。あえて相手も、こちらのレベルに見合わせた、メンバー編成で挑んで来た事があったが、それでも何点か取るのがやっとだった。

今回は主催校でもあり、対戦相手に合わせた『ご丁寧なメンバー調整』などは消極的行為として扱われ、何が何でもリーグ戦の全試合は、ベストメンバーを揃えるのが暗黙のルールだった。どのチームも主力選手の骨休めに、リザーブ同然の部員を参加させてはいけない。最後の最後で、絶対に落とせない試合になってしまったせいか、向こうは一軍の面々の選出に、かなり必死になっていた。

格下扱いはしていない事をアピールするかの様な、入念な体制には感謝するが、どうにも厳しい現状だった。『やっぱり』どころではなく、やる前から本当に勝ち目の無い勝負で、メンツ以前に単に、大福を防衛したいだけではないのだろうかと思った。

自分と大して実力が変わらない中崎は、それでもチーム内で言えば、中堅クラス程度と見ていい。日頃の練習は、レギュラークラスの部員達を相手にしているので、もう互角とは言えないかも知れない。いつ迄も、昔と大差が無い訳がなかったのは勿論、何も言い訳にはならない。グランドに整列した途端、敵軍の相当に血走った顔を目の当たりにする事となり、勝機は失われたと思えて来た。

後輩達も同じ考えを抱いていた様で、さっきの乱闘になり掛けた状況を考えると多分、大人しい試合では済みそうになく、始まれば一方的に攻められる姿が脳裏に浮かんだ。過去の対戦時と明らかに違う所は、いざという時には控えの一年生達がいる事だった。もしも誰かが、また倒れるといった事態が起これば、彼等に委ねるしかないと思った。

『おかしな期待は持つな!一年生は出せないんだ!』と精神的に押されている中だからこそ、あえて長井は言い切った。一人二人の退場者が出たぐらいでは、リザーブから補充はしないし、新入生には将来があり、ここで自ら散って手本となれたら本望だった。

『キャプテンらしさは魅せられなかったから、しっかり目に焼き付けよ俺の生き様を!』

そう叫ぶなり、相手のキックオフから向かって来たボールを、真っ先にキャッチしたはいいが、即タックルを食らってしまった。現実は、開始早々から攻め込まれるだけだった。

「何の影響なのかしらね、あれ…。」

再び佳織が呆れ顔で溜息を吐いたが、これでは散々コキ下ろして来た、あの三年生と大して変わらない。攻撃を食い止めるのに、集中せざるを得なかったせいか中盤になって、中崎が入っていなかった事に気が付いた。ひょっとしてケガでもして、さっきの乱闘には加わらなかったのなら、筋が通る話しだった。

それとも最強の面々を揃える為の処置として、外されてしまったとも考えられるが、だとしたらリザーブに回っていてもよさそうで、グランドの周りのどこにも姿は見当たらなかった。もう過去の様なお遊びはしないとの、相手チームの主張にも思えて、どちらにしても警告を意味するものに違いなかった。

その後は追加点を立て続けに取られて行き、突進して来るタックルやスクラムは、とても重く体に圧し掛かった。もしかしたら相手の目的は、勝ち星や優勝では無くなっているのかも知れない。普通に勝ちを拾うだけでは飽き足らない闘争心を、剥き出しにしているのが明らかで、このままだと確実に、潰されてしまうと感じずにはいられなかった。

『もはや君達に明日は無い希望も無い…。』

行方をくらませた中崎が、そう言いながら裏で仲間を操っているかの様で、それが現実になってしまうぐらいの恐怖感が、部員全員を襲っていた。そんな目的を果たす為に、わざわざ姿を消して迄、対戦を避けたとでも言うのが事実なら悲しかった。

心の叫びを必死で発したが今後の、活動の有無が左右されかねない試合の真っ最中でもあり、部員達には伝わり辛かった。まるでいい所がないまま、やっとハーフタイムを迎えたぐらい凄惨な試合だった。負傷などによる退場者が出ずに、ここ迄、持ち堪えられただけでも勝利に匹敵する奇跡だと言っていい。

もうトライを七つも奪われているが、これは相手が悪かっただけだと勝浦は言った。別に無理に勝とうなんて思う必要はなく、せめてノーサイドの笛の音が聞ければいいとの、完走を目標にするかの様なアドバイスは、慰めに近いものがあった。

