第6話  ハンディ・キャップマッチ

根本は毎日、長井が訪れるのを今か今かと待ち続けたが、その態度は、上級生達には当然ながら面白くは感じられない事だった。

「先生、いい加減に諦めたら?どうせ、来やしないわよ。」

大原は言った。練習に打ち込む、他の部員達にも不安感が伝わっているので、もっと自分達の方に目を向けて欲しいと訴えた。

「分かったわ、ゴメンなさい。もう彼の事は口にしないわ。」

根本は、少しやり過ぎの所があったかも知れないと半分、諦めた。何よりは肝心の部員達を、第一に考えていなかった事を反省した。結局いつになっても、長井が練習に現れる事はなかった。担任という立場上、顔を合わせる機会は幾等でもあったのだが、いつも向こうの方から視線を反らせてしまうので、声を掛けるタイミングが取れないでいた。

放課後になるのを見計らって、練習に誘おうとした時には、既に姿を消していた。練習が終わったある日、一年生部員が上級生達が帰った部室で、とある話し合いをしていた。その長井とは、そんなに足が速いのかという事と、藍子はクラスメートだから詳しい筈、との話題ばかりだった。

「えっ?でも先生が欲しがるぐらいだから、やっぱりそうなんじゃないの?」

長井との接点は、いつかのエプロン劇場を演じたぐらいなので突然、話しを振られても分かる訳がなかった。第一、本人が走りに打ち込んでいる姿など、見た事がないのである。

「いや、私は分からないわ。千秋の方が詳しいんじゃない?同じ中学校だったみたいだから少しは分かるでしょう?」

「えぇっ!?」

今度は全員の視線が千秋に注目したが、彼女も同様に深い付き合いがあった訳ではないので、どうにも答えられなかった。

「さぁ…。私、クラスも一緒になった事がないし、話しも全然した事がないのよ。」

中学時代、いつも放課後は仲間とラグビーをやっていた様だったが、じっくりと見学した事は無く、あまり気にも止めていなかった。当時の千秋の目に映っていた長井とは、その程度の記憶の存在でしかなかったのである。

入学式の帰り、ほんの少しだけ立ち話しをしたのが初めての接点だった。だから少なくとも、クラスが一緒の藍子の方が、自分よりは詳しく知っている筈だとばかり思っていた。

まさに話しに浸っていた時、既に帰ったとばかり思っていた大原達が突如、入室して来た。唐突の緊急事態に一年生達は途端に、会話をストップさせて直立不動になった。それだけ上級生の存在とは脅威的なものであり、静まり返った部室の中で大原は藍子に言った。

「明日、その長井ってクラスメートを部室の前に連れて来て。」

「えぇっ先輩?!今のを外で聞いていた?」

「そんな事はどうでもいいじゃない!ただ、先生が欲しがっているっていう、その一年生が大した実力が無いって所を、私が見せ付けてやりたいのよ。」

「見せるって…、誰に?」

千秋が、恐る恐る聞いた。

「先生に決まってんじゃないの!『長井君って思った程じゃなかったのね』って、証明してあげるのよ。肝心の、同じ中学のアンタが情報に乏しいんじゃ、誰かが実践するしかないじゃない?」

完全に盗み聞きしていないと、ここ迄は言えない内容だった。

「でも、本人が来るかどうか…。」

自信無さ気に、藍子は言った。

「自分の意思で来る訳ないじゃないのよ!だから連れて来てって言っているのよ!それから千秋、アンタも手伝ってあげて。中学の時からの友達なんでしょう?それでも駄目なら、一年生全員でなんとかするのよ。いーい?もし明日、私が来る時迄に長井が、ここにいなかったら、どうなるか分かってんでしょうね…。」

キツく念を押すと、やっと部室を出て行ってくれたが、これは上級生という立場をフルに悪用した、脅しに過ぎなった。藍子や千秋は、この指示には絶対に逆らえず、何が何でも、長井を連れて来なければならなくなった。

