第50話

「えーと、先ずはレベルですが、ですねぇ~、英雄戦争時代の英雄達ですら50~60、更に言うと3桁に届く生物など現在まで確認されていませんし、これはもうほとんどのレベルなのではないでしょうかぁ~?」

 空中に浮かぶ光の板をつぶさに観察しながらエレナさんは続けて言った。


「次に、生命力が312万と魔力は504万ですぅ~、確か英雄戦争の剣の勇者様の生命力が歴代最高の生命力値で1万ちょっとだったのですが、タカーシ様は勇者様の300倍は頑丈という事ですねぇ~、魔力に至っては、大賢者様の魔力がやはり1万位だったはずなので、大賢者様500人分ですぅ~、タカーシ様は、魔力が減った感覚を知らないと仰っていらっしゃいましたが、この数値なら納得ですねぇ~」


 エレナさんは光の板に表示されているデータを更に読み進める。

「その他のステータス、素早さ、力、知覚力などは軒並み数十万になってますが、その能力だけに特化して鍛えた場合でも500前後まで上げることが出来れば上々、通常は鍛えていても200前後なので、普通の数千倍ですねぇ~、驚きですねぇ~」

 エレナさん、とても驚いているとは思えない、落ち着き払った解説だった。


「「「…………」」」

 完全に固まってしまったギルドマスターや、受付嬢のセシリアさんはともかくとして、ただ黙って聞いていた隆自身も言葉が出なかった。




 それでも何とか再起動を果たした隆は、へらっと微笑みながら話した。

「まぁ、なっちゃったものは仕方が無いですよね~、あはははは」

 それを聞いたギルドマスターは黙って居られなかった様だ、混乱しながらも、ずいっと隆の方へ身を乗り出して詰め寄り叫んだ。


「いやいやいや、笑い事じゃないですよね!?」

さん、近い近い! でもステータスが高いと云う事が判っただけで、特に何があるって訳でも無いですよね?」

 そう言われるとそうだった。


 元来、ステータスの確認作業は、あくまでギルド加入者自身が選らんだ職業が、今後活動する上で適正であるかどうかを確認する為に実施するのであって、条件を満たすに足る数値が表示されたのであれば、特に問題は無いのだった。

 いち早くそのことに気が付いた受付嬢のセシリアさんは、隆の異常に高いステータスは見なかった事にする気満々の様で、騒いでいるギルドマスターの隣に腰かけて静かに柔らかく微笑んでいた。


「でもタカーシ様……、ぬぅん? ……あれ? 別に良いのか? いやいや、しかし……」

 まだ何か納得のいっていないギルドマスターが『まさか壊れているのか?』など、ぶつぶつと呟いて、ステータス確認板を弄っているのを後目しりめに、受付嬢のセシリアさんはもう完全に切り替えて通常営業に戻る様だ。


 セシリアさんは軽く『こほんっ』と咳払いするとにこやかに言った。

「それではタカーシ様、魔法使いとしてのご登録で、特に問題も無いようです、下の受付にてギルド証を発行いたしますので、一緒にいらして下さい」

 ステータス確認板に手を置いて、自分のステータスが正常に表示されるのを何度も確認していたギルドマスターの手から確認板をもぎ取り部屋を出て行こうとするセシリアさんだった。


「ちょっ、セシリア、そんなんで良いのか……?」

ギルドマスターが言うと、セシリアさんは澄ました表情で言い切った。

「良いも悪いも、ステータスとしては、ご希望の職業に着かれても問題ないレベルにありますので条件を満たしていると言えますし、あとはギルド加入証を発行するだけですが?」

「えぇぇぇ……、でも何か特例でも適応出来るのでは……」

 ギルドマスターのその質問にはセシリアさんより隆が先に答えた。


「あ、特例など目立つかも知れない事は遠慮させて下さい、ちゃんと初心者レベルから始めたいので……」

「え? でも、初心者というレベルではないではありませんか?」

 ギルドマスターとしては、即戦力になりうる隆をなんとか高位の冒険者として登録したい様だった。

「いいえ、レベルが高いだけで初心者ですよ? ギルドへの貢献度だって、スタンピードの時の魔石提供だけでから、まだないに等しいですし、それから……、白状しますが、冒険者たちの仕事のやり方や、更に言ってしまうと、日常生活一般の常識的な事すら判っていないありさまなのですよ……」


