べリアルの転換期②

 都内中心へ向かう電車はピーク時ほどではないが、未だに混んでいる時間帯。はぐれないよに手を繋ぎながらホームで電車を待つ。次に電車が来るのは八分後。それまで。えーちゃんと特に内容も意味もない大事な会話をしながら待つ。そういった話には当然終わりはなく、話し半ばで電車がホームに到着する。


 電車に乗り込むと、ホームの人数からある程度は想像できたことだが、それなりに混んでいて手すりやつり革を使っている人も結構いる。


 私とえーちゃんはあんまり身長が高い方じゃないから、つり革に掴まろうとすると思い切り手を伸ばさないといけない。だから、電車に乗ったらどこかに背を任せるか手すりを探さないといけない。混んでるから、ドアに背を任せるのは難しいとして、手すりのところまで移動したいが、どこも二人分のスペースはない。


「陽菜は私に掴まって」


 どうしようか悩んでいると、えーちゃんがそう言って私の手を引いて手すりまで移動した。


 手を繋いでいるだけだと不安定なので、えーちゃんに言われたとおり、二の腕をを掴んで離れないようにした。


「それで、なんだっけ? マグロが大きくてベッドを占領してるんだっけ?」


 えーちゃんがそう聞いてくる。ホームで話していたことの続きだろう。マグロのぬいぐるみクッションはせっかく取ったので、一応ベッドに寝かせておいて、一緒に寝ているんだけど、それが大きいって話だったはず。


「うん、そう、あのマグロ大きくて、ベッド半分以上取ってるし、尻尾に至ってはベッドに収まりきらなくて凄くはみ出てるんだ」


 電車が動きだす頃には、取り留めのない話は再開されていた。


 乗り継ごうと何をしようと話は続く。新幹線の中で三時間は話したのに、まだ話は尽きない。えーちゃんが良く話すようになったから、話のタネの量が増えたのもあるだろうけど、新幹線の窓から見える光景も新しい話のタネを作ってくれた。後半はトンネルばっかりだったけど、トンネルを抜けたら「お、外だ」といったり、でもすぐにトンネルに入って「またトンネルだ」なんて言ったりして、結構楽しかった。


 新幹線の中は、平日なのと午前中なのもあって、在来線の車両の中と違い席はスカスカ、大体どこでも自由に席を選べる、文字通りの自由席であった。そんな新幹線の中も思い返せばほぼ一瞬だった気もする。内容が無い話をしている時間は、いつ振り返っても本当に一瞬で、大量の言葉はどこに消えてしまうのか不思議でならない。


「着いたね、陽菜」


「うん、えーちゃん」


 気温はそこまで変わらないが、なんというか雰囲気が違う。


「冬になったら凄く寒いんだろうね、今は秋だからあんまり違いはないけど」


「そうだね、スキー場とかも有名だし」


 駅の時計を見る。時間は丁度お昼時。


「何か食べて行かない? せっかくだし」


「駅で食べる? それとも外出てみる?」


 全く来たことのない場所だし、何があるか分からない。改札から出て見て、すぐ先にいくつか飲食店はあるみたいだが、いまのところ、これと言ってここらしさを感じる食べ物が無い。一応、寿司はここらしいといえば、ここらしいけれど。


「うーん、ちょっと駅の中見てみよう」


 逸れないように手を繋ぎながら駅を歩いて回って見る。駅ビルはあるがこれと言って気になる飲食店は見つからなった。緑がかったそばも少しは気になるけど、見た限りだとざるそばにしか見えないのが欠点。


「ちょっと外の方も歩いてみよっか」


「どっち行く?」


「あー、どうしようかな」


 すぐ近くにあるのは南口。だけども、反対側にも出口があるらしい。


「どうせだから、反対側に行ってみよっか、あっちにも何かあるかもしれないし」


 駅の端にある通路を通り、階段を下る。近代的で開けた雰囲気のあった南口とは違い、こちら側はどこか古さとごちゃごちゃと密集した雰囲気がある。こっちの方が、店は多そうだし、悪くないかもしれない。


「あっちの方行ってみよう」


 バス乗り場の先が気になったので、そっちの方へ向かって見ることにする。信号を渡り、向かった先には飲食店が立ち並んでいた。


「この辺りで、いい感じの店を探そう」


 そう言って歩いて、美味しそうなお店を探すが、なんとなくラーメン屋が多い気がする。ラーメンは、ここっぽくない気もするが、だいたいどこの街も探せばある店でもある。駅前だからといって、ここらしい物ばかり置くわけでもないのだろう。