「ねぇ、何かムキになっているんじゃない?今日、先生が言っていたじゃないの。もう勧誘しない、みたいな事。」

歩きながら、西尾は言った。

「それが甘いのよ!先生は、完全に諦めたとは言っていないのよ。だから今の内に、その長井って新顔を、陸上部には必要無いって証明しなくちゃいけないの!」

『どうやって?』と川崎が聞いた。

「誰かが彼と勝負をして、惨敗させるのよ。そうすれば幾等何でも、諦めるしかないじゃない?」

「待って!先生の事だから『まだまだ彼の才能は練習すれば伸びる』なぁんて言うかも知れないわよ。」

育成選手を前提にすれば、一回負けたぐらいは絶対、評価の対象にはならない。そう西尾が言ったが、大原は言われる迄もなく、その程度の展開は見越していて、そんな時こそ部長という立場を利用すればいいのである。

「もし、そう言って来たってウチらに負けたんだから、やっぱり入部は諦めてって言って通せばいいわ。明日絶対、大恥じかかせてやるんだから!」

一見、何の説得力も無いかの様な返答だが、これには大きな意味が隠されていた。練習したり大会に出場するのは、あくまで部員かつ選手でもある自分達であり、顧問の根本ではない。もしも、その自分達が一斉に、この部を去って行ったとしたら…。

『先生、これ以上は自分の言い分が通らない事ぐらい分かってますよね?それでも推し通そうって言うのなら、こっちもそれなりの手段、取りますよ?それがどういう事か、分かりますよね?』

困るのは言う迄もなく根本であり、こんな具合に詰め寄れば、事が丸く収まるという寸法だった。後輩達は勿論、同級生の西尾や川崎迄も大原は、自由に操る事ができる存在だった。伊達に部長はやっていないし、そんな『奥の手』もある為、顧問よりは立場が強いと確信していた。もはや部長として、陸上部の存続を守ると言うよりは、ただの嫉妬心の固まりで動いている様なものだった。

陰で、そういった企みが動いているとは知る由もない長井は、バイトの夕刊配達に励んでいた。次の日の放課後には藍子と千秋に無理矢理、連れられて陸上部に向かわされる事となった。

「ホントに、すぐ終わるんだろうなぁ?バイトの時間に遅れると、専売所の所長に怒られるから。」

「大丈夫よ、すぐ終わるから。」

千秋は『ウチの部長が話しがあるって言ってた』とだけ言って、決して勧誘目的ではない事を強調した。本当は、すぐ終わるという保障は無く、これから向かう先に戦慄が走っているのかと思うと、二人は心が痛んだ。

何だか我が身可愛さの、この行為に罪悪感が込み上げていたが、こうしないと自分達や他の一年生部員の立場が、危うくなってしまうのである。まさか間違っても、大原達と殴り合いに発展するなんて事態には、ならないと信じていた。事情を知らされないまま連れ出された長井にとっては、陸上部の顧問の次は、今度は部長に呼び出されるという、その根拠が分からなかった。勧誘でなければ一体、何の用だと言うのだろうか?

「せんぱーい!連れて来ましたーっ!」

部室の前迄来ると、藍子は叫んだ。しかし、この場には予定外の根本が居合わせていて、経緯を知らされていないので、てっきり入部を前提に来てくれたと思い込み…。

「長井君!やっぱり来てくれたのね。」

「おいおい、結局は勧誘じゃないか!」

根本と顔が合った途端、藍子と千秋の手を振り解いて、逆方向に歩き出した。今回の件は大原の独断によるものなので、部員以外には何も伝わっていなかった。

二人は、このまま全てが水の泡になってしまうと、大原達から何をされるか分かったものではない為、異様に焦り出した。慌てて二人掛かりで、長井の両脇に掴み掛かかったものの、逆に引きずられてしまった。

