第21話
ユートはギルドの中で三番目に目を覚ました。下のほうからはリヒスの声が聞こえてくる。いつもはクレイドが居るのだが、今日は外に出て居ない。
ユートは最近目を覚ますのが早い、理由は二つほどある。一つはこの世界に来てから規則正しい生活になり、毎朝部屋に朝日が差し込んでいることだ。もう一つは、毎朝寝起きドッキリで味を占めたのかその後ナハトが良くドッキリを仕掛けに来ている。正直めんどくさくなってきている。
ユートは自分では後者の影響が大きいと思っているが、まあ朝早く起きること事態に問題は無い。
(下に降りようかな)
ユートはそんな事を思ってベッドでボーっとするのをやめ、下に降りた。
すると下からいつもと同じように、リヒスが朝食を作っていた。相変わらず良いにおいが立ちこめている。
「おはよう」
「おはようございます」
ユートが階段を下りながらリヒスに言うと、リヒスは机に皿を並べながら答えた。
「手伝おっか?」
ユートがそう言うとリヒスは首を横に振った。
「私は大丈夫なので、ナハトちゃんたちを起こしに行ってもらえますか?」
「了解」
ユートは快く了承しナハトの部屋に向かった。
「ナハト、朝だぞ」
ユートはナハトの部屋の前に立っていった。が反応は無い。
(まあ、いつものことか)
ユートはためらいも無く、ナハトの部屋のドアを開けた。ナハトの部屋の布団には、なぜかいびるも一緒に寝ていた。
「二人とも朝だぞ」
ユートはそう言って二人の身体を揺さぶった。
「んっん~」
そんな声を上げてナハトが目を開けた。
「ギルマスゥもう朝?」
ナハトはユートに聞いた。横ではイビルが目を覚ましていた。
「ああ、昨日は二人で寝てたのか?」
ユートはナハトにそう聞くと、ナハトはうなずいた。
「イビルちゃんといろんな話してたんだ~」
「たのしぃ……」
「よかったな」
二人の仲がいいことに特には問題は無い。
「リヒスが下で朝食作ってくれているから、降りるぞ」
ユートが二人にそう言うと、
「連れて行って」
ナハトがそう言ってユートに手を伸ばした。ユートはお姫様抱っこのような形でナハトを持ち上げた。
「ありがと」
ナハトがそう言った後イビルはユーとの背中に乗って首に手を回した。
「イビル……もぉ」
「わかったわかった」
ユートは前と後ろにイビルとナハトを抱えたまま階段で下まで降りた。
「おはようっす」
ユートが下に降りると、すでにエウロパが椅子に座っていた。
「相変わらずお父さん見たいっすね」
「まあね」
ユートはそういいながら二人を降ろした。何か思うところが無いわけでもないが、まあ今そんなことをいう必要は無い。
「さて、全員そろったので朝食でも食べましょうか」
リヒスがそう言って朝食を食べ始めた。
ユート達はギルドで戦闘用に服に着替えて、広場に向かっていた。広場は前にリヒスとユートの二人が着せ替えショーをしたところだ。
「にしても、にぎわっているな」
ユートはそう言って広場を見渡した。広場には色とりどりの服を着た人が集まっていた。
「でも、あそこはピリピリしてますよ」
そう言ってリヒスは指を指した。そこには鋭い目つきの男たちがなにやら話をしていた。
「あの人たち、なんなの~」
ナハトはリヒスに向かって聞いた。
「あの方達は、陽光騎士団の方達ですね。毎回、優勝を飾っているのであんな空気になるのも当然じゃないですか」
それを聞いてユートもそれとなく見てみたが、確かにそこだけ周りとは違う空気が流れていた。
「強い人たちか~じゃあ、ナハトちゃん挨拶してくるね」
ナハトはそう言ってその集団のほうに向かって行った。
「ちょ……」
ユートが止めるよりも早くナハトは行ってしまった。
「何だお前」
急に近づいてきたナハトに向かって男が行った。しかしナハトは知らん顔で話し始めた。
「おじちゃんたち、強いんだって? でも~ナハトちゃんが勝っちゃうから」
