仮初の平和
夜、皆が寝静まった頃、おんぼろの小屋の中から、僅かに音が漏れ出ていた。
――ジ、ジジジ、我らの誇りにかけて、このような非道を、ををを、すすす捨ておくことは、ああ、あああ、、、ブツ――
ラジオは次第にノイズを増していき、やがてぶっつりと音を立ってしまった。ラジオの前には一人の老人が丸椅子に座っている。老人は一息吐き出すと、何やら操作をした後に辛そうな表情を浮かべて、立ち上がる。
老人はのそり、のそりと歩き、小屋を出る。
外に出た老人は上を見上げる。夜空にはかつての大都会では考えられないほどの数の星々が瞬いている。そして――いくつもの流星が煌めいては消えて逝く。
流星は最近、とみに数を増して見られるようになった。子供たちは無邪気に喜び、知ったかぶりの大人たちは「ごらん、あれがペルセウス座流星群だ」なんて言っている。
しかし、老人は知っている。かつて神童やら天才やら持て囃されていた老人は知っている。この光がそんな上等なものではないと。いや、自分だけではないのかもしれない、と老人は思いなおす。あの少女は自分が調整したラジオから流れる放送を聞いてしまった。どこまで彼女が内容を理解したかは老人にはわからないことだが、ひょっとしたら……
老人の胸に去来するのは虚しさだけだ。こうなることは
でも、無駄だったのだ。もはや彼らに未来はない。
自分たちはどうなのだろうか。今はまだ目立つものはない。しかし、この先もそうなのだろうか。いや、そうであってほしい、と老人は心の底から思うのであった。
平和の地上 英王 @Eio
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