「違うのよっ!誤解なの!お願いだから止まって!」

「先生ーっ!長井君は、今日は部長に呼ばれて来ただけなのよーっ!」

それぞれ藍子と千秋は叫んだが、女二人の力を持ってしても、男子一人を止める事は困難だった。やがて、その場にいた他の一年生部員達の説明で、ようやく長井と根本は、事情を呑み込めたのだった。ようやく部室からは、大原を先頭に上級生達がゾロゾロと出て来た。さっきから部室にいたのなら、どうして自分達が事情を説明しないのかと、二人は思ったが勿論、口には出せなかった。

「先生が欲しがっているっていう、この彼が『この程度の実力しか無かったのね』って所を、今から私達が見せて上げるから。」

大原が、自身満々に言い放ったが…。

「アンタ誰?陸上部のマネージャー?」

初対面にも関わらず、唐突に訳の分からない事を発する高飛車な態度に、長井は苛立ちを隠せなかった。

「えぇっ?何ですってぇ!?」

一方の大原にしてみれば、部長である自分の顔を知らないだなんて、例え新顔でも許せないと思った。長井は今日迄、彼女の顔を知らなかった。だが、そんな事はどうでもよく、謂れのない勝負を挑まれている件については、実に迷惑な話しだった。

「もう一回、ちゃんと説明してくれよ。一体、何をやろうって言うんだ?」

しかし、その言葉は跳ね除けられ、自分の意思とは関係無く、勝手に事が進んで行った。

「私がやるって言ったらやるのよ!先生?彼が負けたら、本当に諦めるんだからね。」

「分かったわ…。長井君、あなたが入部できるかどうかは、あなた自身に掛かっているから、それを忘れないでね。」

勝手に、査定試合に持ち込まれつつあった。

「だからぁ、俺は最初っから入る気なんてないんだって!」

早過ぎる話しの流れにはついて行けず、すっかり立場が無くなってしまった。元を辿れば二人の可愛い顔に騙されて、こんな所に呼び出されたのが発端だが、気付いた頃には全てが後の祭りだった。

『ゴメンなさい長井君、私達は決して自分を守る為だけに、あなたを騙したんじゃないの。こうしないと、大事な仲間が危険な目に遭わされるのよ…。』

『あなたは強い人よ。だからきっと、どんな困難にも立ち向かって行けると、私達は信じているわ…。』

藍子と千秋は、誰が聞いても自己都合としか取られない綺麗事を、それぞれ好き勝手に呟いていた。こうなった以上、もう勝負するしかないと開き直るしかなかった。

「で、何で決着を付けるんだ?」

「やっとヤル気になったわね。トラック競技なら何メートルでもいいわよ、好きなコースに合わせて上げるから。」

そう大原は言ったが、陸上競技の経験が全く無いので、どのコースが自分に合うのかが分からなかった。

「じゃあ、八百メートルで勝負しよう。」

「アンタ本気なの?ホントに素人ね。」

西尾が言うと上級生達は、馬鹿にした様に大爆笑し出した。中距離コースはペース配分が難しく、いきなり走って、いいタイムが出せるものではなかった。まずは、ある程度を走り込んで、距離の感覚を掴んでおかなければならず、ぶっつけ本番が利かないのである。

スピード重視の短距離なら、まず勝てない事は、やる前から分かっていた。かと言ってマラソン程の長距離になると、しばらく自分も運動から遠ざかっているので、自信が無かった。それなら未知の領域の中距離なら、何かが起きるかも知れないという曖昧な理由だけで、このコースを選んだのだった。

無難な手だったのか、それとも単なる無謀な手段なのかどうかは、やってみないと分からなかった。言えるのは、元々ラグビーでは、絶対に自分のペースでは走れないという事だった。仮に、どんなに足に激痛が走っていたとしても、敵がボールを持って走っている限り、それを嫌でも追い駆けなければならない。