「タカーシ様がですか? あ、そういえば外国とつくにのご出身でしたか……、それでは仕方がないかもしれませんね……」

 会話を引き延ばす様に話を続けるギルドマスターに対してセシリアさんは部屋の扉を開けながらぴしっと言った。

「私たちはもう下に行きますが、ギルドマスターはその机の上の書類を全て処理するまでここを出ないでくださいね?」

「せ、セシリア! それはちょっと厳しくないか!? わしだって、頑張って居るんだぞ? ちょっと位、休憩させてくれてもいいじゃないか?」


 絶望した表情でギルドマスターはセシリアさんに食い下がったが、セシリアさんはけんもほろろに言い放った。

「ダメです! 既に今、まさに休憩していたでしょう? 今日の休憩はおしまいです! 直ぐにご自分の仕事に取り掛かってくださいね?」

 そう言ってから隆達が気の毒そうな視線をギルドマスターに送りつつセシリアさんに続いて扉を出た後で、とても丁寧に扉を閉めた。


 ギルドマスターの部屋からは悲し気な叫びが響いていたが、まるっと無視したセシリアさんは、やり切った感満載のにこやかな笑顔で隆に告げた。

「受付前に設置してあるソファーで少しだけお待ちくださいね、ギルド証が出来次第すぐにお呼び致しますので」

 そう言いつつ階段を軽やかに降りて行くセシリアさんだった。


 ギルドトップのギルドマスターに対してさえ容赦のないセシリアさんだった。


 隆は、今後お世話になるのだし、セシリアさんには絶対に逆らわない様にしようと、密かに決意するのだった。




 セシリアさんに言われるまま、受付前のソファーにエレナさんに左腕を胸の谷間に挟み込ように抱え込まれた状態のままで、並んでぼーっと座っていると、ほどなく窓口から隆を呼ぶ、セシリアさんの声が聞こえてきた。

「タカーシ様、お待たせ致しました」

 隆とエレナさんが窓口に行くと、セシリアさんはキャッシュカード位の大きさと厚みの金属製のカードを隆に手渡した。


「こちらが通称ギルドカード、ギルド登録証になります、ギルドでのクエストや依頼などをお受けになる際には依頼書と一緒に必ずご提示ください」


「さらに街に出入りする際の検問所でも提示を求められた場合は身分証としてご利用になれます、因みに他所の街に行った場合もギルドカードを提示すると通行税などは免除されます」


「こちらのギルドカードは耐腐食性、耐摩耗性を付加している為、滅多な事では破損する事はありませんが、万が一紛失された場合には、罰則金も含めて再発行に50万ゼック掛りますのでご注意くださいね? なお、今回の登録料、カードの発行料などは併せて1万ゼックです」

 カードを他人に貸与したり、資格の無い者に売ったりすることを防止する為の罰則だった。


 注意事項を聞いた隆はカードを見ながら頷いて言った。

「判りました、他に注意するべき点はありますか?」

 セシリアさんは一寸考えてから言った。

「カードに関してはこれ以上の注意事項は特にありません、ですが、一応カードにはフォルタレッサ家とミレナリア家の関係者である旨の記載がありますのでここ以外で提示される場合はご注意くださいね?」

「えっ!? 気が早くありませんか? それに目立つのでは?」

「関係者であることに嘘は有りませんし、これは余計なトラブルを避けるためにも必要な処置です、ご了承ください」


 貴族の関係者である冒険者にちょっかいを掛ける門兵などは絶対と言っていい程居ない。

 前もって提示しておくことで、トラブルが避けられるのなら、それに越したことはないとの判断だった。


「わ、判りました、その旨了解しました……」

 隆の為だけでなく、取り締まる側の安全の為でもあるので、諦めるしかないのだった。

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つれづれなるままに異世界。 がとねぐろ @gatonegro

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