べリアルの転換期③

 服を無事に購入し、駅付近の観光所を回っていると、時間は何時の間にか夕方に。秋になって日が沈むのが少しずつ早くなってきている。今年の冬至は迎えることはないだろうな。


 この町でもビルで沈み行く太陽を見ることは出来なかったが、その橙の日の色がどことない物悲しさを感じさせる。


「ヒナ? どうしたの」


「うん? いや、どうもしないよ」


「そう、ならいいんだけど」


 楽しいのが、嬉しいのが、心の靄が晴れているのがこんなにも悩ましいとは思いもしなかった。


 これが、後の無いことだからこそ、ここまで楽しくて嬉しいことなのは知っている。知っていても、こんな日々を過ごしてしまえば、全てを終えてしまうのが惜しくなる。


 もしこんな日々が続くのであれば、また続けていたい。ずっと続けていたい。を得てしまいたくない。これが、続かないものだと知ってしまえば知ってしまうほど、続けていたい。


 終わらせたくない。


 終わりたくない。


「ヒナ、どうしたの? やっぱり何か……」


「……」


「ヒナ?」


 目の前にえーちゃんの顔が現れるた。


 気づかなかったけど、えーちゃんが話しかけてくれていたらしい。


「……ん? あ、ああ、うん、ごめん少しボーっとしていただけだから、大丈夫」


「本当に大丈夫?」


「うん、大丈夫」


「それならいいんだけど。無理はしないでね」


 心配まで描けてしまった。失敗失敗。やっぱり私は考えるのなんてあんまり向いてない。そう言うのはえーちゃんに任せた方がいい。


「そろそろチェックインの時間だから、一旦ホテルに向かおう」


「うん、分かった」


 ホテルは南口方面の駅ビルにある結構いい感じのホテルだった。


 えーちゃんはチェックインを済ませ、ルームキーを受け取った。


「うん、終わったよ。これからどうするかは置いておいて、一旦荷物だけでも置いて行こう」


「そうだね、私は服だけだけど、えーちゃんは色々持って来ているみたいだし、それがいいかも」


 部屋は二人部屋で、ちょっとグレードが高めの部屋。広い。こういったグレードの高い部屋は、二人部屋と言いながら、凄く大広い。どう考えても二人で使う物じゃないくらいに。


 あと、ベッドが凄い大きい。えーちゃんのベッドより大きい。それだけということは、これこそキングサイズだろうか。


「そろそろ晩ご飯を食べに行く?」


 大きなサイズのベッドに心躍らせていると、えーちゃんがそう提案してきた。


「ちょっと早いかもしれないけど、それもいっか」


「分かった、じゃあ、少しだけ待ってもらえる。着替えたい」


「着替えるの?」


「うん。と言ってもストッキングはいて、ジャケットを羽織るだけだから、少しだけ待って」


 今のえーちゃんの服装は生足チュニック。確かに、日が暮れて暗くなったら寒くなるだろうから、ある程度温かくしていくのはいいかもしれない。


 えーちゃんは、一旦チュニックを脱いで、黒いレースの布を取り出した。


「えーちゃんガーターのやつ使うの?」


「うん、こっちの方が大人っぽいでしょ。ただでさえ身長が低いから、こう言ったもので大人を演出するの」


「へー」


 そっか、えーちゃんそういうことしてたから、大人びて見えていたんだ……って思ったけど、えーちゃんがガーターのストッキング使っているところ見た事ないし、そういう大人なファッションというのを気にしている所も見た事が無い。


「って、そうじゃなくて、どうしたの? えーちゃんはいつも大人っぽいけど、今日はまたどうして、そんなこと気にするの?」


「まあね、そう言う日もあるってこと」


「むー、なんか誤魔化された気がする」


 そして、またそういうとこが大人らしい気もする。


「そんなことないよ」


「そんなことあるもん」


 そう軽く拗ねていると、えーちゃんの着替えは終わっていた。


「さて、待たせたね。行こっか」


 えーちゃんは先ほどまで来ていたチュニックの上からデニムのジャケットを羽織り、ガーターのストッキングをはいている。チュニックの隙間からちらちら見えるガーターの紐が大人な感じを醸し出している。


「う、うん」


 一方わたしは、適当なパーカー付きの灰色の長そでシャツと薄紫のフレアスカート。いつもの装備なんだけど、今日はなんだかえーちゃんとの装備格差が凄い。


 一緒にで歩いていておかしくないだろうか。うーん。うーん。やっぱり釣り合っていない気がする。いっそわたしもさっき買った服に着替えてしまおうか。いや、でもやっぱりそれをすると明日着る服が無くなってしまう。やはりこの格差は甘んじて受け入れるしかないようだ。


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