自分の都合のいい様には、ボールは転がってくれないのである。走りたくもない時に走っていたグランドを、今から中距離走をする、このトラックに見立てればいいと思った。

「じゃあ、始め様か。」

「本来なら言い出しっぺの私、と行きたい所なんだけれど、それじゃあ、あんまりだから…。藍子!アンタが相手して。」

スタートラインに立ったが、大原は突っ立ったままで、勝負への姿勢が見られなかった。それは突然の理由からで、どうして今頃になって、クラスメートに勝負させると言い出すのか『えっ?』と全く理解できなかった。

「今日の話しを持ち掛けた張本人が今更、何を言ってんだよ!ふざけるなって!」

これは大原の策略で、部長が勝っても、それは当然の結果なので面白くない。第一、顧問の根本自身が納得しないに決まっていた。そこで、もしかしたら勝てるかも知れない、と思わせる相手を宛がった後、負かした結果を持って『やはり彼に実力は無い』という証明をして見せ様と考えたのだった。

「彼の言う通りよ。どうして、あなたが走らないの?」

根本は言ったが、こう言い返した。

「『好きなコースに合わせて上げる』って言ったのは、そのコースに見合う部員を宛がうっていう意味なのよ。誰も、私が走るとは言っていないわ。それに中距離選手の、わざわざ一年生を指名して上げたのよ。こっちだって色々、気を使っているんだからね!それでも先生、このやり方に、まだ何か不満があるって言うの?」

根本は、それ以上は何も言い返せなかった。

『部長なら一年生如きの男子に勝って当然、これは勝負の内に入らない。』

大原は、仮に自分が相手をしたとすると、そう言い訳される事態をすっかり見越していたので、こういった対戦設定を組んだ。

「分かったから、とにかく何でもいいから、さっさと始めてくれよ!」

長井は段々、ややこしくなる展開にウンザリ来ていて、とにかく終わらせたいという一心にかられていたが、急ぎ過ぎるあまり肝心な事を忘れていた。

「ねぇ、その格好で走るの?」

西尾が言った。藍子は既に、ジャージ姿なのに対して、自分は制服のままだった。

「あっ、悪い悪い。」

すっ呆けた様に、その場で脱ぎ始めると制服の下から、いつもあらかじめ着込んでいる、体操着の半袖と短パンが現れた。体育などの度に、宛がわれた例の部室に移動するのが面倒だった事から、毎日やっていた工夫が、こんな所で役に立ってしまった。

「校庭の真ん中で何やってんのよーっ!」

千秋に怒鳴られている姿が、なんとも哀れでならず、大原は鼻で笑っていた。下っ端の一年生部員に負けさえすれば彼が、この部には必要無いという判断材料が揃う。幾等何でも、そうなった時に根本は、自分の意見を強く主張できなくなるに違いない。

『キャプテンが相手じゃ長井君が負けたってしょうがないわね』の言い訳が立たなくなる状況が、今から始まると確信していた。

「藍子!絶対に負けちゃダメよ。仮にも中距離選手なんだからね!もし負けたらグランド十周じゃ済まないわよ!」

スタートラインに着いた途端、上級生の川崎が威圧感を飛ばしていた。つくづく、ここの上下関係は厳しいと、長井は思ったが…。

いつか自分の為に、エプロンを作って貰った事があって結局はバレたが、何の言い訳もしないで一緒に怒られてくれた。借りがあるからといって、ワザと負ける事が恩返しになるかと言えば、勿論そうではなかった。感情移入した所で何も残らないし、それは相手も望んでいない様な気がした。

彼女も同じ考えで、このコース専門の陸上部員である自分が、帰宅部の男子に負けてはいられなかった。先輩からのお仕置きは怖いが、それ以上に選手としてのメンツがあった。

「万が一アンタが勝ったら私自身が、入部を考えてやってもいいわよ。」

スタートのピストルを鳴らす大原は言った。

「その気は無いって何回、言ったら分かってくれるんだ!早くしないとバイトに遅れちゃうじゃないか!」

「こっちだって貴重な練習時間を割いて、やっているんだからね!じゃあ行くわよ!」

こんなシチュエーションを組んだ張本人に、言われたくはない事で、対戦を避けておいて開始の合図役とは、ご丁寧な『皮肉』だった。そう呟いている内にスタートは鳴り、意表を突かれたので若干、出遅れてしまった。