 ここらしいもの自体はるのだけれども、それは日本酒で私達は飲めない。そう考えると、日本酒からラーメンの流れがこの辺りの本来の流れなのかもしれない。


 そのままもう少しだけ歩いてみると、くすんだカラフルな塔が見えてきた。


「えーちゃん、あれなんだろう」


「さあ、何だろうね」


「せっかくだし、観光のつもりで行ってみない?」


「いいよ、あれが何なのか気になるしね」


 そこからさらに少し歩いて、着いた先はバス乗り場だった。


「この上にあるみたいだけど、行ってみよっか」


 階段を上り、上に出る。そこは小さな広場になっていた。


「うーん、これ、展望台らしいけど、もう乗れないみたいだね」


 いつの間にか、スマホと睨めっこしていたえーちゃんがそう言った。


「展望台?」


「うん、あの輪っかが本当は動くらしいんだけど、もう動させないんだって」


「へー、あれ展望台だったんだ……乗れないの少し残念」


「まぁ、止まったの大分前だったから、どっちにせよ私たちは乗る機会なかったかもね」


 それは残念な話だが、でも、代わりに得られるものもある。


「この辺りもいろいろあるね」


 周りには飲食店が数多くあった。


 とりあえずぐるりと回って見て、スープのお店もいいとは思うが、気になったのは焼きそばにトマトソースをかけた料理。これは多分ここらしいといえるはず。


 とりあえず一つ買って、えーちゃんと分けて食べることに。


 発泡スチロールの皿の蓋をあけ、プラスチックのフォークで口へ運ぶ。


 味自体はあまり創造から大きく外れない。美味しいは美味しんだけど、これぞB級グルメって感じがする。


 二人でつついているあっという間に食べ終わった。


「もうちょっと食べたいな」


「もう一つ買う?」


 もう一つ、別のソースのほうを食べてもいいんだけど、それもなんか違う気がする。せっかくだから別の物を食べたい。


「いや、別のを食べよう」


 店を出て、外の広場に戻り、下に降りる。


「何食べようかなぁ」


「さっき、この展望台のこと調べた時に一緒に出て来たんだけど、ここの一階のカレーが有名みたいだよ」


「え、そうなの?」


「ここに住んで居る訳でもないし、詳しくは知らないから、らしいとしか言えないんだけど」


 ただのバス乗り場にしか思えないんだけど、そう言われる時になってくる。覗いて見てみよう。


 見たところ、カレー屋さんは内容だが、ソバ屋さんのところにカレーの張り紙がされている。やっぱり有名なのだろうか。


 立ち食いソバ屋ではだいたいこうだが、ここでも券売機で券を買ってそれを渡すシステムのようだ。


 迷わずカレーを選択。それをそのまま、持っていき店員さんに渡す。そうすると、すぐにカレーが出てきた。


 渡されたカレーは、茶色というより黄色という感じの色がしていた。


 えーちゃんの立つ場所まで持っていく。


「黄色いね」


「うん、黄色い」


 やっぱりまずはそれ。色が黄色い。


「じゃあ、食べよう」


「私は一口だけでいいかな。さっきのでも結構満足だから。味見程度で」


「じゃあ、先に食べていいよ」


 皿をえーちゃんの方へよせる。


「それじゃあ、いただきます」


 えーちゃんは寄せられた皿にあるスプーンを掴み、ご飯とカレーで分けられていない黄色い皿に浅く通して、それを口に運んだ。


「へー……なるほどね」


「え? どうだったの? 美味しかった?」


「うん、美味しいよ」


「ほんと!?」


 返された皿に渡されたスプーンを深く差し込み、掬い上げたそれを口に運んだ。


 コクがあって結構おいしい。そして、柔らかい色しているくせに結構辛い。


 こんなカレー食べたことないし、そんなに長生きしている訳じゃないのに、懐かしいと感じる味がする。


 こういうものはある。全然若いのに、なぜか懐かしいと感じるそんな食べ物が。そして、これはそう言ったものだ。


 えーちゃんを待たせるのも悪いし、出来るだけ急いでカレーを食べる。


「ごちそうさま」


 皿を返し、えーちゃんの元へ戻る。


「ごめんね、待たせっちゃったね」


「ううん、気にしないで」


 二人で、バス乗り場を出た。


「これからどうする?」


「そうだね、服でも買う?」


「そう言えば、そんな話もしてたね。マグロ取ったこととか、キスしたこととかで印象薄いけど」


 そう言えば明日着る用の服持って来ていないし丁度いいかもしれない。


「じゃあ、そうする」


 幸いそう言った店はまわりにいっぱいある。


 服を買うには困らなそうだ。

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