ナハトが男達にそう宣言した後に、ユートはナハトの元にたどり着いた。
(えっ、何この空気)
ユートは今の周りの空気のせいで思わず固まった。
「なんで、こんなおかしな空気になってるんだ?」
ユートはナハトに聞いたが、ナハトはユートの方を向いて首を傾げるだけだった。すると、ナハトの調度向かいにいる男が低い声で笑い始めた。
「おじょうちゃん、俺達が何か分かって言っているのか?」
「もちろん、おじちゃんたち強いんでしょ、でも~ナハトちゃんが勝っちゃうから、先に謝っておこうと思って」
「はっはっは、威勢のいい奴だな。まあ、俺達も負ける気は毛頭無いけどな」
二人がそう言いながら睨み合っていると、もう直ぐ大会が始まるというアナウンスが聞こえた。
(ナイスタイミング)
ユーとは心の中でそう呟き、ナハトに皆のところに帰るように言った。
「わかった」
ユートはナハトの手をひぱって、リヒスと合流するとすでにクレイドとルミアが来ていた。
「クレイド、もう参加できるのか? 向こうは大丈夫だったのか?」
「はい、昨日皆様飲みすぎたらしく、部屋で唸ってますから」
クレイドはにっこりと笑って答えた。
「ああ、そうか」
ユートはそう答える自分の顔が引きつって居ないか少し心配になった。
ユートとクレイドがそんな話をしていると、アナウンスが本格的に聞こえ始めた。
その場にいる人々はアナウンスに耳を傾け始めた。
「これで、注意事項のせつめいを終わります。第一回戦の大鉄球ころがしに参加する選手は直ちに集合場所にお集まりください」
アナウンスが終わり、エウロパが準備を始めた。
「さーて、いくっすよ」
そう言ってエウロパは立ち上がった。
「一人で本当に大丈夫か?」
この種目は鉄の大玉をゴールまで運ぶというもので、基本的に技で吹き飛ばすなどという類のものは禁止されている。その為、他のギルドでは、三~四人で参加しているのだが、一つ競技に出てしまうともう他の競技には参加できないため、ユートのギルドではエウロパの一人になってしまっている。
「大丈夫っすよ。私にはこれがあるっすから」
エウロパはそう言って、かばんの中から、緑色のクリスタルを出してユートに見せた。
「なんだそれ?」
ユートはそう聞いたが、エウロパは答えず、にやりと笑って集合場所へと向かって言った。
(さーてと、ここが集合所っすね、やっぱりチームで参加しているところばっかっすね)
エウロパはそう呟くと、大きな巻物を背中に背負った。
「お前、さっきのがきと同じギルドの奴か?」
エウロパが準備をしていると男に話しかけられた。
「ん?」
エウロパが顔を上げるとそこにはさっきナハトと話していた男の集団の中の何人かがエウロパの前に立っていた。
「そうっすけど? 何か用っすか?」
「お前一人で参加するんだろ、かわいそうに。まあ、せいぜい頑張るんだな」
男達は鼻で笑い、そう言うとすぐに去って行ってしまった。
「なんだったんすかね、今の」
そんな事をしながら待っているとエウロパがいる組みになった。ルールの仕様上何組かで一斉にやりそのタイムを計って一位を決めることになっている。流石に何十組も鉄球を転がしていたら街が崩壊しかねない、そのためのルールだ。
「さて、ぶっちぎりで一位になるっすよ」
そう言ってエウロパはスタート位置に立った。横にはさっき話しかけてきた男達が並んでいた。
「エウロパちゃーん、がーんばってー」
そう言う声が聞こえたので、聞こえた方向を見て見るとそこにはユート達が立っていた。
エウロパはみんなの方を向いて手を振った。
「でわみなさん、準備はいいですか? 」
司会の人がそう言うと全員の目の前に直径2メートルはありそうな鉄球が上から降ってきて、地面に大きな凹みを作った。
「第一回戦第三組目位置についてよーいスタート!!」
そう言って大会が始まった。
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