人の字

安良巻祐介

 

 ガラクタ置き場やゴミの集積する廃棄場などでしばしば見られる現象の一つに、「人の字」というものがある。

 捨てられた品々や、金属片や、石や葉などが、いつの間にか寄り集まって、人間の姿に似た形を作ると言うようなことだ。

 単純にそれを見る側のシミュラクラの一種に過ぎないと言ってしまえばそれまでだが、それにしても「顔」というならまだしも、手足を備えた「人」の形というものが、それらの場所を見渡すと奇妙なまでに多すぎるような気がするのも確かだ。

 寝そべっていたり、うなだれた姿だったり、壁にもたれているように見えたり……ピカリと光る青い目をしている、と感じて注視すれば、それはガス石の欠片であったり、硝子を嵌めた偽宝石であったりする。

 どこかの誰かが、人の形というのは万物にとってある種の完成形、「神のかたち」に近いものなのだと唱えていたことがあったが、さすがにこれは中心主義が過ぎる気もする。

 それにしても、暗く雑然とした景色の中に、いくつも散らばる輪郭の曖昧な、崩れかけたような人の形を発見する時にはいつも、私は、顔のはっきりしない友人に夢の中で話しかけられた時のような、何かとても忌まわしい気持ちを覚えるのである。

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人の字 安良巻祐介 @aramaki88

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