第22話
「行くぜ!」
「おりゃあああ!」
そんな怒号が走る中第三回戦が始まった。王者のギルド陽光騎士団もこの組であり、一番注目度が高い。エウロパ以外の選手はすでにスタートしている。しかし、この競技の使用上そこまで差は開いていない。だがスタートが遅れてもよいことはない。
「なんで、スタートしないんだ?」 「怖気づいてるんじゃないのか?」
そんな嘲笑が飛び交う中、
「さてと」
エウロパは全く気にしない様子で手を重ねて大きく伸びた。
ーー人が居ると当たるかもしれないっすし、そろそろっすかね。
エウロパは肩からぶら下がっているかばんから、丸まっている羊皮紙を取り出して地面に置いた。そしてその上に両手を置いて魔力をこめ始めた。
「何をしているんだ?」
そんな疑問の声が聞こえた束の間、何か機械のようなものが地面の中から浮き上がるように、地面の上に出現した。そいつには頭のようなものも着いていた。
ユートはそいつを良く知っていた。しかし、前浜辺で見たときよりも幾分か体格が良くなっていた。
エウロパは軽く飛び跳ねるとそいつの肩の上に乗った。そしてかばんの中から淡い緑色をしたクリスタルを二つ取り出した。そして、そいつの胸にあいているスペースに二つ入れた。
すると、急に目ー目は無いのその場所には赤いものが着いているーに光がともった。
「これを、もちあげるっす」
エウロパがそう言うと、そいつは何事も無いように、鉄球を持ち上げた。それもとても軽々しい様子で。
ーーいい加減名前をつけないとめんどくさいっすね。とりあえず名前はナナチャンにしとくっすかね。
周りからどよめきがもれたがエウロパにそんな声は聞こえて居ない。
「さて、はしるっすよ」
エウロパがそう言うとそいつは、鉄球を持ったまま走っていった。それもとてつもない速さで。
あっというまに、スタートラインから見えなくなってしまった。
その為ユートは上空に設置されている氷のスクリーンに目をやった。
「ねえねえ、ギルマス。あのスクリーンってどうなってるの?」
ナハトは興味深そうにユートに聞いた。ナハトが驚くのも当然で、ユートでもそのような技術はみたことがなかった。
「おそらくだけど、あれは、四角く凍らした水だと思う。それを、上からぶら下げているんだと思う。上で天使で支えているでしょ」
「たしかに」
ナハトはうなずいた。
天使とはいってもまったくたいしたことが無く、正直なところ10レベルの
「それで、その奥にいる天使が投影してるんじゃないかな?」
「そうなんだ~」
ナハトはそういいながら、目を輝かしてスクリーンを見ていた。スクリーンにはエウロパが次々と順位を上げていた。
ギルド、ラム・デトロのドゥガルはドスドスという大きな音と、地面の揺れで後ろから何かが近づいていることに気がついた。
「後ろから、何かきているぞ!」
その声で仲間の顔が引き締まった。
そして、ドゥガルは持っていた杖を構え、仲間と共に魔法の詠唱を開始した。他には三人いるがその仲間は鉄球を押している。
すぐに、ドゥガルの前の空中に魔法陣が展開された……が、その魔法陣はパリン、そんな音が聞こえてくるように、魔法陣が消えてなくなった。横の仲間と同じように
ーー詠唱がキャンセルさせられた!
魔法というものは詠唱をしなければ放つことができない。そのため、詠唱が途中で停止させられるー麻痺や睡眠などの状態異常や目標を見失う、途中で強い攻撃を受けるなどーもしくは自分で停止するとその魔法は発動しない。
しかし、ドゥガルはエウロパから何かを受けたきはしない。
ーーもう一度発動するしかないのか?
ドゥガルからエウロパの表情が読み取れるほどに迫っていた。
ドゥガルはもう一度魔方陣を展開した。
「ほい」
そんなエウロパの軽い掛け声と共にまたしても魔方陣がドゥガルの目の前で砕け散った。
「チッ!」
ドゥガルは思わず舌打ちを漏らした。
ーー何故! そんな簡単にキャンセルが出来るんだ?