「公式じゃない大会に、こんな全国大会に匹敵する様なメンバーを揃えやがって!」

怒り心頭で新山は言ったが、第一線の面々でチーム編成を組むという、実に大会の定義に沿ったものだった。部外者をコーチにしている自分達と比べれば、かなりフェア精神だと言える。後半も展開は殆ど前半の繰り返しで、優勝が懸かっている訳でもない事から、あまりの辛さに長井は、試合を放棄してしまおうかとも思った。

そんな時、ゴール直前の密集から抜け出た相手の一人が、トライを狙うべく突進して来た。一番近くにいた長井は真っ先に、追い駆けて掴み掛かったが効力は無かった。結局は追加点を抑えられなかったばかりか、倒された拍子に背中をポールに打ち付けてしまい、起き上がれなくなってしまった。

部員達は慌てて寄り集まり、勝浦やマネージャー達も、続けて駆け付ける事態になった。ようやく手を借りて起き上がったものの、自力で歩くのさえ困難になり、やむなく退場を告げられた。つまらない囁きが頭から離れなかったせいで、前にも集中力を欠いてケガとミスを引き起こし、仲間から不信感を買った。

まだ後半が始まって間もなくの事で、繰り返してはいけない不注意を、再び働いた責任を重く感じずにはいられなかった。何の抵抗も言い訳もしないまま、藍子と千秋の肩を借りて、素直にベンチへと引き下がった。

「たった一人の三年生で、よく頑張った。後は任せてほしい!」

「えっ…!?」

あれだけ決して他校には魂迄、売らないと豪語していた新山が、唐突に出場の意思表示をして来た。長井と入れ代わる様に、グランドに潜り込むも同然の言動であり、部員達は揃って驚かずにはいられなかった。母校の誇りとやらは一体、どこに行ったのか?

そう言った信念を打ち砕いても構わないと思う程、窮地に陥ったと自覚するしかないのかも知れない。今、優先すべきはポリシーなどではなく、とにかく安全な試合運びだった。公式の大会ではないからこそ、相手チームは、きっと黙って認めてくれるに違いない。

現に心無い一方的な表現ながらも、さっき了承は得られており、まだグランドに残った勝浦は、メンバーを補充するべきかどうか非常に迷っていた。最大十六人迄は可の所、あえて規定の人数で続行する訳なので、何の文句も付け様は無い筈だった。

新入生は中学時代から全員、長井達と行動を共にしていたのは言う迄もなく、出して出せない事はない。問題は、当時の現場を実際に見ていた訳ではないし、何より素人なので、その見切りが判断できない事だった。安易に戦場に送り込んで、担架で目の前に戻って来られたら、今度こそ教師生命に関わる。

ちなみに新山の加入は彼の戦力構想には無く、それに頼ってしまうと大会が自分達にとって、何の為のものか不明確になってしまうからだった。こうなったら、いつぞやの新人戦と同じくキャプテンを欠いた、残った部員達で続けさせるか打つ手は無い様にも思えた。

一軍二軍や補欠の振り分け、試合によっては守備変えも必要になって来る場合があるが、どれも未経験だった。全ての決定権は顧問にあり、どうにかして決めなければならないが、こういったどこのチームにも存在する部内の構成を、本当にやった事がなかった。

レギュラーから溢れる程の人数は抱えておらず、各部員の守備は定着しており、いじり様がない。新入生は未知数でも、そのままリザーブに宛がった為、器量を測る機会も苦労も無かった。元々、請け負う顧問がいなかった部に、強引に就かされた経緯もあり、今どうこう責められはしないが『未知の世界でした』では済まされない。

最終的には、やはり小細工は使うべきではないと、本来のメンバーで挑む事となった。構成し切れなかった勝浦の、手抜きと言えばそうなるが、せっかく名乗りを挙げた新山と、控えの新入生に出番は無くなった。

この辺の地区の学校が、どうせ勝手に寄り集まってやっているに過ぎない、いわば『野良大会』だった。結果を待たずとも勝敗は明らかで、他校生が助っ人で入った所で今更、誰も異議など唱えない筈だった。最前線メンバーの参加が遂行上の条件とは言っても、欠いてしまえば予備の選手を出す他なく、無理に十四人で続ける必要はなかった。