藍子に五メートル程の差を付けられた状態で、一周を過ぎ、このトラックは一周が四百メートルなので、既に半分を切っていた。そして残り半周になった時、長井の追い上げは無理だと誰もが思っていた。幾等、男子でも普段から走り込んでいる女子部員には、やっぱり勝てない。そんな現実を根本は今から、目の前で目撃する事になり大原達は、気味の悪いぐらいにニヤニヤと笑みを浮かべ始めた。

昔、何かのスポーツをやっていて、足に自信があったのかどうかは知らない。所詮、現役の選手には適わないという読みは予想通りだったが、次第に事態は急変して行った。

「あっ…。」

西尾が言うと、彼女達の期待を裏切るかの様に、長井は段々と差を縮めて行った。藍子がゴールを切ったと同時に、ギリギリ追い着いたが、それは誰の目から見ても同着だった。

「…っ!?」

上級生達は全員、声にならない口を揃えた。無言でいた大原は、自分が走れば良かったと後悔していた。一体、この後どうすればいいか、キャプテンとしての立場上、大いに迷っていた。接戦で終わったが為に、自分達の勝ちを、素直には主張できなくなったのである。

『僅かに藍子が先だった』と言い張るのは、往生際が悪いかも知れないが、本当に同着にしてしまうと、陸上部としてのメンツは無くなってしまう。引き分けは負けたも同然の結果になるからで、勝った場合と同等の立場を主張して来た際の、対応策は無かった。

長井が今から発する言葉が、全ての実権を握る事になるのは、もう避けられない状況だった。何とか負けを認めさせる、こじ付け理由はないかと迄考えたが、やっぱり無かった。

「今のは…、後一歩が残念な俺の負けだ。と言う訳で先生、俺の入部は諦めてくれよ。とてもじゃないけれど、こんなレベルの高い部で活躍なんかできないから。」

それは大原達にしてみれば予想外の返答で、てっきり『この部の後輩は満足に帰宅部にも勝てないのか』と皮肉でも言われるのかと思ったら、こうもあっさりと、制服や荷物をまとめて引き揚げ始めた。実は長井にとっては『してやったり』の行動で入部は、まっぴらなので場が唖然としている内に、さっさと帰らねばと思った。これで、やっと解放されると思いきや、キャプテンは伊達ではない大原だけは、それを見過ごさなかった。

「ちょっと待ってよッ!」

彼女にだけは、この逃げの手段が通用しなかった様で、思わずビクッっとして後姿のまま立ち止まった。元々、負けても何も失うものがない勝負であり、勝ったとしても、入部するかしないかは自分が自由に決められる。

どっちの勝ちかという際どい結果だったので『自分の負けだ』と言い切っても誰も、うなずいたりなんかはしない。それを瞬時に見越したので、自分の面目を保ったと同時に、難を逃れたとは思ったが、それは筒抜けになっていた。

そんな結果を狙う為に、手を抜いて走っていた筈がない。だから勝ちたくない一心から、ワザと精一杯の接戦を演じたなんて事も有り得ない。ただ間違い無く言えるのは、本人が真剣に走って、この結果なら次に再戦した時、藍子は負ける可能性が出て来るに違いない。

これは部長の目から見て、自信を持って言える事だった。そうなると尚更、このままでは終わらせられない問題が生じるので、素直に帰す訳には行かなくなった。

「明日も…、来てね。待っているから。」

長井は、その言葉を聞くと振り返りもせず、逃げる様に去って行った。誰からも呼び止められたり、追い駆けられたりしなかったので、ホッと一安心するのだった。

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