ドゥガルがそんな事を疑問に思っている間にエウロパは紫色のボールを取り出した。
「プレゼントっすよ」
エウロパは取り出したボールを鉄球を持っている人の方に投げた。
ポワン
そんな気の抜けるような音と共にボールから大量の煙が発生して、ドゥガルのチームの視界をさえぎった。
「やべぇ!」
鉄球を持っていた一人が何かにつまずき横転した。
「くそっ」
煙が晴れる頃にはエウロパの姿は見えなくなっていた。地面には道の横に生えている木が転がっていた。
「これ、つかいやすいっすね~」
そう言うエウロパの手には銃が握られていた。収穫祭で購入したものだ。引き金を引くと魔力の塊が銃口から発射される。
ーードゥガル?とかいう名前の人。魔法職なんすから、どの魔法がどんなタイミングで攻撃すればキャンセルしやすいとかは一般常識っすよ。
エウロパは心の中で呟いたが、もちろんドゥガルに聞こえるはずは無い。
「さて、あとは陽光騎士団のみっすね」
そう言うエウロパの前にはすでに陽光騎士団の背中が見えていた。
ヒュウ
そんな音が聞こえたかと思うと急にナナチャンが次の足を置く地面に亀裂が入った。
ーー先制攻撃っすか。さすがっすね。
エウロパはナナチャンの前に双璧を張った。一つは攻撃軽減用、もう一つは状態異常無効用だ。
「まずは、横にならぶっす」
エウロパがそう言うとナナチャンがスピードを上げた。亀裂を作り出すもととなる魔法がナナチャンに当たっているがエウロパの障壁に阻まれている。しかし、これが破れるのも時間の問題であろう。
「させないよ! ツイン・ファイア」
陽光騎士団の大魔道師が呪文を唱え、ナナチャンの少し手前の地面に着弾した。弾けとんだ地面の欠片がエウロパを襲った。双璧では防ぐことは出来ない。
「うわっ」
エウロパは思わず顔を腕で覆った。しかしナナチャンには効かない。
「はんげきするっす、ウィンドブレイカー」
エウロパは呪文を陽光騎士団のが通る木の上に向けて唱えた。どうせ本体に放っても弾かれるだけだ。
「効かん!」
大きな木の枝が落ちて鉄球に当たったが何事も無いように走り続けている。おそらく防具にそういうたぐいの防御効果がしくまれているのだろう?
ーーめんどうっすね。
エウロパは先ほど投げた紫色のボールを陽光騎士団の前に投げた。同じように煙が発生した。しかし、誰一人と歩みを遅めることはなかった。
「何回もこの道を通っている私達からすると見えてようが見えてなかろうが変わらん」
エウロパは何の反応もせずに、もう一個ボールを取り出し投げた。
「効かないと言っているだろうに」
そう言う陽光騎士団のグループは直ぐに煙を払った。
「なに!?」
霧を払った、グループの前には大木が転がっていた。
「ふん!」
一番前に立っている男が大木を思いっきり蹴り、大木を横にどけた。
しかし、エウロパは陽光騎士団の前に立っていた。エウロパはいつの間にか後ろ向きに座りなおして、こちらに手を振っていた。
「まだだ!」
陽光騎士団のグループはスピードを上げた。エウロパが前から魔法を放つが全てふせがれてしまった。
ゴールが直ぐそこまで近づいている。エウロパとナナチャンはラストスパートをかけた。後ろからは陽光騎士団がすごい速さで追い上げていた。
「ナナチャン、ブーストかけるっす」
エウロパがそう言うとナナチャンのスピードが上がった。しかしナナチャンの体から嫌な音が聞こえ始めている。
二つ
チームの差はどんどん詰まって、横並びになった。
「うぉぉぉぉ!」
そして、ほとんど同時にゴールテープを切った。
「どっちだ?」 「同時に見えたけど」 「判定は!?」
観客もどよめく中、エウロパとナナチャンの元にメダルがゆっくりと降りてきた。
「さあ、第三組目の優勝はエウロパ選手です!」
周りからは大きな歓声が響いている。ユート達のほうを見ると皆がこちらを向き手を振っていた。
エウロパも手を振っていると、試合開始前に、集合場所で話しかけてきたメンバーがこちらに向かって来た。
「さっきは嫌な事言って、悪かったな」
「ああ、そういえば何か言ってたっすね。別にいいっすよ」
エウロパはそう言うとぽかんとした顔をしている二人を無視しナナチャンに乗ってユート達の下へと向かって行った。
「エウロパ、よくやったな」
ユート達の元につくと、皆が笑いながらエウロパを出迎えた。
「まあ、余裕っすよ。次は誰の出番っすか?」
「私だよ~」
エウロパがそういうとナハト我こそはと手を挙げた。
そして次の競技の参加者の召集のアナウンスが聞こえた。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、行ってこい」
そんなみんなの歓声を背中で受けながらナハトはらんらん気分で召集場所へと歩いていった。
ーーやっと、新しい剣の試し斬りができるね。
そう言って笑いながら……
ギルドマスターは異世界に行っても忙しいようです @0728summer
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