ケガ人の運搬も終わり、さっさと部外者には退散して貰わないと、進行の妨げになった。冷たい表現ではあるが、少しでも楽をしたい為だけの手助けは要らないと、みんな同じ考えを持っていたに違いない。戦績不明な新山を出す必要は無く、それをやらなかったのは、今日に至る迄の努力を無駄にして迄、安全策に走る道を選びたくはないからだった。

実戦経験の薄い一年生達でもなく、最後に頼るのは自分達だという意志を、頑なに主張した。それを確認した新山は、もう自分が介入する余地は無くなったと理解できた為、大人しくグランドを降りた。勝浦もマネージャー達と新入生を引き連れて、下がるしかなかったが、これを英断と呼べるかどうかは、この時点では分からない。

試合は再開されたが、まだ後半は二〇分以上も残っていて、勝浦が部員達に指示が出せる程の判断を、顧問ながら持ち合わせていない事は周知の通りだった。キャプテン不在で実質、司令塔を失っており、どう試合を組み立てるのかは各々が判断しなければならない。

実行する為には周囲の動きを読んで、即興で息を合わせないといけないが、全員が勝手にリーダー意識を持ってしまうと、収拾が付かなくなる。長井を軸にして動くという習性が、各部員に永く住み着いていたので、いざ失った時の対処法は誰も知らず、適した練習もして来なかった。本当に新山が出ていたとしても、代役が果たせていたかは微妙だった。

再び連続で得点を上げられる度に、周りからは溜息が漏れた。プレッシャーになるだけでしかなかった、声援ですら次第に消えて行き、いつかの様な途中棄権とはならなくても、このまま無得点で終わりそうな気配がしていた。中断明け迄にはあった戦意も、肩を落とす様に、すっかり無くしてしまっていた。

ほぼ優勝は電々工業が確定的となり、他の出場校の面々は、もはや『観戦を強いられている』も同然の状況になった。ちなみに、この後の表彰式迄が大会参加の定義であり、早退やボイコットを起こしたりすると、次回からの参戦が厳しくなるのだった。

到底、各校の今後の活動に影響が出るとは考えにくく、そんなに情熱を注ぐに値するものでは無い様に思えた。お立ち台という名の絶対上位を見せびらかすのが、毎年恒例のエンディングと化しており、繰り返し言えば、所詮は非公式の『野良大会』なのである。

むやみに、プレー中の選手への声掛けは御法度だが、ありきたりの展開に我慢ならなくなった新山は、あえて叫んだ。まだ時間は残っているし、キャプテンがいなくても、みんなの力でトライを奪った試合はあった筈だった。絶対勝利のノルマなどなく、要は一本でも取り返せればいいという次元の話しだった。

『何をやろうとしている?まさか復帰しようとしているんじゃないだろう?』

ベンチで横になっていた長井は、それに刺激されて蘇生したのか、急に飛び起きた。勝浦の忠告は、まるで聞こえていなかった。何の返答をも待たない内に、ホイッスルを合図に中断した場面を見計うと、勝手にグランドに入り込んで行ってしまった。

『それでこそ間違いなく、今でも現役バリバリのキャプテンだよ。俺にはハッキリと見える、ノーサイドの笛の調べと同時にグランドに立つ雄姿が…。』

自分の臨時コーチ就任など、最初から不要であったとの旨も含めて、優雅な思いに浸って語ったはいいが、勘違いでは済まされない事態に至りつつあった。

「ちょっと冗談じゃないわよ!おだてて、おかしな事ヤラセないで!」

「そうよ!言わなかったけれど、あなたが来てから、かえって部の中はメチャメチャになったわ。」

形式上は消化試合に過ぎず、わざわざ一度、負傷退場した部員を再加入させる理由は無い。そのぐらいの事は素人でも分かると、それぞれ藍子と千秋は不満を露にした。この大会参加をセッティングした恩など、忘れ去られた存在になっていた。

「本人が望んで戻ったんだろうし私は賛成よ。それに危険は付きものなんじゃないの?」

冷やかな視線を送る彼女達とは対照的に、佳織は新山の肯定派に回った。いちいち起こってしまった事を指摘していては、キリが無いとの意外に真面目な意見ではあるが、投げやりに捉えている様に見えなくもなかった。

