第48話
テンプレのベテラン冒険者に絡まれる事案を半分懸念、半分期待しつつ、冒険者ギルドの扉を開けた隆だったが、勿論そんな事案は発生しない。
掲示板の最奥部にある超高難易度クエストを明らかに新人冒険者然とした者が我が物顔で見ていればありうるかもしれないが、ただ単にギルドに入って来ただけの人間にからむ様なバカな冒険者は流石に居ない。
ギルドを訪れるのは冒険者だけでなく、仕事を依頼するために来てくれる商人であったり、役人であったりする可能性もあるのだ。
そんなお客様に絡んだりしていては自分達の首を絞めかねない。
常識以前の至極当然の対応だった。
しかし、左腕にまとわり付ける形でエレナさんクラスの美人を連れた隆は当たり前だが物凄く目立っていた。
だがしかし、誠に残念ながら隆達はユリ的な意味で目立っていたのだった……。
「ヒューッ♪」
「そこのお姉っ!! んーんんんっ!?」
そこには、どこからともなく口笛の音が響くと大きな声で『そこのお姉さん達一緒に飲まないかい!』と話し掛けようとした男を、必死の形相で押え付けているマルコが居た。
「た、タカーシ様、ど、どうされました?」
「あ、マルコさんお久しぶりです……、大丈夫ですか?」
何とかマルコの拘束から逃れようと暴れる男だったが、マルコも惨事を回避する為に必死だったので必要以上の力で押え付けていた。
「あ、あぁ、こ、こちらの事は、お気になさらず大丈夫ですの、で……、ちょ、ちょっとした、人を押さえる為の、訓練的な、お、おフザケですので……」
ひきつった笑顔で言うマルコだった。
「そうなんですか……、あっ! 自分は今日冒険者登録の為に来たんですよ、なんだかワクワクしますねー」
隆が笑顔でそう言うと、マルコは強い締め付けで落ちそうになっている男をさらに強く締め付けながら言った。
「そう、なんですかっ! では、案内に、ホセを付けますねっ! ホセッ! 頼む!!」
「了解ですリーダー!! ささ、タカーシ様、登録はこちらですよ!!」
「ホセさんすみません、ありがとうございます」
マルコとダヴィ達『鷹の爪』に挨拶を済ませると、先導する様に先に立って階段を上って行くホセについて行く隆とエレナさんだった。
隆たちが見えなくなると、やっと男の拘束を解くマルコだったが、いきなり拘束された方の男は収まりがつかない、そのままマルコに食って掛かった。
「おぃ! マルコ! いきなり何しやがる!?」
「しーっ!! 馬鹿野郎!! お前まだ死にたくないだろう?」
「えっ!? し、死って冗談だろ!?」
「……さっき、お前が声を掛けようとした二人連れ、メイド服じゃない、ローブを着た
「えっ!? う、嘘だろ!? あんなに可愛いんだぞ!?」
「ばっかっ! しーっ!! 声がでかい!!」
唇に添えた人差し指を立てているマルコが笑ってない事に気付いた男は声を落とした。
「まじか……、で、それがどう死に繋がるんだ?」
「この間のスタンピードの時、マリアと交代で大量の魔物を消していた
「あ、ああ、あの魔石も残らない魔法な!? ま、まさか!?」
男に頷きながら真剣な顔でマルコは続けて言った。
「あれをしていたのが、さっきのお
「……そして、タカーシ様は女扱いされることを何よりも嫌う、もし目の前で女扱いしたら……」
ゴクリッと唾を飲み込んで男は続きを促す。
「……女扱いしたら?」
マルコは真剣な顔つきを崩さず聞き耳を立てている辺りの冒険者を見回してからしっかりタメを作った後で言った。
「良いか? 比喩でもなんでもなく、文字通りこの世から消え去る事になる、あの魔物達と同じにだ……」
「も、もしかして、声を掛けて居たら俺危なかった?」
真っ青になって尋ねる男の肩に手を伸ばしぽんぽんと叩きながらマルコは黙ったまま頷いたのだった。
