第49話

 受付嬢は、自分は知らないと言わんばかりに肩を竦めて首を横に振るホセの顔を見てから、ちょっと困った様に言った。

「こちらの検査では、レベルの他に魔力量や生命力、素早さや筋力、知能などの基本的なステータスが判る様になっているのです……」

「……それらの確認をさせて頂いて、ご本人が希望されている職業が適正であるかの判断も登録時の確認事項となっているのです」

 つまり、魔力が少ない人が魔法使いとして登録、または筋力がほとんどない人が格闘職に登録してしまい、その後、本人の希望で選んだ職業のせいでトラブルが起こる事などを防いでいるのであった。

 ちょっと困ってエレナさんを見るとにっこり笑ってから隆の代わりに受付嬢に話し掛けてくれた。

「すみません、こちらのタカーシ様なのですが、マリア・ミレンタ・ミレナリア様の夫となる方で更に我がフォタレッサ家のシルビアお嬢様の婚約者なのですが、ステータス検査に関して、もう少し秘匿性の確かな場所で行う事は出来ませんか?」

 えー、結局する方向なんだ……、あと、マリアの姓ってミレンタ・ミレナリアなんだ……、初めて知った、と思った隆だったが、受付嬢はそれを聞いて大層驚き、『少々お待ちください!』と言って席を立った。

 程なく、受付嬢は急いで戻って来ると、切れた息を整えつつ言った。

「お待たせ致しましてっ、申し訳ありませんっ、ギルドマスターがっ、自分の部屋を使って欲しいとっ、申して居りますっ、どうぞこちらへっ、おいで下さい!」

 相当急いで走ったのだろう、はぁはぁと乱れた息を整えながらそう言うと例のステータス確認板? を持って3階へ続く階段へと歩き始めた。

「それでは、私はこれで失礼いたしますね!」

 ホセはそう言って1階に帰ろうとしていた。

「ホセさんは一緒に来ないのですか?」

 隆が尋ねると、ホセはニヤッと冗談っぽく笑って答えた。

「ほら、ギルドマスターの名前もホセだから私が行くとややこしくなるんですよー、それにタカーシ様のステータスとか、知ってはいけない情報の様な気がひしひしとするので、遠慮しておきますよー」

 ホセはそう言って笑いながら手を振って『それじゃ又後で』と言いながら階段を降りて行った。

 後々を考えると賢い選択だったかもしれない。




 ギルドマスターの執務室では、ややこしい事に、当然今度は禿の、ギルドマスターの方のホセが執務机に向かって座り、一生懸命に書類を片付けていたが、隆達を見ると、とても嬉しそうに書類を放り出して席を立ち、急いで挨拶する為に飛び出して来た。

「タカーシ様、ご無沙汰しております、ギルドマスターの『ペペ』です」

 今回、ボソッと『ペペ』を被せたのは受付嬢だった。

 真面目そうな受付嬢がギルドのトップでもあるギルドマスターの挨拶をインターセプトするところを見て、マリアの行為を思い出して思わず『ブホッ』と吹き出してしまった隆だった。

「ひどいぞ、セシリア、俺の名前は『ペペ』だろ!?」

 受付嬢も絶妙な被せ具合でギルドマスターの名前を『ペペ』にしてくる

「ホセさんは<鷹の爪>のメンバーに居ます、と呼んでほしければ早く書類を片付けて下さい!!」

 ギルドマスターの仕事がズレ込んで遅れるせいで、受付嬢などのスタッフにしわ寄せがきている様だった。

 シュンとして項垂うなだれるギルドマスターだった。

「前から気になっていたのですが、何故なのですか? 何かわれが?」

 何気なく隆が尋ねると、知らなかったのか!? と言わんばかりに、あっけにとられた顔をしたギルドマスターと受付嬢のセシリアさんに代わり、エレナさんがクスクス笑いながら答えてくれた。

「タカーシ様は外国とつくにの方なので知らないのでしたねぇ~、とはの幼名なのですよ~、要するに禿げ頭の大男ではなく、という名前の小さい子供を呼ぶときにと呼ぶのですぅ~」