それ以前に、どうせ引き止めても無駄だったと、みんな分かり切っていたので今、どうこう言っても始まらなかった。長井が再臨したグランドでは、そんな心配をよそに、パーティー気分の様に活気が戻っていた。

息を吹き返し反撃に転じた体勢に相手チームは、すっかり意表を突かれてしまい、やがて試合が始まって初めて、自陣に潜入される隙を許す事となった。勢いは止まらず、しばらく相手のゴールライン手前での攻防が続き、周囲からは沈黙が続いていた、観戦していた他校のチームからの声援が再び始まった。

『イェーイ!』『ワァーオッ!』と長井達が決めるワンプレー毎に大歓声が鳴り響き、それはプレッシャーではなくなっていた。これが実際『つまらない』という理由で観戦放棄ができない為、他に何の楽しみも無い故の、気分紛らわし手段なのは言う迄もなかった。

あくまでも全ての出場校は、電々工業の表彰と紅白大福餅進呈式シーンを、目に焼き付けてからでなければ帰れない。勿論、強制ではないが来年を考慮すると、誰もが目撃しない訳には行かなかった。その後は粘った末、到底不可能と思われたトライが入った。

続けてのコンバージョンキックは外してしまったものの、決して勝利には繋がらない高々、一度入っただけの得点に大きな声援が飛んだ。余裕で優勝する筈のチームが、終盤で苦戦を強いられた挙句『食い下がり』を見せ付けられるという、醜態を晒す事となった。

これだけ、いいものを見せられたのが何よりの収穫であり、こうして残って正解だった。この調子で巻き返しを計ろうと、再び相手陣地に突っ込む事に成功はしたが、あえなくタックルで弾かれてしまった。その上、時間が無く反撃を試みるにはタイミングが遅過ぎた。

前半より少ない追加点で抑えられたとは言っても、三度目の勝負も、最終的には惨敗でノーサイドの笛を聞いた。大方の予想通り、優勝常連校の勝ち星分配チームで終わり、初出場のチームらしいと皮肉られれば否定はできないが、悔いのない結末だった。それを物語ったのが、中崎のチームが最後に見せた、詰めの甘さと言うべきか油断だった。

毎度、お馴染みのチームが優勝するのを目撃するのは、マンネリ過ぎて面白くはない。更には主催校という立場に付け込んだ、参加校に対する横暴な態度の数々だった。

それでも各校が参加願いを欠かさないのは、少しでも多くの大会に出て、経験値を積み上げたいとの心理からに違いない。そんな弱みに権力で対抗しようとする手段を、許さないので何とかして是正する為に、やって来た…。

「まずは自分達の実力を理解しなさいよ!」

佳織が突っ込んで言った。所詮は、辛うじて最下位を免れただけのチームであり、次回参加の心配をしていないからこそ叩ける口だった。『二度と出るかバカヤロー!』が、どこのチームも揃って叫びたかった本心だった。

土壇場で決めた初得点は、その嫌々ながら仕方なく参加している、他校からしてみれば最高のショーだった。電々工業の表彰式など、すっかり影の薄いものと化し、まさに『してやったり』という表現に相当した。

すんなりと優勝させるのは本当に毎年、気に障る恒例行事だった。一緒に苦い勝利も持って帰って貰う事で、よく現実を受け止め、これからの参加校への配慮をしてくれたなら、それで良かった。優勝という目的は果たせず、結果的には、やはりリーグ戦をかき回す『台風の目』になっただけだった。

『君達の様な素晴らしいチームに、もっと早くから参加して貰いたかった!』

そう思われれば自分達にとっては貴重な経験であり、大会の全てが終わった途端、長井達は取り囲まれて揉みくちゃにされ始めた。数える迄もない得点差で惨敗した相手から、一回トライを入れただけだというのに、かなりの見合わない高待遇だった。これは天地程の実力差があったので到底、敵わなかった事実からであり、正直言えば嬉しくはなかった。

意気込みだけでは何もできず改めて、すぐ目の前にある壁の厚さを知らされる事となり、今の中崎のチームと互角に渡り合えないと、県総体の上位入りなど無謀な夢で終わってしまう。それ以前に、そういう目的を当然の様に思い描く自体、既に無謀ではある…。

結局は中崎の姿は、あの乱闘騒ぎを最後に確認する事ができなかった。

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