2階に上がるとホセは一番右端の空いている窓口に隆達を誘導した。
「お疲れさん、新人の登録を頼む」
ホセが声を掛けると受付嬢はにこやかに返事をした。
「ホセさん、お疲れ様です、新規登録ですか?」
「そうだ、男性1名だ」
別に申込の用紙に男女の別は無いのだが、予防線を張る意味で男性を強調したホセたった。
何かを察した受付嬢は笑顔を崩さずに頷いて登録用紙を手渡しながら言った。
「判りました男性お一人ですね? それでは、こちらの用紙に判る範囲で良いのでご記入後、お手数ですが、こちらの窓口までもう一度お越しください」
今度は隆が用紙を受け取りながらにこやかに答えた。
「判りました、ありがとうございます」
「と言っても、字が書けないのですが……」
ペンがセットされた記入台に向かいながら隆が呟くとエレナさんがくすくすと笑いながら答えた。
「その為に私が一緒に来たんですよ~、エレナにお任せなのです~」
エレナさんはペンをとり
「え~と、お名前はタカーシ、サート~、年齢は26才ぃ~、誕生日は何時ですかぁ~?」
「あ、7月の15日です、って暦って同じなのですかね?」
エレナさんによると、太陽暦で12か月の大の月、小の月、うるう年など同じ暦であることが判明。
この事から、ここはある時点で分岐した宇宙の、同じ時間軸にある
でなければ、暦が一致する事など偶然などであっても在り得ない、恐ろしい程の確率での奇跡になってしまう。
閑話休題。
「職業は……大賢……」
「!!! ちょ、ちょっとエレナさ、エレナ待って下さい!!!」
突然の隆の制止にも慌てずとても自然体でピタッと動きを止めるエレナさんだった。
「……賢者とか大賢者って自分で選んで職業にするものなのですか?」
一寸考える
「余り言わないかもしれませんね~、でも、タカーシ様は大賢者としか言い様が無いですしぃ~、仕方がないかとぉ~」
「いやいやいやいや! もっと普通の職業で登録しましうよ……、誰かに尋ねられて『大賢者です』とか言いたくないですよ……」
「でも~、タカーシ様、普通の魔法って使えますかぁ~?」
そう言われると生活魔法しか使えないかもしれない。
「魔法はこれから勉強します……、なので、魔法使いでお願いします」
「普通すぎませんかぁ~?」
「普通で良いんです!」
ちょっと油断すると何をやらかすか判らない、油断も隙も無いエレナさんであった。
なんのかんのと言いながらも登録書類の無難な記入(エレナさんが)を終えて窓口に持って行った。
受付嬢は受け取った書類に目を通し頷くと席を立ち後ろの棚に置いてあった分厚い金属板の様な物を持って戻って来て笑顔のまま言った。
「書類に不備は有りませんでした、それではこの板の手型に合わせて手を乗せてください、レベルを確認しますね」
よく見ると分厚い金属板では無く金属でできた薄い箱と言った形状になっている様だった。
箱の上、表面には手型の様な線が彫り込まれてており、その周りには何やら魔方陣の様な物の中に文字? 呪文? の様な物がびっしりと書き込まれている。
「…………」
無言で箱の手型に向かって手を伸ばそうとした隆は、まだ手が箱の手型に触れる前、10cm以上離れている状態なのに既に箱全体が輝き出した為、慌てて手を引っ込めた。
隆のレベルは1000を超えているのだ、魔力量は常人の100倍以上は間違いなくあるはずだ。
そんな状態の隆の魔力にこの板が耐えられるのか? 高そうな魔道具を壊すのではないかとの懸念から、また上手く測れたとしても、その後に起こるかもしれない騒動に、計測を躊躇してしまった隆だった。
「あの……、これ
思わず、上目遣いで受付嬢に尋ねてしまう隆だった。
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