 ギルドマスターの方を見ると、憮然とした顔をして拗ねている。

 確かにそれは、本人にとって避けてほしい呼び名だと、隆は思った。

「ですから、ちゃんと仕事をして頂ければ、きっと皆さんにもちゃんと呼んでもらえるでしょうと、いつも言っているのですよ?」

 しれっと、そう言う受付嬢だが、もはや手遅れな気がするのは、気のせいではないはずだと思う隆だった。




 改めて、先日使った応接セットのソファーにエレナさんと共に座ると、向かいのソファーにギルドマスターと受付嬢が座った。

「タカーシ様、マリア嬢とのご結婚、更にシルビア嬢とのご婚約おめでとうございます」

 ギルドマスターが先ずはと言った形で挨拶してきた。

「あ、あぁ、ありがとうございます……、なんだかあれよあれよという間に話が進んでこの様な事に……」

「まぁ、人生なんてそんなもんですよ、はっはっはっ……」

 自分で言って笑ってしまい、素になって虚しくなったのか、ギルドマスター(独身)は項垂れて黙ってしまった。

「そ、それでは、改めましてステータスの確認をお願いいたします」

 空気を変える為にか、やや、明るい雰囲気を纏った受付嬢セシリアさんがそう言ってずいっと、くだんのステータス確認板を隆の前に押し出した。

 その板(箱?)をじっと見つめたエレナさんはおもむろに言った。

「えーとぉ~、その前に、ここで見た事は絶対に誰にも話さないと誓って頂けますかぁ~?」

「はい、ご安心ください、私達ギルド職員は職務上知り得た秘密を絶対に他者に漏らさないというを掛けて居ります」

「? とは何ですか?」

 聞きなれない言葉が出て来たので隆は受付嬢に聞いてみた。

と云うのは、魔術的な誓約で、誓いを破ると大抵の場合は呪いが発動する魔法です、私たちに掛かっているは致死性の呪いは発動しませんが、誓いを破ると顔に紋様が現れるので信頼できない者と一目で判ってしまい仕事が続けられなくなるというものです」

 なかなかえぐい仕様だった、現代日本にもぜひ採用してほしい魔法だ。

「なるほど、判りました……、まぁ、そこまで死守するべき秘密でも無いと思いますので、基本的に漏れにくいのであれば、問題ないでしょう」

 そう言って隆は鑑定板に手を近づけた。




 先ほどの焼き直しでは無いが、隆が手を近づけると直ぐに板は輝き出し、手を手形に合わせて乗せた途端、目も眩むほどの光が部屋全体に広がって辺りを包み込んで明滅を続けていた。

「ぺぺさん!! これ大丈夫なんですかっ!? 光り過ぎじゃないですかっ!?」

 片手でしか光をさえぎれない為にまぶしくて仕方がない隆が思わず叫んだ、しかもギルドマスターをペペ呼びだった。

「私もこんなん初めてだから判らんのですがっ!? あとぺぺじゃないですからっ!!」

 こんな時でもしっかり訂正してくるギルドマスターだった。

 程なくして、みょんみょんと脈動を続けていた光の奔流ほんりゅうは少しずつ薄れ始めてステータス確認板の上に凝縮した光の板を形成し始めた。

 安心したのか受付嬢のセシリアさんは胸を撫で下ろすと、皆を安心させるように言った。

「ちょっと、びっくりしましたが、特に問題は無いようですね! えーと……、はい、ステータスもちゃんと確認出来る様ですね、……えっ!?」

 そこに映し出されたステータスを見た受付嬢のセシリアさんは言葉を失って目を見開き、口を半開きにしたまま固まってしまった。

「なんだ? どうしt…………!!!」

 続けてギルドマスターも隆のステータスを見てしまい同じく目を見開いて口をOの字にしたまま動かなくなった。

 こちらの文字が読めない隆は仕方なくエレナさんに顔を向けて尋ねた。

「エレナ、自分のステータス、どうなってます?」

 エレナさんは、隆が既にレベル1000を超えている事は知っていた為、驚き固まりはしなかったものの、実際の数値として隆のレベルや、その他のステータスをその眼で確認してあまりの高レベルっぷりに驚きは隠せなかった。

「タカーシ様、規格外だとは知ってましたがぁ~、ちょっと、予想を遥かに超えたステータスですぅ~」

 そしてゆっくりと、そのステータスを順番に読み上げてくれるのだった。

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